約束
「綾乃ちゃん、今日は何して遊ぶ?」
鈴は、今日も嬉しそうに笑っていた。
頬には薄く痣が残り、着物もあちこち擦り切れている。
それでも、その笑顔だけは太陽みたいに明るかった。
……本当によく笑う子だ。
「今日はね、お手玉を持ってきたの!」
私は袖から大切に包んでいたお手玉を取り出し、鈴の手のひらへそっと乗せた。
「わぁ……!」
鈴の瞳がきらきらと輝く。
「町の女の子たちがやってるのを見て、一度やってみたかったんだ! ありがとう、綾乃ちゃん!」
その言葉を聞いた瞬間、私まで嬉しくなった。
鈴は早速お手玉を宙へ放る。
一つ、二つ、三つ……。
気づけば六つのお手玉が空中を舞い、まるで生き物のように鈴の指先を行き来していた。
「すごい!」
思わず拍手をすると、鈴は少し照れくさそうに笑う。
「えへへ。」
鈴は昔からとても器用だった。
水切りをすれば十回以上跳ねるし、探検して道に迷ったときも、一度通った道をちゃんと覚えていて私の手を引いて帰ってくれる。
何でもすぐに覚えて、何でも上手にこなしてしまう。
「鈴!」
「なぁに?」
「将来ね、私がお父さまの跡を継いだら、鈴を雇う!」
「えっ?」
「だから、一緒に働こう!」
勢いよく言うと、鈴は目を丸くした。
「私がお父さまにお願いするから! 鈴はすっごく優秀だもん!」
「……そしたら。」
鈴は少し不安そうに私を見つめる。
「そしたら、私は綾乃ちゃんと、ずーっと一緒にいられる?」
「もちろん!ずーっと一緒だよ!!」
私は迷わず頷いた。
「鈴はきっと私より仕事ができるようになるよ!」
「本当?」
「うん!」
鈴は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、約束だね。」
小さな小指が私の前へ差し出された。
「約束!」
私も小指を絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます。指切った。」
二人で笑い合う。
その約束が明日には果たせなくなるなんて、このときの私たちは知る由もなかった。
気づけば、空は茜色に染まり始めていた。
「もうこんな時間!」
「そろそろ帰らないと、お父さまに心配されちゃう。」
私は立ち上がる。
「鈴、また明日ここで遊ぼうね!」
「うん!」
鈴は勢いよく立ち上がり、満面の笑みで手を振る。
「また明日! 綾乃ちゃん!」
「絶対、明日も来てね!」
「もちろん!」
そう返事をすると、鈴は安心したように笑った。
その笑顔が愛おしくて、私は何度も振り返りながら家路についた。
――それが、鈴と交わした最後の約束になるとは、夢にも思わなかった。




