↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/21

惑星ルミナスの三姉妹

第2話


「惑星ルミナスの三姉妹」


 ミラは、一生懸命返信を書いていた。


 場所は惑星ルミナス宇宙港。


 朝の第三区画ベンチ。


 目の前では、父・航平の貨物船《ブルー・ガル号》が積み込み作業中。


 背後では旅客シャトルの案内放送。


 横では、妹二人。


 そしてミラの端末画面には、百光年先の青年――アレン・レイフォードへの返信文。


「惑星アステリアのアレンさんへ。こちらは惑星ルミナス、星野ミラです。あなたの通信を受信しました。えっと……カレーの件は……」


 ミラはそこで止まった。


 ヒカリが覗き込む。


「そこ大事たい。カレー焦がした男の心に寄り添わな」


 ユウも真顔でうなずく。


「まずは『ご愁傷さまです』やね」


「カレー葬式にせんでよか!」


 ミラは画面を消した。


 また開いた。


 書いた。


 消した。


 また書いた。


 消した。


 ヒカリが腕を組む。


「姉ちゃん、その返信、熟成させすぎやない?」


「熟成?」


 ユウが笑いをこらえる。


「ヒカリ姉ちゃん、また変な例え始まった」


 ヒカリは堂々と言った。


「今のミラ姉ちゃんは青トマトたい」


「は?」


「まだ返事を書く覚悟が熟れとらん」


 ミラが顔をしかめる。


「誰が青トマトね」


 ユウも乗っかった。


「でも、返信画面見て顔赤くなっとるけん、だいぶ完熟に近づいとるよ」


「近づいとらん!」


 ヒカリは胸を張った。


「大丈夫たい。あと三日もしたら真っ赤な完熟トマトになって、『アレンさーん! うち、聞いとるけーん!』って送信しよる」


「せん!」


「する」


「しとる顔」


「してない!」


 そこへ、父・航平の大声が飛んできた。


「おーい、ミラ! 返信はできたとか!」


 宇宙港中に響いた。


 ミラは顔を真っ赤にする。


「父ちゃん、声でかい!」


 近くの作業員が笑う。


「今の声なら、百光年先にも届くっちゃない?」


 ヒカリが指を鳴らした。


「それたい! 通信設備いらんやん。父ちゃんが叫べばアステリアまで届く!」


 ユウが冷静に言う。


「届いても内容が『晩ごはん何?』になりそう」


 母・美咲が病院へ向かう途中で立ち止まった。


「ミラ。最初の返信は大事よ。落ち着いて書きなさい」


「うん」


「あとヒカリ。邪魔しない」


「まだしとらん」


「これからする顔をしてる」


「お母さん、予知能力あると?」


「あなたを二十年見てます」


 ヒカリは黙った。


 だが数秒後、また口を開いた。


「お母さん、ミラ姉ちゃん完熟トマトになりかけとる」


 美咲はミラの顔を見た。


 そして静かに言った。


「完熟するのはいいけど、腐ったらだめよ」


 ヒカリとユウが爆笑した。


「お母さん強すぎる!」


「完熟通り越して廃棄処分たい!」


「やめて!」


 ミラは端末を抱え込んだ。


 その時だった。


 宇宙港の案内放送が鳴った。


『第七ゲートより、惑星ヴェルナ行き商業シャトルが出発します』


 普通なら、それで終わるはずだった。


 だが次の瞬間。


 案内放送の声が、ヒカリの声に変わった。


『なお、星野ミラさんが百光年先の大阪弁男子に返信中です。港内の皆様、温かく見守ってください』


 ミラが固まった。


 ユウが固まった。


 航平が吹き出した。


 美咲が目を細めた。


「ヒカリ」


 案内放送室の窓から、ヒカリが親指を立てていた。


『恋は通信速度やなか! 火力たい! そしてミラ姉ちゃんは現在、青トマトから完熟トマトへ進化中です!』


「ヒカリーーー!」


 ミラの叫びが宇宙港に響いた。


 だが、港の人々は笑っていた。


 作業員も。


 乗客も。


 観光客も。


 潮流観測ドローンの整備士まで、肩を震わせていた。


 ミラは恥ずかしさで燃え尽きそうになりながら、それでも端末を見つめた。


 アレンの声が、まだ耳に残っていた。


『星の向こうに誰かがおると思ったら、ちょっと気が楽になるんです』


 ミラは、深呼吸した。


 そして録音ボタンを押した。


「アレンさんへ。さっきの案内放送は忘れてください」


 後ろでヒカリが小声で言う。


「忘れられんやろ」


 ユウが口を押さえて笑う。


 ミラは咳払いした。


「こちらは惑星ルミナス。星野ミラです。あなたの声、ちゃんと聞こえました」


 少し間を置く。


「うちの星は、月が三つあります。だから、夜でもなかなか真っ暗になりません。海は三つの月に引っぱられて、潮の満ち引きが洗濯機みたいです」


 ミラは、港の方を見た。


 父の貨物船。


 母の白衣。


 笑っている妹たち。


「家族はうるさいです。妹はもっと騒がしいです。父ちゃんは声が大きすぎます」


「おい!」


「でも、ここがうちの大事な場所です」


 ミラの声が少しだけ柔らかくなる。


「あなたの星、アステリアはどんなところですか。夜は暗いですか。海は静かですか。カレーは次、焦がさんで済みそうですか」


 ヒカリが腹を抱える。


「最後カレーに戻った!」


 ユウも笑う。


 ミラは微笑んだ。


「よかったら、また送ってください。うちは聞いとるけん」


 送信。


 その小さな信号は、惑星ルミナスの空へ上がっていった。


 三つの月の残る朝空を抜けて。


 洗濯機みたいにうねる海を見下ろして。


 百光年先の惑星アステリアへ向かって。


 返事が来るのは、ずっと先。


 もしかすると、自分がこの返事を書いたことさえ忘れかけた頃かもしれない。


 それでもミラの胸には、確かに小さな灯りがともっていた。


 遠い星に、誰かがいる。


 そして自分は、その誰かに言葉を送った。


 ヒカリがにやりと笑う。


「ミラ姉ちゃん」


「何」


「完熟した?」


 ミラは真っ赤になって叫んだ。


「まだ青トマトたい!」


 宇宙港に、また笑い声が広がった。


次回予告


 ミラの返信は、百光年先へ旅立った。


 だが、返事が届くまでには長い時間がかかる。


 待つことの意味をまだ知らない三姉妹。


 そんな中、ヒカリは勝手に「宇宙恋愛応援団」を結成し、ユウまで巻き込まれていく。


 次回、


第3話


「宇宙船より遅い恋」


 百光年の恋は、まだ既読すらつかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白さとエモさでほんとに涙出た
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。