14 枝葉末節
夕食の時間になると、テーブルには四人分の食器が並ぶが、椅子に座っているのは父母、そして美亞未の三人だけである。
希亞樹はといえば、家族と時間がずれることが多くなっていた。部活でも塾でもないのだが、声を掛けても、リビングに降りてくる気配もなく、二、三時間経ってから一人で夕食を食べているようだ。
父は特に気にした様子もなく、「そういう年頃なんだろ」と笑うだけであり、母も表立って何かを言うことはない。
そのため、希亞樹の分の料理だけはフードカバーが掛けられている。
「今日は遅刻したんだって?」
父が箸を取りながら、何気なしに聞いた。
「うん……電車が止まっててさ。動かないから歩いたよ」
「そうか。大変だったな」
それだけだった。父はテレビのニュースに耳を傾ける。
膝の上でスマホが震える。
テーブルの下でこっそり画面を確認すると、友達からのメッセージだった。
グループ課題の話題で揉めているらしく、スタンプと短い文章が何件も続いていた。
美亞未は片手で返信を打ちながら、もう片方の手で箸を動かす。
「ミミ! 食事中はやめなさいって言ってるでしょ!」
「ん」
母の声に、短い返事を返す。
トークリストを上にスクロールすると、リックスの名前が目に入った。
アイコンは設定していない。イニシャルだけのシンプルなものだ。
ほんの少し前、連絡先を交換し合い、楽しく会話をしていたはずだった。
最後のメッセージは一昨日。
美亞未からの、『また明日ね』というメッセージだった。
既読だけで、それ以来のやり取りはない。
不意にブロック、という文字が頭をよぎった。
押してしまえば楽になる気がした。あの青い瞳も、見透かすような声も、全部遮断できる。
通学は電車の時間をズラせばいい。
学年が違うお陰で廊下ですれ違うことも、あまりないだろう。
――でも。
美亞未は親指をトークルームの上で止めたまま、動かせなかった。
「そういえば、美亞未はお土産なにがいいんだ? 希亞樹もなんでもいいって言うんだがな……」
父の声にも、美亞未は「んー」と空返事をしてしまう。
出張のお土産よりも、リックスをブロックするか、しないか、の方が今は重要なのだ。
「ミミ! 人と話してる時くらいスマホいじるのやめなさいっ!」
母の声に、美亞未は慌てて画面を伏せた。
「……うるさいな」
――こっちの気も知らないくせに……。
「…もういいや。ごちそうさま」
「ん? どこか体調でも悪いのか?」
半分も食べていない美亞未に、父が呑気に声を掛ける。
「別に。お腹すいてないし……。明日のおかずにでもしとい」
立ち上がると、「美亞未!」と母の鋭い声が、背中に突き刺さるが、振り返ることはせずに、美亞未は階段を駆け上がっていった。
親指がブロックボタンを押すことはなかった。
「……全く、ミミもアキに似てきて手が掛かるようになって」
「まあ、二人とも年頃だしなあ……。美亞未もようやくそういう時期か」
リビングに残された母と父の会話は、正反対のものであった。
「あなたも呑気ね。年頃、年頃って……。ちゃんとあの子たちのこと見て叱ってやってよ。さっきもミミはスマホばっかで……」
「昔と違って今は色々あるからなあ……。美亞未も希亞樹ももう小さい子どもじゃないんだ。大人に干渉されるのはイヤなんだろう」
「そういうものかしらね……」




