9 きょうだいのすがた
特に約束したわけではないが、朝と同様に希亞樹と一緒に帰ることになった。
希亞樹はわざわざ二年生の教室にまで、顔を見せに来たのだ。
「今日生徒会の仕事ないだろ。一緒に帰ろうぜ」
「なによ、急に。なんも奢らないからね?」
「そういうのじゃねえって……」
「ミミ~今日は弟くんと一緒なんだ~ほんと仲良しだよね~」
「わたしもああいう彼氏欲しい~じゃっ、またね~っ!」
友達のからかい声に美亞未は頬を赤らめながら手を振り返し、希亞樹と並んで校門を出た。夕陽が少し傾き始め、校舎の影が長く伸びている。並んで歩く二人の影も、まるで一つに重なるように長く伸びていた。
駅に着くと、ちょうど準急がホームに入ってきた。
「座って帰ろうぜ」
希亞樹の提案に、美亞未も頷いた。
準急は急行に比べれば乗る人が少ないせいか、夕方の時間でも座れる余裕はあった。
美亞未が先に端の席に座り、希亞樹も自然とその隣に座る。
ゆっくりと電車が動き出す。窓の外に流れる景色が、夕焼けに染まって、朝とはまた違う景色を見せてくれる。
美亞未はしばらく外を眺めていたが、ふと隣の希亞樹に視線を移した。
朝も一緒にいたが、結局リックスと話し込んで希亞樹のことは頭の片隅に追いやってしまっていた。
弟の横顔を見つめていると、あのキスの熱が思い出されていく。
「……」
美亞未は逡巡するように目を閉じる。
――きょうだいで手を繋ぐのは、別に何もおかしくないよね……。
『仲良くするのは――』
何度も頭の中でリックスの声が反響していくが、それを振り払うように、頭を振る。
――だから、いいんだよ…。
自分に言い聞かせるように、美亞未は目を開けた。
そうして、「アキ」といつもの呼び名を囁いた。
膝の上に置いていた手を、そっと希亞樹の手へと重ねる。
指を絡めるように、優しく包み込む。
希亞樹の身体が、ぴくりと反応した。
「っ、姉貴……?」
驚いたような、しかし嬉しそうな声だ。
美亞未は微笑みながら、指を少し強く絡めた。手のひらの温かさが、じんわりと伝わってくる。
「なんか、今日はアキが迎えに来てくれたから……お礼、かな?」
「べ、別に……礼なんていらねえよ。ただの気まぐれだって」
言いながらも、希亞樹も握り返してきた。少し汗ばんだ掌が、熱い。
指を包むように、ぎゅっと力を篭められる。
二人の手は、膝の上で自然に結ばれたままになった。
車内の他の乗客たちは二人の姉弟を気に留める者はいない。
だから二人は、ただ互いの体温を感じていた。
美亞未は弟の肩に頭を軽く預けて、目を閉じる。
『姉貴』
あの声に弱いのだ。心が揺さぶられる。離れたくない、離したくないと欲が出てしまう。
どうしてそんなにも自分を見つめるのか。
希亞樹が求めるなら、と求められるままに唇を重ねる。
心まで重ねるような口付けは、ほんの一秒にも満たない短いものだ。 なのに、とても甘い。いちごケーキのような甘さに眩暈さえ起こしてしまいそうだ。
電車は駅を通過したり、止まったりを繰り返し、ゆったりとした揺れが美亞未たちを包んでくれた。
結ばれた手は、離れる気配もなくただ温かさを分け合っていた。
美亞未の胸の奥で、リックスの青い瞳が一瞬よぎったが、それはすぐに夕陽の色に溶けていく。
最寄り駅に着くと、自然と手は解かれていた。家に着くまでの間、二人はほとんど言葉を交わさなかった。




