命令と本音のあいだ
第22話
「命令と本音のあいだ」
ノクティア共和国政府からの命令は、旗艦に重く届いた。
『艦隊は前進せよ』
『アステリアへの圧力を維持せよ』
『兵士の動揺を許すな』
艦長ヴォルグは命令書を見つめたまま動かなかった。
副艦長リーナが聞く。
「艦長」
「……うむ」
「どうしますか」
艦長は深いため息をついた。
「難しい質問だな」
「命令違反になります」
「わかっている」
少し沈黙。
そして艦長はぽつりと言った。
「だがな」
「はい」
「あの三姉妹の極上スーパーコチョコチョというやつも気になる」
副艦長リーナが吹き出した。
「艦長!」
「いや、気にならんか?」
「気になります」
「だろう」
休憩室で聞いていた兵士たち。
一斉にうなずく。
「気になります」
「めっちゃ気になります」
「艦長、自分だけ体験しようとしてません?」
「公平性のため全員参加や」
「何の公平性ですか」
艦内は爆笑になった。
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一方。
アステリア。
リング観測ツアー。
ミラとアレンは、小型観測艇に乗っていた。
周囲には誰もいない。
見えるのはリングだけ。
静かな宇宙。
アレンが少し緊張しながら言う。
「……きれいやろ」
「うん」
ミラは窓の外を見た。
「写真で見るよりずっと」
「実物は反則や」
「それ、リングのこと?」
「いや」
ミラが振り返る。
アレンも真っ赤。
「ミラさんのこと」
数秒停止。
ミラの顔が完熟トマト化した。
「そ、それ反則たい!」
「言うてもうた」
「言うたね」
二人とも真っ赤。
観測艇の自動操縦AIが突然言った。
『搭乗者の心拍数上昇を確認』
「黙っとって!」
二人同時だった。
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その頃。
ヒカリ。
税関職員の青年・ケンジと宇宙港のカフェにいた。
「平和になったら何したい?」
ケンジが聞く。
ヒカリは即答した。
「漫才大会」
「デートやないんや」
「そのあとデート」
「順番逆やろ」
ヒカリは真顔になった。
「いや、ツッコミの相性確認は大事たい」
ケンジは笑った。
「それは否定できへん」
ヒカリの心臓が跳ねた。
そして税関職員も実は同じだった。
⸻
一方。
ユウ。
案内スタッフの青年・ソウタとリング公園を歩いていた。
「迷子にならんように気を付けてね」
ソウタが笑う。
ユウは少し頬を膨らませる。
「もうなりません」
「ほんま?」
「たぶん」
「信用できへんな」
二人で笑う。
ユウは思った。
こんな風に自然に笑える人がいるんだ。
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その夜。
三姉妹はアレン一家と夕食を囲んでいた。
お好み焼きリベンジの日である。
今回は完璧だった。
水も適量。
粉も適量。
青のりも正常。
エレナがうなずく。
「合格」
アレンがガッツポーズ。
「やった!」
その瞬間。
通信警報が鳴った。
観測局からの緊急連絡。
『ノクティア艦隊、再度進路変更』
食卓が静まる。
アレンは端末を見る。
「前進命令が出たか」
ミラの表情も引き締まった。
楽しい時間は終わらない。
けれど、現実も消えない。
⸻
その頃。
旗艦。
艦長ヴォルグは窓の外を見ていた。
アステリアのリング。
遠くに見える美しい光。
そして端末には、三姉妹の映像。
艦長は小さくつぶやいた。
「命令か……本音か……」
副艦長リーナが横に立つ。
「どちらを選びますか」
艦長は答えなかった。
だが。
その表情は、以前とは明らかに違っていた。
敵を見る顔ではなく。
人を見る顔だった。
⸻
次回予告
ノクティア艦隊に下された前進命令。
だが兵士たちの迷いは限界に達しつつあった。
アステリアでは市民たちも立ち上がり、リングの空を守ろうとする。
一方、ミラとアレンの距離はさらに縮まり、ヒカリとケンジ、ユウとソウタも急接近。
そしてついに、ノクティア艦隊内部から予想外の行動を起こす者が現れる。
次回、
第23話
「撃てない理由」
相手の顔を知ってしまった時、引き金は重くなる。




