とりあえず状況確認してみる
再び目を覚ました時、部屋の中はすでに明るくなっていた。
どうやら、さっきの出来事は夢ではなかったらしい。
「(……マジで異世界か)」
改めて周囲を見渡す。
古びた木の壁、簡素なベッド、そして同じ部屋に並ぶ四つの寝床。
そのうちの一つに俺、そしてもう一つに――
「おはよ」
すでに起きていた桜が、小さく手を振ってきた。
「……おはよう」
軽く返す。
この状況に慣れたわけではないが、少なくともパニックは抜けてきた。
「とりあえず、現実ぽいね」
「だな……」
問題は、ここからどうするかだ。
兄妹揃って異世界転生物を見ていたが実際経験するのとじゃ違う。
なにより子供の身体になってしまったことに対する不安感や違和感があるのに、それでも問題なく動かせるのが慣れない。
そう考えていると、他のベッドの住人たちも次々に目を覚まし始めた。
「……ん……朝か……」
一人は年上っぽい少年。
もう一人は同じくらいの年齢に見える男の子。
そしてもう一人は――少し小さい女の子だった。
「(家族……ではなさそうだな)」
なんとなく雰囲気で分かる。
血の繋がりというより、同じ場所で暮らしている“仲間”みたいな感じだ。
すると、年上の少年がこちらを見てきた。
「お、起きたか愛斗」
「……え?」
自然に名前を呼ばれる。
ということは、この体の持ち主も“愛斗”らしい。
異世界だから違う名前だと思ったのだが、まあ慣れない名前で呼ばれて戸惑うよりはいいだろう。
「今日は朝から仕事あるぞ。さっさと準備しろ」
「し、仕事?」
思わず聞き返す。
子供に見えるこの体で、仕事?
「ああ、忘れたのか? 雑用だよ、雑用」
「(雑用……?)」
どうやら、俺たちはどこかに雇われているらしい。
その辺の事情はまだよく分からないが、とにかく働かされているようだ。
「ほら、ぼーっとしてると置いてくぞ」
「あ、ああ……」
流れに従うしかない。
俺と桜は顔を見合わせ、小さく頷いた。
日本で暮らしていた頃の常識とこの異世界の常識はかなり違う様だ。
⸻
外に出た瞬間、思わず足を止めた。
「(……おお)」
そこには、明らかに“異世界”と分かる光景が広がっていた。
石造りの建物。
土の道。
見たことのない服装の人々。
獣人と思われる人や、エルフぽい人など。
そして、ところどころに見える――剣や杖。
「(マジで来ちゃったな……)」
実感が一気に押し寄せてくる。
「おにーちゃん」
「ん?」
「なんかテンション上がってない?」
「ちょっとな」
否定はできない。
さっきまでの不安もあるが、それ以上に“非日常”への興奮があった。
なにより、同じ状況にいるのが妹なのが精神的に助かる。
⸻
連れてこられたのは、街の端にある倉庫のような場所だった。
「今日も荷物運びな」
そう言われて渡されたのは、木箱。
「(……重そう)」
試しに持ってみる。
「……うわ」
普通に重い。
今の体じゃ、かなりきつい。
聖剣らしき物は軽く持てたのに、木箱が重いのは何かしらの力が働いていたのだろうか。
「大丈夫?」
桜が覗き込んでくる。
「いや、まあ……なんとか」
見栄を張るが、正直きつい。
だがここで弱音を吐くわけにもいかない。
と、その時。
「じゃあ私やるね」
桜があっさり木箱を持ち上げた。
「……軽っ」
「は?」
軽いわけあるか。
どう見ても俺より楽そうに運んでいる。
「(魔法使えたし、やっぱ魔力で強化してるとか、そういう感じか……?)」
よく分からないが、とにかくフィジカルもおかしい。
「お前の妹、相変わらずすげえな」
年上の少年が感心したように言う。
「あ、ああ……」
どうやら、この世界でも桜は優秀らしい。
対して俺は――
「……」
普通に重い箱と格闘していた。
⸻
数時間後。
「つ、疲れた……」
思わずその場に座り込む。
体が小さい分、疲労もダイレクトだ。
「お疲れー」
桜はケロッとしていた。
「なんでそんな元気なんだよ……」
「楽しかったよ?」
「俺は楽しくない」
⸻
帰り道。
夕方の街を歩きながら、ぼんやり考える。
「(異世界来て、やってることが荷物運びって……)」
もっとこう、あるだろ。
冒険とか、戦闘とか、イベントとか。
「……地味すぎる」
思わず呟く。
「いいじゃん、平和で」
桜はあっさり言う。
「まあ、それはそうだけど」
危険がないのはありがたい。
でも――
「(このままでいいのか?)」
せっかく異世界に来たのに、ただ働くだけで終わるのか。
そんなことを考えていると。
遠くで、ざわめきが起きているのが見えた。
「……なんだ?」
人だかり。
そして――
「魔物だ! 逃げろ!」
誰かの叫び声。
「(……来たか)」
ようやく、“それっぽい展開”が。
俺は無意識に、腰の剣に手をかけた。
「おにーちゃん?」
「ちょっと様子見る」
「無理しないでね」
⸻
――この時の俺は、まだ知らなかった。
自分の持つ“聖剣”が、
想像以上に“想像と違う性能”をしていることを。




