出会い
「お待たせ!」
いつもの待ち合わせ場所へ駆け寄ると、木陰で待っていた少女がぱっと顔を上げた。
「綾乃ちゃん!」
その笑顔は、春の日差しよりも眩しい。
「ごめんね、待った?」
「ううん! 全然待ってないよ。私も今来たところ!」
そう言って鈴はいつものように笑う。
……嘘だ。
鈴はいつだって私より先に来て待っている。
私を心配させないようにそんな優しい嘘をつく子なのだ。
でも、その笑顔とは裏腹に、鈴の姿は今日も痛々しかった。
着物はところどころ破れ、袖口は泥で汚れている。
細い腕には青紫の痣。
頬には新しくできた赤い傷。
「また転んじゃったの?」
そう聞くと、鈴は照れくさそうに笑う。
「えへへ、そうなの。また転んじゃって……。」
その言葉も嘘だ。
私は知っている。
いや、この町の人たちはみんな知っている。
鈴の母親が毎日のように鈴へ暴力を振るっていることを。
理由はあまりにも身勝手だった。
鈴は小さな頃から誰もが振り返るほど美しかった。
透き通るような白い肌。
艶のある黒髪。
幼いというのに、大人でさえ息を呑むほど整った顔立ち。
その美しさを母親は憎んでいた。
嫉妬の矛先はいつしか鈴へ向けられた。
「その顔が嫌い。」
「産まなければよかった。」
そんな言葉と一緒に殴られていることを私は知っている。
近所の人も知っている。
けれど、誰も助けようとはしない。
「他人の家のことだから。」
そんな言葉で目を逸らしてしまう。
私はそれが大嫌いだった。
鈴と出会ったのも、そんな日だった。
新しい髪飾りを買ってもらった帰り道。
路地裏から泣き声が聞こえた。
覗いてみると、同じくらいの年の子どもたちが、一人の少女を囲んでいた。
「汚い!」
「近寄るな!」
泥を投げられ、うずくまるその子の頬には、まだ新しい痣が残っていた。
私は思わず飛び出した。
「やめてください!」
子どもたちは私の姿を見ると、気まずそうに逃げていった。
その場に残った少女は、おずおずと顔を上げる。
大きな瞳が私を見つめる。
その瞬間、私は息を呑んだ。
傷だらけなのに、それでも分かる。
この子は、とても綺麗だった。
「大丈夫?」
そう手を差し伸べると、少女は恐る恐る私の手を握った。
それが、私と鈴の出会いだった。
それから私たちは毎日のように遊ぶようになった。
花冠を作ったり、川辺で石を投げたり、神社で願い事をしたり。
鈴はよく笑う子だった。
家ではあんなにつらい思いをしているはずなのに、私の前ではいつも笑っていた。
だから私は、その笑顔を守りたいと思った。
気づけば、鈴のいない毎日なんて考えられなくなっていた。
ずっと、このまま一緒にいられる。
幼い私は
本気でそう信じていた。




