冒険者ギルド
翌日。
俺たちはいつもより少し早く仕事を終わらせ、そのまま街の中心へと向かった。
「……ここか」
目の前にあるのは、大きな建物。
木と石で作られた、他の建物よりも一回り大きな施設だ。
入り口の上には、剣と盾を模したような看板が掲げられている。
「冒険者ギルド、だね」
桜がそう呟く。
「(ついに来たか……)」
少しだけ、緊張する。
けど、進むしかない。
「行くか」
「うん」
頷き合い、扉を押し開けた。
中に入った瞬間、空気が変わる。
ざわざわとした声。
酒の匂い。
そして――視線。
「(……見られてるな)」
当然だ。
まだ見た目は少年少女。
普通は、そんな子供が死に近い冒険者になどなろうとはしない。
そんな俺たちがギルドに来れば、目立つに決まっている。
「おい、子供が来る場所じゃねえぞ」
案の定、近くにいた男が声をかけてくる。
「道にでも迷ったか?」
「違います」
桜がきっぱりと答える。
「冒険者登録に来ました」
一瞬、静かになる。
そして――
「……は?」
数人が笑い出した。
「冗談だろ?」
「ガキが冒険者?」
「やめとけやめとけ、死ぬぞ」
「(まあ、そうなるよな)」
予想通りの反応だ。
だが、ここで引くわけにはいかない。
強くならなくてはいけないのだ。
そのまま受付へ向かう。
「いらっしゃいませ」
カウンターに立っていた女性が、少し驚いたようにこちらを見る。
「えっと……登録をご希望ですか?」
「はい」
俺が答える。
「二人とも?」
「そうです」
女性は一瞬考えた後、小さく頷いた。
「可能ですが、簡単な適性確認を行います」
「適性確認?」
「戦闘能力や基礎的な実力を見るものです」
やっぱり、そういうのはあるらしい。
ギルドとしても、無駄に死人を増やさないための措置だろう。
「やります」
迷わず答える。
桜も頷いた。
⸻
案内されたのは、ギルドの裏手にある訓練場だった。
「ここで軽く見させてもらいます」
試験官らしき男が腕を組んで立っている。
「まずはどっちから来る?」
「……それじゃあ俺から」
一歩前に出る。
「武器は?」
「この剣です」
腰の聖剣に手をかける。
「(……頼むぞ)」
正直、不安しかない。
「じゃあ、軽く打ち込んでこい」
木製の人形を指さされる。
深呼吸。
そして――
「はっ!」
踏み込み、振る。
――ガンッ!
鈍い音。
「……」
手応えは、まあそれなり。
だが。
「……ふむ」
試験官の反応は微妙だった。
「基礎は悪くないが……やはり決定力に欠けるな」
「(ですよねー……)」
自覚はある。
聖剣の補助はあるが、それでも決め手に欠ける。
未だに身体強化しか使えず、斬れ味などの強化が出来てない。
「身体強化は使えるのか」
「え?」
「さっきの動きで分かる」
「その剣も普通の剣ではなく、魔法剣の類だな」
「(そこまでバレるのか)」
試験官に選ばれるだけあって、観察力が鋭い。
聖剣とバレないだけマシか。
「まあ、一応は合格ラインだな」
「……ほんとですか?」
「ああ。ただし……」
少しだけ真剣な顔になる。
「無茶はするな。お前はまだ弱い」
「身体強化は使えてもそれを活かせてない」
「……はい」
素直に頷いた。
「次は私ですね」
桜が前に出る。
「次は嬢ちゃんか……」
「武器は?」
「魔法です」
「……ほう」
「魔法が使えるのか」
試験官の目が少し変わる。
「じゃあ見せてみろ」
桜は軽く手を前に出す。
そして――
ゴォッ!
炎が一瞬で発生する。
「……!」
そのまま一直線に飛び、人形に直撃。
ボンッ!
一瞬で黒焦げになった。
「……おいおい」
試験官が目を見開く。
「今の威力……それが限界か?」
「えっと……かなり加減しましたけど……」
「(ほんとに強すぎるだろ……)」
「……合格だ」
試験官は即答した。
「むしろ上出来すぎる」
⸻
こうして、試験は終わった。
再び受付に戻る。
「お疲れ様でした」
女性が書類を差し出す。
「こちらに名前を」
「……読めないんですけど」
「……ああ」
少し困った顔をされる。
「では口頭で」
なんとか登録は進み――
やがて。
「これで完了です」
差し出されたのは、小さな金属のプレート。
「これがギルドカードです」
「(これが……)」
手に取る。
少し重みがある。
「お二人とも、ランクは一番下の“Fランク”からになります」
「まあ、そうだよな」
「依頼は無理のない範囲で受けてください」
「お二人ともまだ小さいんですから、決して無理はしないでくださね」
ギルドを出る。
夕方の光が差し込む。
「……ついになったな」
「なったね」
顔を見合わせる。
そして、少しだけ笑う。
この世界に転生してから数年
荷物運びの日々から。
ようやく一歩、先に進むことができた。
桜はかなり強い。
それに対し俺はまだ弱い。
しかもこの聖剣を取り戻しに来る可能性もある。
でも――
「(ここからだ、ここから強くなってやる)」
聖剣を握る。
「最初の依頼、どうするの?」
「簡単なのからだな」
「Fランクだし、地道に積み上げるしかないだろ」
「だね」




