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『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


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凍える食卓へ

第16話

「凍える食卓へ」


 ノクティア共和国の冬は厳しかった。


 凍りつく港。


 雪に埋もれる道路。


 燃料不足で暖房を切った家も少なくない。


 そして政府は、戦争を望まない声を「裏切り」と呼び始めていた。


『国益を損なう発言は許されない』


『国家のために団結せよ』


『外部勢力の宣伝に惑わされるな』


 テレビも。


 ネットも。


 政府系メディアは同じ言葉を繰り返す。


 だが、小さな食堂。


 漁港の倉庫。


 農業ドーム。


 そうした場所では別の声が生まれ始めていた。


「ほんまに戦争せなあかんのか」


「アステリアの人らも同じ人間やろ」


「寒いからって、よその家から奪う理由にはならん」


 小さな声だった。


 だが確実に増えていた。


 その頃、ルミナス。


 首相・大倉真帆は異例の演説を行った。


 相手はノクティア政府ではない。


 ノクティア市民だった。


「ノクティアで暮らす皆さんへ」


 その言葉から始まった。


「私たちは皆さんを敵だとは思っていません」


 会見場が静まり返る。


「寒い冬を生きる苦しさも、燃料不足の不安も、私たちは理解しようとしています」


「だからこそ言います」


「皆さんの食卓を守るために、他の誰かの食卓を壊してはいけません」


 その演説は銀河中に配信された。


 ノクティア政府は激しく反発した。


 だが、市民の中には涙を流しながら聞く人もいた。


 一方。


 星野家。


 リビングでは大事件が起きていた。


「アステリア行くばい」


 ヒカリが突然言った。


 沈黙。


 五秒。


 十秒。


 ミラが聞き返した。


「……何て?」


「アステリア行く」


「百光年先やよ?」


「中継ゲート使えば行けるやん」


 ユウがぽつり。


「理屈は合っとる」


 ミラが頭を抱えた。


「何しに?」


 ヒカリは胸を張った。


「和平交渉たい」


「外交官でもないのに?」


「うちらには武器がある」


「何」


 ヒカリは堂々と言った。


「ギャグ」


 ミラがソファに倒れた。


 ユウも吹き出した。


「銀河史上初やね」


「笑いによる停戦交渉」


 ヒカリは真面目だった。


「だってさ」


 珍しく静かな声。


「みんな怒っとるやん」


「ノクティアも」


「アステリアも」


「連盟も」


「怒りとる時に怒り返したら終わりたい」


 ミラは妹を見た。


 いつも騒がしい。


 いつもボケる。


 でも時々、本質を突く。


「だから笑わせる?」


「うん」


 ユウも小さくうなずいた。


「少なくとも、笑ってる時は引き金引かんと思う」


 数日後。


 ルミナス中央宇宙港。


 三姉妹はアステリア行きの星間シャトル乗り場にいた。


 航平が大荷物を持ってきた。


「ほら、弁当」


「父ちゃん、多すぎ」


「二十人前たい」


「遠足じゃなか!」


 美咲も苦笑する。


「困ってる人がいたら分けなさい」


 ユウが笑った。


「お母さんらしい」


 ヒカリは搭乗ゲートを見ながら言った。


「とうとう会えるっちゃね」


 ミラの心臓が跳ねた。


「……うん」


 声しか知らない。


 映像しか知らない。


 でも。


 笑い声も。


 家族も。


 台所も。


 少しずつ知った。


 アレンという青年。


 その頃。


 アステリア。


 アレンは観測局で報告書を書いていた。


「リングの空に艦隊増加」


「通信妨害継続」


「物流遅延拡大」


 重い文字ばかり並ぶ。


 そこへリリィが飛び込んできた。


「兄ちゃん!」


「何や」


「ルミナスから三姉妹来るらしいで!」


「は?」


「ニュースになっとる!」


 アレンは固まった。


「え?」


「え?」


「え?」


 リリィが笑う。


「会えるやん」


 アレンの顔がみるみる赤くなる。


「いやいやいや」


「何その顔」


「別に」


「真っ赤やで」


「寒いからや!」


「アステリア今日二十六度あるで」


 リングの空。


 三つの月の星。


 遠く離れた二つの世界。


 そして。


 ようやく動き始める出会い。


 戦争の影はまだ消えていない。


 艦隊もまだいる。


 だが、その中で三姉妹は決めていた。


 怒りだけでは終わらせない。


 笑いも届ける。


 歌も届ける。


 声も届ける。


 そして――


 会いに行く。


次回予告


 ついにアステリアへ向かう三姉妹。


 しかし到着直後から、リングポート宇宙港で大騒動。


 ヒカリは税関職員を笑わせ、ユウは迷子になり、ミラはアレンとの初対面を前に完全フリーズ。


 一方、ノクティア艦隊はさらに境界宙域へ接近。


 平和への時間は、残り少ない。


 次回、


第17話

「百光年越しのはじめまして」


 声で知った人に、初めて会う日が来る。

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