百光年越しのはじめまして
第17話
「百光年越しのはじめまして」
リングポート宇宙港に、ルミナスからの星間シャトルが到着した。
透明なドーム越しに見える空には、巨大なリングが銀色に輝いている。
ミラは窓に張りついた。
「……ほんとに、リングの空や」
ヒカリも目を輝かせる。
「うわ、すごか! これ、観光パンフより本物の方が強いばい!」
ユウは荷物を抱えながら、ぼそっと言った。
「お姉ちゃんたち、早く降りんと後ろ詰まっとるよ」
こうして、星野家三姉妹は、初めて惑星アステリアの地に降り立った。
だが、入国審査でさっそく事件は起きた。
税関職員の青年が、三人の荷物を確認する。
「えーっと、申告するもんありますか?」
ヒカリが胸を張った。
「あります」
「何です?」
「和平交渉用のギャグです」
職員は一瞬止まった。
「……それ、危険物ですか?」
「使い方によっては腹筋に被害が出ます」
「ほな危険物やないか!」
ヒカリは即座に乗った。
「でも殺傷能力はありません。せいぜい笑いすぎて椅子から落ちるくらいです」
「それ労災案件や!」
その瞬間、税関職員は噴き出した。
ヒカリは止まらない。
「あと、父ちゃん特製二十人前弁当があります」
「なんで二十人前持ってきたんですか」
「父の愛が過積載です」
「あかん、もう無理や!」
税関職員は腹を抱えて笑い、カウンターに突っ伏した。
「ちょ、待って……腹筋が……」
ヒカリは心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ちゃうわ……俺、明日整骨院行くさかい、有給取るわ……」
ヒカリの顔が、すっと赤くなった。
「……ツッコミ、キレッキレやん」
ミラが横で固まる。
「ヒカリ?」
ユウが小声で言う。
「目がハートになっとる」
税関職員もヒカリを見て、少し照れた。
「いや、そっちこそボケの反射神経すごいな」
ヒカリは完全に撃ち抜かれた。
「……アステリア、恐ろしか星たい」
一方その頃、ユウは迷子になっていた。
「お姉ちゃんどこ〜?」
広すぎるリングポート宇宙港。
案内表示は多い。
でも、通路も多い。
人も多い。
ユウは完全に別方向へ進んでいた。
そこへ、穏やかな声がかかる。
「迷ってるん?」
振り返ると、背の高い青年が立っていた。
黒髪に優しい目。
宇宙港の案内スタッフの制服。
「えっと……姉たちと、はぐれました」
「ほな、案内するわ。どのゲート?」
「到着ゲートB-7です」
「それ、今おる場所から真逆やね」
「え」
青年はにこっと笑った。
「大丈夫。こっちや」
ユウはついていきながら、顔が赤くなった。
「……親切」
「仕事やからね」
「声も優しい」
「え?」
「いえ、何でもなかです」
ユウの目も、しっかりハートになっていた。
そしてミラ。
ミラは到着ロビーで、完全に固まっていた。
目の前に、アレン・レイフォードが立っていたからだ。
映像で見た人。
声で知った人。
お好み焼きを水没させた人。
パンを焦がした人。
でも今、目の前にいる。
実物のアレンは、思っていたより背が高く、少し照れたように笑っていた。
「……ミラさん?」
ミラは口を開けたまま固まる。
「……」
「えっと、百光年越しの、はじめまして?」
ミラの脳内で何かが爆発した。
うわ〜。
イケメンやん。
声もそのままやん。
大阪弁やん。
ほんとにおるやん。
アレンが心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?」
ミラは真っ赤になった。
「だ、大丈夫たい!」
ヒカリが戻ってきて、即座に見抜いた。
「ミラ姉ちゃん、目がハート」
「なっとらん!」
その後ろから、案内スタッフに連れられてユウも戻ってきた。
「お姉ちゃん、ただいま」
ヒカリがユウを見る。
「あんたも目がハートやん」
「ヒカリ姉ちゃんもやん」
「否定できん」
ミラは顔を覆った。
「アステリア到着初日で、三姉妹全員これ?」
すぐにルミナスへ通信が入れられた。
画面に父・航平と母・美咲が映る。
「無事着いたとか?」
ミラがぎこちなく答える。
「うん」
ヒカリが小声で言う。
「税関職員さん、ツッコミ上手やった」
ユウも小声で言う。
「案内スタッフさん、優しかった」
ミラはさらに小声で。
「アレンさん、イケメンやった」
数秒の沈黙。
航平が叫んだ。
「お前ら何しに行っとんじゃ!」
美咲は額を押さえた。
「和平交渉の前に、三姉妹全員が恋愛事故起こしてどうするの」
画面越しに、ルミナスのリビングが沈黙した。
そして航平がぼそっと言った。
「……父ちゃん、胃が痛か」
アレンは苦笑しながら、ミラたちを見た。
「えっと……とりあえず、うちへ来ます?」
ヒカリが即答する。
「行きます!」
ユウも頷く。
「行きます」
ミラは顔を真っ赤にしたまま、小さく言った。
「……お願いします」
百光年越しのはじめまして。
それは感動の再会であり、同時に三姉妹全員の恋愛事故発生日でもあった。
次回予告
アステリア到着早々、三姉妹はそれぞれ恋愛事故を起こす。
ミラはアレンの家へ招かれ、ついにエレナとダニエル、リリィと対面。
ヒカリは税関職員の鋭いツッコミが忘れられず、ユウは案内スタッフの優しさに心を持っていかれる。
しかしその裏で、ノクティア艦隊はさらに境界線へ接近していた。
次回、
第18話
「恋と艦隊と粉もんと」
胸は高鳴る。空は揺れる。お好み焼きは、今度こそ固まるのか。




