50 出会い方
夕陽が差し込む廊下。
生徒会室のドアを閉め、二人は並んで歩き出していた。
長く伸びた二人の影が、静まり返った校舎に寄り添うように続く。
部活動に勤しむ声も次第に小さくなっていき、校舎に残る生徒たちの影も次第に減っていく。
リックスの横顔はいつものように穏やかだった。美亞未は彼の指先に、自身の指を少しだけ絡めていた。
言葉を交わさないまま階段を下り、昇降口へと向かう。
その時だった。
前方から、一人の少女が歩いてきた。
きらめく金色の長い髪。完璧に着こなされた制服の胸元には、一年生を示すタイが結ばれている。
「あっ……」
少女――シャルロリアの姿を認めた瞬間、美亞未の口から小さな声が漏れた。
すれ違いは一瞬だった。
視線も言葉も交わすことのない、学校という日常においてはどこにでもある、他人がただ通り過ぎていくだけの風景。
それでも美亞未は、遠ざかる背中を意識せずにはいられなかった。
「……あの子」
「知り合いか?」
リックスに尋ねられ、美亞未は歩みを止めないまま、ゆっくりと首を横に振ってみせた。
「ううん。アキの友達。クラスメイトでさ、シャルロリアちゃん……すっごく可愛いって、噂になってるよね」
夏の間に希亞樹から届いたメッセージが、不意に脳裏をよぎる。
『シャルロリアと釣りに行ってきた』という内容の文面と、そこに添えられていた写真。
特に返信(をする余裕がなかった)はしなかったが、記憶には鮮明に残っている。
「……友達、か」
美亞未の言葉を反芻するように、リックスが静かに呟いた。
「うん。夏休みもあの子と出かけてたし……アキも…あの子と恋が出来たらいいのに……」
素直な言葉だった。シャルロリアと『普通』に恋をすることが出来たのなら、希亞樹もきっと救われるだろうと、美亞未はそう考えていた。
外に出ると、秋めいた優しい風が身体を包んでいく。
「……出会い方一つで、運命は変わるものだ」
リックスの声が、夕暮れの空気に溶けていくが、その声色は確かに美亞未の耳朶に響いていた。
「一人の人間の人生は、偶然の出会いの連鎖でできている。オレは君と出会った。あの子はアイツと出会った。君とアイツは、血という運命で最初から結ばれている。……すべては、出会いによって形作られる」
美亞未は黙ってリックスの言葉を聞いていた。
「オレは君と出会ったことで、初めて『愛』というものを本気で考えた。君も、オレと出会ったことで、初めて『姉』という役割から解放される可能性を手に入れた。……運命は、残酷だ。出会うべき人に出会わなければ、永遠に気づけなかった真実が、そこにある。そしてアイツも、あの子と出会ってしまった。その出会いが、牙を向くかそれともすべてを包み込む救いになるのか。それはまだ、神にすら分からないことだ」
希亞樹がシャルロリアと出会ったこと。それが彼にとって幸福な恋になるのか、それとも別の何かをもたらすのか。美亞未には予測もつかない。
ただ、彼の幸せを願う気持ちだけは確かな事実だ。




