笑った兵士の迷い
第20話
「笑った兵士の迷い」
ノクティア艦隊旗艦では、奇妙な沈黙が続いていた。
スーパーコチョコチョ作戦の後遺症である。
医務室には、腹筋痛を訴える兵士が続出。
艦内掲示板には、匿名でこんな投稿まで流れていた。
「笑いによる精神攻撃、想像以上に強力」
「星野家の父ちゃん、兵器級」
「ヒカリさんのボケ、直撃した」
若い兵士の一人、カイルは休憩室で映像を見返していた。
画面には、星野三姉妹。
ミラ。
ヒカリ。
ユウ。
カイルはぼそっと言った。
「……あの三姉妹、めっちゃ美人やん」
隣の兵士が吹き出す。
「そこかい!」
「いや、だってさ。笑わせてくるし、かわいいし、度胸あるし……公開ラブレター送りたい」
「敵対中やぞ」
「敵対中でも恋は中立やろ」
「名言みたいに言うな」
そこへ副艦長リーナが通りかかる。
「何を見ている」
カイルは慌てて敬礼した。
「戦術資料です!」
画面ではヒカリが言っていた。
『腹筋保護のため、艦艇を帰しなさい!』
リーナは無表情で言った。
「……戦術資料ではあるな」
カイルは恐る恐る聞く。
「副艦長、あの三姉妹って、本当に敵なんですか?」
リーナは答えなかった。
しばらく映像を見つめる。
「少なくとも、笑っている人間を撃ちたいとは思わない」
カイルは目を伏せた。
「ですよね」
艦隊の中で、少しずつ迷いが広がっていた。
アステリアは敵。
そう教えられてきた。
だが画面の向こうには、怒鳴る市民だけでなく、笑う人々がいた。
台所があり、家族があり、恋で真っ赤になる三姉妹がいた。
その夜。
カイルは匿名通信で短いメッセージを書いた。
「星野三姉妹へ。敵として見ていたけど、笑ってしまいました。あなたたちは美人で、強くて、変です。公開ラブレターを送りたいくらいです。でも今は、撃ちたくないという気持ちの方が大きいです」
送信ボタンの前で、手が止まる。
彼は深呼吸した。
「……これ、軍規違反やな」
それでも送った。
その頃、アステリア。
ミラとアレンは、観測局の屋上にいた。
リングの空は、少しだけ静かだった。
「きれいやね」
ミラが言う。
アレンは横顔を見ながら答える。
「うん。艦影がなかったら、もっときれいや」
ミラは少し黙った。
「怖くない?」
「怖いよ」
アレンは正直に言った。
「でも、ミラさんたちが来てから、ちょっとだけ変わった。怖いだけやなくて、笑える時間もある」
ミラの顔が赤くなる。
「うちら、騒がしいだけやけど」
「それがええんやと思う」
アレンは少し照れた。
「百光年先から来た人が、目の前で笑ってる。なんか、それだけで、まだ終わってへんって思える」
ミラはリングの空を見上げた。
「うちも、会えてよかった」
その一言に、アレンの顔も赤くなった。
同じ頃、ルミナスの通信局に、ノクティア艦隊からの匿名メッセージが届いた。
ヒカリが読み上げる。
「星野三姉妹へ。敵として見ていたけど、笑ってしまいました。あなたたちは美人で、強くて、変です……」
ユウが首を傾げる。
「変?」
ミラが苦笑する。
「そこだけ引っかかるね」
ヒカリは先を読む。
「公開ラブレターを送りたいくらいです。でも今は、撃ちたくないという気持ちの方が大きいです」
スタジオが静かになった。
ヒカリは画面を見つめた。
「……届いとるやん」
ユウが小さくうなずいた。
「笑いが」
ミラは胸に手を当てた。
「敵って呼ばれた人の中にも、迷ってる人がいるんやね」
ヒカリは、少しだけ照れ隠しのように言った。
「でも公開ラブレターは困るたい。こっちはこっちで恋愛事故処理中やけん」
ユウが笑った。
「三姉妹全員、処理能力超えとるね」
ミラは真っ赤になった。
「言わんで!」
だが、その笑いの中に、確かな希望があった。
敵と呼ばれた相手にも、笑う心がある。
ならば、まだ完全には壊れていない。
まだ、話せる可能性がある。
まだ、止められるかもしれない。
次回予告
ノクティア艦隊内に広がる迷い。
匿名のメッセージは、ルミナスとアステリアの人々に小さな希望を与える。
しかしノクティア政府は、兵士たちの動揺を察知し、艦内統制を強化。
一方、ミラとアレンの距離は少しずつ近づいていく。
次回、
第21話
「恋は中立、笑いは越境」
国境線を越えられなくても、心は勝手に飛び越える。




