45 ピロトーク
予報と違い雨は、夜には上がっていた。
スチュワートの部屋で、リックスは今日だけ泊まることにした。当たり前であるが、スチュワートに美亞未が泊まっていることは、告げてはいない。
彼は今日、中華街へ出かけており、手土産を持って帰ってきたのは、19時を過ぎてからだった。
そんな旅行帰りの彼を連れて(奢りだといい半ば無理やり)、リックスは近くのファーストフード店へと来ていた。
「今日はよく食うな」
普段より注文数の多いリックスを見て、スチュワートが呟く。
口角を上げ、微笑を返す。
「育ち盛りだからな」
そう言うと、スチュワートは鼻を鳴らして笑い、コーラを飲み干していく。
「珍しいな。お前がこんなに食うなんて。今日なんかいいことでもあったのかよ?」
「いいこと、か……まあ、そうだな」
リックスは目を細めて窓の方を一瞥した。
脳裏には、美亞未の姿が鮮明に焼き付いていた。
「少し前に…答えの話をしただろう。覚えてるか?」
「ああ。なんか進展あったのか?」
いつかの夕暮れの日、スチュワートと少しだけ語り合った真実の話。
「いや、まだだ。だが、何かは掴めそうな気はした」
リックスは満足気にカフェオレで、喉を潤していく。
「へえ、どんな感じにだよ」
「……そうだな。前提として、オレは今ある子に恋をしている」
ぶっ、とスチュワートがむせ込んだ。
「な、なんだよ……いきなりだな……!?」
「…教会で話さなかったか?」
「え、ああ、でもお前が恋じゃないって言っただろうが」
「恋に変わったんだよ」
そういえば、とリックスは教会で出会った少女の影を不意に思い出していた。似たような背格好の少女を学校で見たことがあるからだ。
――まあ、どうでもいいか……。
「そして、オレは今とても気分がいい。高揚している。…知りたいか、理由が」
聞いて欲しそうなリックスの姿に、スチュワートは何だか聞いてはいけないような気がして、困惑の色を見せた。
「今日のお前なんかキモイぞ……」
「まあ、聞け」
「結局聞かされるのか…」
リックスはカフェオレを飲み干してから、口を開いた。
「オレが恋をしている子は、とても強い子でもあるが、とても弱い子でもある。オレは、その弱さが愛おしいんだ」
「はあ……」
「オレは、今日その子を幸せにしてやれた。だから、気分がいい……」
「はあ……んなら、良かったな〜〜、って言えばいいやつ?」
リックスが微笑む。
「ああ、良かった。……その子は、オレにとっての幸福だ。オレは、その子といると幸福になれる」
「珍しくゾッコンだな……」
「オレは、その子の幸福を願いたい。出来るなら、オレが幸せにしてやりたいと思う」
「随分と、真剣だな。いや、マジか?」
「当たり前だ。オレが見惚れた子だからな」
「かあ〜〜ノロケかよっ……。オレもちょっとは遊んでみるかあ」
スチュワートは揶揄うように笑い、意味もなく自身のスマホを触った。
スチュワートには、リックスがとても大人に思えたのだ。
「だが、これはかなり…茨の道なんだ」
「そうなのか? なんで?」
「ああ、オレがその子を幸せにするということは、同時に不幸にするということだ」
「…は? お前はいつも難しいことを言うよな。そんなじゃ、ガールフレンドに逃げられるぞ?」
先ほどまでの、どこか浮かれていたような空気はなりを潜めて、今のリックスは普段と同じで、とても落ち着いている。
「そうだな」
「そうだな、って……」
スチュワートはリックスの言葉の意味を考える。
「まっ…いい恋、だなとでも言っておくか?」
だから、スチュワートは素直な言葉を口にした。




