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『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


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恋と艦隊と粉もんと

第18話


「恋と艦隊と粉もんと」


 アレンの家での挨拶は、開始三分で崩壊した。


 エレナがミラを見る。


「まあまあ、遠いところからよう来たなぁ。あんたがミラちゃんか」


「は、はい。星野ミラです」


 アレンが横で照れている。


 リリィが即座に言った。


「兄ちゃん、顔赤いで」


「赤くない」


 ヒカリがミラを見る。


「ミラ姉ちゃんも完熟トマトたい」


「言わんで!」


 エレナが笑った。


「ほな今日は、お好み焼きリベンジやな」


 ミラは真剣にうなずいた。


「水は測りましょう」


 アレンが胸を張る。


「今日は測る」


 ダニエルがぼそっと言った。


「歴史的進歩や」


 その時、外の警報が鳴った。


 リングポート全域に、低い警戒音が響く。


『ノクティア艦隊、境界線付近に再接近』


 空気が一瞬で変わった。


 アレンは窓の外を見る。


「またか……」


 ミラも拳を握った。


 だが、ヒカリが一歩前に出た。


「行こう」


「どこに?」


「和平交渉たい」


 ユウが目を丸くする。


「今から?」


「今から」


 ヒカリは胸を張った。


「うちらのギャグに耐えられへんかったら、艦艇を帰しなさい作戦たい」


 アレンが固まった。


「それ、交渉なん?」


 ヒカリは即答した。


「文化外交たい」


 こうして、リングポート宇宙港の特設通信ホールから、ノクティア艦隊へ向けた公開通信が行われることになった。


 画面の向こうには、ノクティア艦隊の司令官たち。


 硬い顔。


 冷たい制服。


 重苦しい空気。


 ヒカリはマイクを握った。


「ノクティア艦隊の皆さん。こちら惑星ルミナス三姉妹です」


 ミラが続く。


「まず、艦艇を帰してください」


 ユウが静かに言う。


「この空に艦隊は似合いません」


 司令官は冷たく返した。


『我々の行動は主権に基づく正当なものだ』


 ヒカリがにやっと笑った。


「では、こちらも正当な文化交流を始めます」


『何?』


「題して――恋愛爆笑ギャグコント、百光年越しのはじめまして」


 ミラが固まった。


「聞いてない!」


 ヒカリは止まらない。


「第一幕。ミラ姉ちゃん、アレンさんに初対面で目がハート事件」


 ミラが真っ赤になる。


「やめて!」


 アレンも赤くなる。


「俺も巻き込まれてるやん!」


 ユウが淡々とナレーションする。


「星野ミラ、百光年越しに初対面。第一声、心の中で『うわ〜イケメンやん』」


「ユウまで!」


 画面の向こうの艦隊員が一人、肩を震わせた。


 ヒカリは見逃さない。


「今、笑いましたね?」


『わ、笑っていない』


「第二幕。ヒカリ、税関職員のツッコミに恋をする」


 ヒカリが自分で胸を押さえた。


「和平交渉用ギャグは危険物ですか? と聞かれ、うちは答えた。使い方によっては腹筋に被害が出ます!」


 通信ホールのアステリア側スタッフが吹き出す。


 ヒカリは畳みかける。


「税関職員さん、あかん、俺明日整骨院行くさかい、有給取るわ!」


 艦隊側の若い兵士が噴き出した。


『ぶっ』


 司令官が睨む。


『笑うな!』


 ユウがすっと前に出る。


「第三幕。ユウ、迷子になって案内スタッフに目がハート事件」


 ミラが小声で言う。


「ユウ、自分もやると?」


「平等やけん」


 ユウは真顔で言った。


「お姉ちゃんどこ〜? と迷子になった私を、優しい案内スタッフさんが救ってくれました」


 ヒカリが合いの手を入れる。


「その瞬間、ユウの心にリングがかかりました!」


 ユウが頬を赤くする。


「そこまで言わんで」


 艦隊側で、今度は複数人が笑った。


『くくっ』


『やめろ、笑うな』


『無理です司令官、これは不意打ちです』


 ヒカリは勝利を確信した顔になった。


「では最終幕。アレンさんのお好み焼き水没事件」


 アレンが叫ぶ。


「それ和平関係ある?」


 エレナが後ろから言った。


「ある。あれは国際的に反省すべき失敗や」


 ダニエルがうなずく。


「粉もん外交の基本やな」


 リリィが言う。


「兄ちゃん、ちゃんと水測り」


 ヒカリが映像を流した。


 水を入れすぎるアレン。


 小麦粉が少なすぎるアレン。


 重曹を忘れるアレン。


 フライパンいっぱいに広がる謎の液体。


 エレナの一言。


『失敗作や』


 その瞬間、ノクティア艦隊の通信画面が崩壊した。


『ぶはっ!』


『あかん!』


『なんやこれ!』


『お好み焼きやなくて湿地帯やん!』


 司令官まで口元を押さえている。


『……静粛に』


 だが、もう遅かった。


 艦隊の各艦から笑い声が漏れ始める。


『これ以上笑ったら、わいらの腹筋死亡するわ!』


『医務室、腹筋痛で搬送準備!』


『司令官、撤退しましょう! 笑いの追加攻撃に耐えられません!』


 ヒカリが決め台詞を放った。


「では、腹筋保護のため、艦艇を帰しなさい!」


 沈黙。


 数秒後。


 ノクティア艦隊司令官は、苦々しい顔で言った。


『……一時後退する』


 通信ホールに、どよめきが起きた。


 もちろん、それは完全な和平ではない。


 本格的な対立は、まだ終わっていない。


 だが、艦隊は境界線から少しだけ後退した。


 怒りと恐怖で張りつめていた空気が、わずかに緩んだ。


 ミラはヒカリを見た。


「ほんとに、ギャグで下げた……」


 ヒカリは胸を張った。


「言ったやろ。文化外交たい」


 ユウは静かに笑った。


「腹筋停戦」


 アレンは頭を抱えながらも、笑っていた。


「俺のお好み焼き失敗が銀河を救いかけてる……」


 エレナが即座に言った。


「失敗も使い道あるやん」


 その夜。


 リングの空には、まだ艦影の気配が残っていた。


 でも、少しだけ遠ざかった。


 笑いで戦争が終わるわけではない。


 それでも、笑いが引き金から指を離させることはある。


 ミラはアレンの横に立ち、リングの空を見上げた。


「今日、少しだけ守れたね」


 アレンはうなずいた。


「うん。お好み焼きは守れへんかったけど」


 ミラは吹き出した。


 その笑い声が、リングの空へ溶けていった。


次回予告


 ノクティア艦隊は一時後退した。


 だが、それはあくまで一時的なものだった。


 政府中枢は「笑いによる屈辱」と受け止め、さらに強硬派が勢いを増す。


 一方、アステリアでは三姉妹のギャグ外交が大反響。


 ミラ、ヒカリ、ユウの恋愛事故も、なぜか市民に広まり始める。


 次回、


第19話


「腹筋停戦の代償」


 笑いで退いた艦隊は、怒りを抱えて戻ってくる。

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