33 色々と
七月二十八日。夏休みに入って一週間――。
美亞未は冷房の効いた自室でぼんやりと天井を見つめていた。
「ふぁ、あ~~…って、もう十時じゃん……」
スマホで時間を確認してから、美亞未は漸くベッドから身体を起こした。
「もう母さんも起こしてくれればいいのに……」
パジャマのまま階下へ降り、顔を洗ってからリビングへと足を運んだ。
「おはよーミミ」
「はよー」
美亞未はまだ寝ぼけ眼のまま、冷蔵庫から氷を取り、グラスに麦茶を注いでいく。
カチカチと氷の音が、静かなリビングに響いた。
「…そういえば、アキは? 部屋の前通ったらすごい静かだったけど」
ソファでテレビを見ている母に問いかける。
「聞いてなかったの? 今日はお父さんと朝早く釣りに出掛けたわよー。ミミは今日はどこか行くの?」
「午後から友達と会うかなあ」
「お昼は?」
「食べてく…というか、これでいいかな」
美亞未はパンを取り出し、トースターに二枚入れた。
できあがりを待ちながら冷蔵庫からいちごジャムを取り出し、小皿にスプーンでたっぷりとすくった。
トースターから香ばしい匂いが立ち上ると、焼き上がったトーストを皿にのせ、熱々のうちに厚めにジャムを塗っていく。
端から端まで、丁寧に、均等に。毎朝のルーチンだ。テーブルに座り、麦茶を一口飲んでからトーストを頬張る。甘酸っぱいジャムの味が、寝起きの口の中に広がっていく。
「ねえ、母さん……進路のことなんだけどさ……」
美亞未はトーストを咀嚼しながら、ぼそりと切り出した。
「うん? どうしたの」
母がソファからこちらに視線を向ける。
「留学……って、ちょっと興味あるかもなんて……」
美亞未はおずおずとした様子で伝えた。
「留学?」
「うん。ほら、うちの学校留学生とか積極的に受け入れてるし、色々とちょっと外の世界のこととか知りたいかなーなんて…思ってみたりしてさ……。ま、まあ選択肢の一つとして思っただけで、絶対したい! とかじゃなくて…!!」
母は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「いいんじゃない。最近はグローバル化って言うし、英語が出来るのに損することなんてないしねー。ミミの成績なら心配することはないかしらね?」
「え……いいの? お金とか大丈夫?」
あっさりと承諾してくれた母に、安堵よりも驚きの方が勝った。
「私は反対しないけど、お父さんとも話さないとね。まあでも、奨学金とか制度もあるんじゃないの? ミミなら一人でもちゃんと勉強もするだろうし……むしろ、こっちとしては視野を広げるなんて感心しちゃうくらいよっ」
母は立ち上がって、美亞未の隣の椅子に腰を下ろした。
優しい目で見つめられる。
「あーでも、ミミが留学したらアキがさみしがるかもねー」
「あはは、そうだね…」
美亞未はトーストの端をちぎりながら、小さく頷いた。
「今日は友達とどこ行くの?」
「図書館で勉強、かな?」
「そ。雨降るかもだし、折りたたみ一応持っていけば?」




