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21 一日の終わりに

 夜は美亞未と自宅で二人きりだった。

 両親は観劇を見に出ており、作り置きのカレーがテーブルの上に並ぶ。

 美亞未は両親がいないことをいいことに、行儀悪く椅子の上に両足を乗せ、膝を抱え込むような姿勢でスマホを弄っていた。

 ノースリーブに薄手のカーディガンを羽織り、ショートパンツから伸びた生脚を器用に折りたたみ、視線はスマホの画面に落とされたままだ。

 希亞樹は姉の無防備な姿を見ながら、今朝のあの怒涛の展開を思い返していた。

 昨日の屋上での出会い、教室での衝撃の再会、そして――クラス全員の前でピラッと捲り上げられたスカートと、あの黒いスパッツ。

「そういえばさ……」

 スマホをポチポチとタップするかすかな音に混じって、美亞未が何気ないトーンで声をかけてきた。

「ん」

 カレーを口に運びながら、希亞樹は短く返す。

 母のカレーはいつも具材が大きめにカットされている。

「転校生みた? 二年生って聞いたけど……」

「ん、ああ……」

 曖昧な返事が出る。スプーンを持つ手がわずかに止まった。

「同じクラスになった……」

 シャルロリアの話題を出され、希亞樹の心は一気に落ち着かなくなる。

「そうなんだ! 女の子だっけ? 私まだ見てないんだけどかわいい?」

 美亞未はスマホの画面を見たまま、膝の上に顎を乗せるようにして、さも興味本位といった様子で問いかけてきた。

「んークラスの奴らは騒いでたからまあかわいい方なんじゃねえの」

 希亞樹は慌てて視線を皿へと落とし、誤魔化すようにカレーを口の中に放り込んでいく。

 シャルロリアの名前を出されると、どうしても目の前の姉と比べてしまう。

 美亞未とは違う、髪色と目。そして、どこか大人びていて、それでいて無邪気なあの掴みどころのない微笑。

 今日一日、ずっと隣の席から見つめられていた。

「アキはかわいいって思わなかったの?」

 美亞未はスマホを弄る手を止めない。温めてから、数分経つがまだ一口も食べてはいなかった。

「……なんでそんなこと聞くんだよ」

「なんなーく」

 美亞未の言葉に、嘘偽りはないだろう。本当にただの興味心だと分かる。

 希亞樹はスプーンを咥えたまま、押し黙るしかなかった。

 かわいい、と言われればおそらくYESと頷くだろう。

 だが、そのかわいいは小動物に抱くようなもので、決して恋愛感情ではない。

「まあ、かわいいんじゃねえかな……」

「ふぅ〜ん」

「なんだよ、その反応は」

「別に。アキでもかわいいって思うんだな、って……」

 窓の外は、昼間の突き抜けるような快晴が嘘のように、静まり返った夜の闇が広がっている。

 明日もまた、あの掴み所のない金髪の少女が隣の席にいるのだ。

 美亞未の何気ない質問に、まだ見ぬ明日への予感が重なる。

「……姉貴はなんかいいことあったのか?」

「なんで?」

「ずっとスマホ見てるし、なんか嬉しそうなんだよなぁ」

「えー気のせいだよ?」

 スマホをようやくテーブルの上に置き、美亞未は姿勢を正した。

「そうか?」

 チラリと見たスマホのトーク画面には、『リックス』の名前が浮かび上がっていた。

「……」

 飲み込んだカレーがいつもより、辛く感じた。




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