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『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


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アステリアの青年

第4話


「アステリアの青年」


 惑星ルミナス宇宙港に、古い記録映像が届いた。


 発信元は、惑星アステリア。


 ミラは端末を握りしめた。


「アステリア……」


 ヒカリが横から顔を出す。


「ついに来たばい。百光年先の大阪弁男子、映像デビュー」


 ユウもそっと覗き込む。


「声だけだった人が、少し近くなるね」


 映像が再生された。


 ノイズ。


 ちらつく画面。


 そして、青紫の空。


 空には巨大なリングがかかっていた。


 惑星アステリア。


 地平線の向こうに、薄い光の輪が何重にも重なっている。


 その下に、青年が立っていた。


 黒髪。


 観測士の制服。


 少し眠そうな目。


 でも、口を開いた瞬間――


『いやぁ、聞こえてますかね? こちらアステリア観測局のアレン・レイフォードです。今日も観測機が言うこと聞きません! もう機械にも反抗期あるんか思いましたわ!』


 ヒカリが吹き出した。


「しゃべりの圧が強い!」


 ユウが目を丸くする。


「なんか、ずっとツッコミながら生きとる感じやね」


 ミラは思わず笑った。


「声だけ聞いた時より、めっちゃようしゃべる人やん」


 映像の中のアレンは、止まらない。


『ほんでね、アステリアにはスポーツ好きが多いんですわ。旧地球文化の影響で、阪神タイガース、オリックス・バファローズ、セレッソ大阪、ガンバ大阪のファンがめちゃくちゃ多いんです』


 画面の後ろで、誰かが叫んだ。


『アレン! 阪神の旗、画面に入れろや!』


『いや入れたら観測記録やなくて応援番組になりますやん!』


 また別の声。


『オリックスも忘れんな!』


『忘れてへん! そっちは今、観測ドームの冷蔵庫にステッカー貼りすぎや!』


 ヒカリは腹を抱えた。


「アステリア、思ったより大阪やん!」


 ユウが真面目に言う。


「星ごと関西圏みたい」


 ミラは画面を見つめていた。


 アレンは照れくさそうに笑いながら、リングの空を指さす。


『この輪っか、見えるでしょ。これ、アステリアの自慢です。夜になると、街全体が銀色に光るんですわ。せやけどな、観測局の先輩らはロマンチックな空見ながら、だいたい野球の勝ち負けで揉めてます』


 ヒカリがうなずく。


「わかる。人間、星空より贔屓チームたい」


 ミラがツッコむ。


「わからんでよか」


 映像の中で、アレンは少しだけ声を落とした。


『でも、もしこの映像がどこか遠い星に届いたら……その人に聞いてみたいです。そっちの空は、どんな色ですか。夜は、暗いですか。誰かと笑えてますか』


 ミラの胸が、すっと静かになった。


 さっきまでの勢いのある喋り声。


 大阪弁の軽さ。


 スポーツネタ。


 その奥に、ぽつんと置かれた寂しさのようなものがあった。


 ミラは小さくつぶやいた。


「……笑えとるよ」


 ヒカリが、ミラの顔を見た。


「乙女モード、再起動」


「うるさい」


 ユウは優しく笑った。


「でも、ちょっと近くなったね」


 画面の中のアレンは、最後に手を振った。


『ほな、また。アステリア観測局、アレン・レイフォードでした。ちなみに今日の晩飯はカレー再挑戦です。焦げたらすんません』


 映像終了。


 ミラはしばらく画面を見つめた。


 声だけだった人に、顔がついた。


 顔だけだった人に、空がついた。


 空だけだった星に、暮らしがついた。


 百光年先。


 まだ遠い。


 でも、昨日より少しだけ近い。


 ヒカリが立ち上がった。


「よし。うちらも記録映像送ろう」


 ミラが嫌な予感を覚えた。


「何する気?」


 ヒカリは胸を張った。


「惑星ルミナス代表として、三つの月、洗濯機の海、そして博多弁三姉妹の爆笑宇宙漫才ば送る」


 ユウが手を挙げる。


「カレーへの応援メッセージも入れよう」


 ミラは顔を押さえた。


「絶対まともな映像にならん」


 ヒカリはにやりと笑った。


「まともな映像が百光年飛んでも、つまらんやろ」


 ミラはもう一度、アレンの映像を見た。


 リングの空。


 大阪弁の青年。


 スポーツ好きな街。


 そして、カレーを焦がす観測士。


 ミラは少し笑った。


「……まあ、うちららしく送ればよかね」


 その瞬間、ヒカリが叫んだ。


「よっしゃ! ルミナス三姉妹、銀河デビューたい!」


 ユウが小さく拍手した。


「タイトルは?」


 ヒカリは即答した。


「三つの月と洗濯槽」


 ミラは即座に言った。


「却下」


次回予告


 アステリアの青年アレンを知ったミラ。


 今度はルミナスから記録映像を送ることに。


 しかしヒカリが監督を名乗り、ユウが音楽担当になったことで、映像はどんどん謎の方向へ進んでいく。


 次回、


第5話


「三つの月と洗濯槽」


 これは紹介映像か、それとも宇宙漫才か。

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