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『銀河の果てでも博多弁』  作者: リンダ


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リングの空に艦影は似合わない

 第12話

「リングの空に艦影は似合わない」


 惑星アステリアの空には、巨大なリングがかかっている。


 朝には淡い金色。


 昼には銀白色。


 夜には星明かりを受けて、薄い青に輝く。


 その空は、アステリアの人々にとって誇りだった。


 だが今、そのリングの端に、別の影が映り始めていた。


 艦影。


 ノクティア共和国の艦隊だった。


「……似合わんな」


 観測局の屋上で、アレンは空を見上げてつぶやいた。


 隣にいた先輩のマルコが、低くうなずく。


「ああ。リングの空には似合わん」


 観測室の警報が鳴る。


 境界宙域の艦隊が、さらに一歩、アステリア航路へ近づいた。


 ノクティア側の声明は相変わらずだった。


『通常訓練である』


『資源採掘施設保護のためである』


『航路安全確保のためである』


 だが、アステリアの市民たちは叫んだ。


「帰れ!」


「うちらの空に軍艦はいらん!」


「リングの空を汚すな!」


 中央広場には、さらに多くの人々が集まっていた。


 アレンの妹リリィも、学校の友人たちと一緒に立っていた。


「怖いな」


 友人が言う。


 リリィは唇を結んだ。


「怖い。でも、黙っとったら、もっと怖い」


 その頃、ルミナス。


 星野家の三姉妹は、アステリアの映像資料を見ていた。


 リングの空。


 大阪弁の市民たち。


 プラカード。


 抗議の声。


 そして、その遠くに映る小さな艦影。


 ミラは言葉を失った。


「ほんとに……近づいとる」


 ヒカリも、いつもの勢いがなかった。


「リングの空、きれいなのに」


 ユウは静かに言った。


「そこに艦隊の影は、似合わんね」


 ミラは端末を握る。


「声、送ろう」


 ヒカリがうなずく。


「うん」


 ユウもキーボードの前に座った。


「歌も、少し進める」


 その夜の『三姉妹の月あかりラジオ』。


 ミラは、まっすぐマイクに向かった。


「アステリアの皆さん。これが届くのは、ずっと先かもしれません。でも、今、言います」


 ヒカリが続く。


「リングの空に、艦影は似合わん」


 ユウが静かに言う。


「空は、脅すためじゃなく、見上げるためにあると思います」


 ミラは深く息を吸った。


「条約を守ってください。艦隊を下げてください。そこに暮らす人たちの明日を、利権のために壊さないでください」


 少し沈黙。


 そしてヒカリが、あえて笑いを入れた。


「あと、戦争になったら、お好み焼きの再挑戦が止まります。これは銀河的損失です」


 ミラが小さく笑ってツッコむ。


「そこまで言う?」


 ユウが真面目に重ねる。


「でも、平和な台所は大事やけん」


 ラジオ局のスタッフたちも、静かにうなずいた。


 一方、ルミナス外交局。


 セリナ・香月外交官は、緊急和平会議の開催を各星系へ呼びかけていた。


「アステリア航路からの艦隊後退。境界宙域での無人警戒機停止。資源採掘権については、第三者機関による再調停を求めます」


 相手は渋った。


 利権が絡んでいた。


 既得権益が絡んでいた。


 誰もが自分の取り分を失いたくなかった。


 セリナは静かに言った。


「利益のために空を軍艦で埋めるなら、その星に暮らす人々は、あなた方を二度と信じません」


 その言葉は、重く会議室に落ちた。


 夜。


 アステリアの観測局。


 アレンは深宇宙ラジオの前に座っていた。


「ミラさん」


 まだ届かない相手の名前を呼ぶ。


「今日、リングの空に艦影が見えました」


 彼は少し黙った。


「正直、怖いです。でも、家では相変わらず母さんが強くて、妹がうるさくて、父さんが余計なこと言います」


 少し笑う。


「そういう日常を、守りたいです」


 アレンは空を見上げた。


「リングの空に、艦影は似合わない。ほんまに、そう思います」


 そして、録音を終えた。


 送信。


 声は、遠い宇宙へ旅立った。


 ルミナスからも。


 アステリアからも。


 届かない声が、互いへ向かって進んでいる。


 まだ、戦争は止まっていない。


 まだ、艦隊は退いていない。


 けれど、沈黙だけは選ばなかった。


 次回予告


 ルミナス外交局の和平提案に、各星系は揺れる。


 だがノクティア共和国は、さらに境界宙域への圧力を強める。


 そんな中、ヒカリは怒りと不安を笑いに変えるため、銀河合同ラジオ企画を提案。


 アステリアでは、市民たちの抗議に大阪弁の大合唱が響き始める。


 次回、


 第13話

「帰れ、うちらの空から」


 守るための声は、時に一番強い歌になる。

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