↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/21

帰れ、うちらの空から

 第13話

「帰れ、うちらの空から」


 惑星アステリアの中央広場に、声が響いていた。


「帰れ!」


「うちらの空から帰れ!」


「リングの空に艦隊はいらん!」


 それは怒号ではなく、歌に近かった。


 誰かが叫び、誰かが続く。


 やがてリズムが生まれ、大阪弁の大合唱になっていく。


「帰れ、帰れ、うちらの空から!」


「採掘権より、命を守れ!」


「利権より、明日の飯や!」


 アレンの妹リリィも、友人たちと一緒に広場に立っていた。


 怖くないわけではない。


 空の端には、ノクティア共和国艦隊の影がある。


 だけど、黙っている方がもっと怖かった。


「兄ちゃん、聞こえてるかな」


 友人が聞く。


 リリィは空を見上げた。


「聞こえてると思う。観測局、あっちの塔やから」


 その頃、アレンは観測局の窓から広場を見下ろしていた。


 遠くからでも、市民たちの声は聞こえた。


「帰れ、うちらの空から」


 その言葉が、胸に刺さった。


 守りたい空がある。


 守りたい台所がある。


 母のツッコミも、妹の小言も、父の笑い声も。


 全部、ここにある。


 そこへ、観測室の警報が鳴った。


「境界宙域、ノクティア艦隊さらに接近!」


 先輩観測士マルコが叫ぶ。


「距離は?」


「警戒ラインの外側ぎりぎりです。でも、明らかに圧をかけてます」


 画面には、艦隊の航跡が表示されていた。


 まるで、少しずつ線を踏み越えるタイミングを測っているようだった。


 そして同時刻。


 ノクティア共和国外務省は、強硬声明を発表した。


『アステリア周辺宙域における我が国艦隊の行動は、我が国の主権に基づく正当な権利である』


『外部勢力による干渉は受け入れない』


『資源採掘施設および航路安全の確保は、我が国の当然の責務である』


 その声明は、銀河中に流れた。


 惑星ルミナス。


 外交局の会議室では、セリナ・香月外交官がその映像を見つめていた。


「主権、ですか」


 ルミナス首相・大倉真帆が低く言う。


「都合のいい言葉たい。人の空に艦隊を近づけておいて、主権と呼ぶ」


 セリナは資料をめくった。


「当該宙域は複数星系が利用する共同航路であり、単独国家の軍事的支配は星間航路安全条約に反します」


「でも向こうは聞き入れる気がない」


「はい」


 沈黙が落ちた。


 真帆は窓の外を見た。


 三つの月が、昼の空に薄く浮かんでいる。


「外交で止めたい。でも、言葉だけで止まらん相手もいる」


 セリナは静かにうなずいた。


「だからこそ、こちらの言葉は乱してはいけません」


 その夜、星野三姉妹のラジオ番組は、特別編成となった。


 ヒカリがマイクに向かう。


「今夜は、アステリアの市民の声を紹介します」


 スタジオに、現地で記録された音声が流れる。


『帰れ、うちらの空から!』


『リングの空に艦隊はいらん!』


 ミラは胸を押さえた。


「これは遠い星のニュースやありません。そこに暮らす人たちの声です」


 ユウが続ける。


「怖い時に声を上げるのは、とても勇気がいることだと思います」


 ヒカリは、いつもの笑いを少しだけ混ぜて言った。


「採掘権とか利権とか、偉そうな言葉で包んでも、台所に軍艦は似合わんとです。お好み焼き焼く場所に、艦隊はいりません」


 ミラが静かにうなずく。


「戦争は、地図の上で始まるように見えます。でも本当に傷つくのは、地図の上の線じゃなくて、そこに住む人たちです」


 ユウはキーボードの前に座った。


 そして、まだ作りかけだった歌を、少しだけ変えて歌った。


「帰れ、うちらの空から

 ここには明日がある

 帰れ、うちらの空から

 誰かの声がある」


 その歌は、抗議の歌であり、祈りの歌でもあった。


 放送後、ルミナスの通信掲示板には、次々とメッセージが届いた。


「アステリアを孤立させるな」


「共同航路を守れ」


「主権の名で威圧するな」


「台所に軍艦はいらない」


 一方、ノクティア共和国はさらに反発した。


『ルミナス星系は感情的な世論操作を行っている』


『市民の抗議活動を外交圧力に利用している』


『我が国は一歩も退かない』


 対立は深まった。


 言葉がぶつかり、艦隊が動き、市民の不安が増していく。


 それでも、アステリアの広場では声が止まらなかった。


「帰れ!」


「うちらの空から!」


 アレンは観測局の屋上で、その声を聞いていた。


 彼は深宇宙ラジオ端末を起動する。


「ミラさん」


 まだ届かない相手の名を呼ぶ。


「今日、広場でみんなが歌ってました。帰れ、うちらの空からって」


 少し笑う。


「大阪弁の大合唱です。たぶん、そっちのヒカリさんが聞いたら、ツッコミ入れると思います」


 そして、声が静かになる。


「でも、俺は泣きそうになりました。怒ってるんやなくて、守ろうとしてる声やったから」


 彼はリングの空を見上げた。


 艦影はまだ消えない。


「聞き入れる気のない相手に、声が届くのかはわかりません。でも、黙ったら、向こうの都合のいい言葉だけが残ってしまう」


 アレンは、ゆっくり言った。


「だから、俺も言います。帰れ。うちらの空から」


 送信。


 その声は、宇宙へ向かった。


 届くのは、ずっと先。


 だが、今この瞬間、アレンは沈黙しなかった。


 ルミナスでも。


 アステリアでも。


 市民の声は、まだ消えていなかった。


 対立は深まっている。


 けれど、守るための声は、確かに強くなっていた。


 次回予告


 ノクティア共和国は、各星系からの抗議を無視し、艦隊の展開を続ける。


 アステリアでは市民の抗議が広がる一方、物流の遅れや物資不足の兆しが出始める。


 ルミナス外交局は、連邦議会で制裁案と和平案の両方を提示。


 しかし利権を抱える星系の思惑が、事態をさらに複雑にしていく。


 次回、


 第14話

「主権という名の影」


 正義を名乗る言葉が、誰かの暮らしを覆い隠す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。