あれ?こんなはずじゃなかったんだけどな
「あれ……ここは?」
目を開けた瞬間、まず違和感を覚えたのは“静かすぎる”という点だった。
いつもなら、スマホのアラームが耳障りなほど鳴り響いている時間のはずだ。
それを無理やり止めて、布団の中で数分粘ってから起きる――そんな毎日を送っていたはずなのに。
だが今は、妙に静かだ。
というか――。
「(アラームどころか、何の音もしない……?)」
まだ薄暗い。カーテン越しの朝日、なんてものも感じられない。
目が慣れてきて、ようやく周囲の輪郭がぼんやり見えてきた。
……知らない天井だった。
いや、よくある表現だけど、今はそれ以外に言いようがない。
俺――愛斗は、つい数秒前まで自分の部屋で寝ていたはずだ。
普通に一日を終えて、スマホをいじって、そのまま寝落ちした記憶がある。
なのに。
「(なんだこれ……)」
起き上がってみて、さらに違和感が増す。
床はフローリングじゃない。
壁紙も見覚えがないどころか、どこか古臭い。
そして――
「(ベッド……多くないか?)」
俺の周りには、同じような簡素なベッドが三つほど並んでいた。
合計四つ。
しかも、そのうち三つには、誰かが寝ているらしい膨らみがある。
「(いやいや……なんで?)」
シェアハウス? いや、そんな予定はない。
そもそも、こんな部屋に引っ越した覚えもない。
混乱しながら、自分の体に視線を落とす。
そこで――決定的な違和感に気づいた。
「(……小さくないか?)」
手が、短い。
足も、明らかに子供のそれだ。
身長だって、立ち上がってみるとかなり低い。
感覚的に、小学生くらいのサイズ感だった。
「(え? ちょっと待て……)」
ここで、ようやく頭の中に一つの可能性が浮かぶ。
――異世界転生。
いやいやいや、と一瞬否定しかけるが。
状況的に、それ以外の説明がつかない。
「(……マジかよ)」
思わず小さく呟く。
すると、その声すらも少し幼い。
完全に、子供の体だ。
記憶はそのまま、中身だけが移った感じか。
「(いやでも……異世界ってことは……)」
そこでふと、別の記憶が蘇る。
――白い空間。
――なにか神っぽいやつ。
――そして、自分が何かを願った気がする。
「(……聖剣)」
確か、そう言った。
なんでそんなこと言ったのかは分からないが、とにかくロマンで選んだ記憶がある。
ということは――
「(持ってるはずだよな……?)」
周囲を見渡す。
すると、ベッドの横に、一本の剣が立てかけてあった。
静かに手に取る。
……軽い。
抜いてみる。
スッ――
「(……普通だな)」
いや、普通すぎる。
光らないし、特別な気配もない。
どこからどう見ても、“ちょっと質のいい剣”くらいだ。
「(いやいや、もっとこう……あるだろ?)」
振ってみる。
ブン。
……やっぱり普通。
「(これ、ほんとに聖剣か?)」
むしろ、ちょっと不安になってきた。
そんなことを考えていると――
「ん……」
すぐ隣のベッドから、小さな声がした。
慌てて剣を戻し、様子を見る。
毛布の中で、誰かがもぞもぞと動いている。
やがて、その人物はゆっくりと顔を出した。
そして――
「……あれ?」
目が合った。
次の瞬間。
「おにーちゃん?」
「……は?」
思考が止まる。
今、なんて言った?
「おにーちゃんだよね?」
その顔は、見間違えるはずもなかった。
「桜……?」
俺の妹、桜だった。
⸻
「なんでいんの?」
「それこっちのセリフなんだけど」
小声でのやり取り。
他の三人(たぶん同室の誰か)が寝ている以上、騒ぐわけにもいかない。
「いや俺、普通に寝てただけなんだけど」
「私も」
「……」
「……」
しばらく沈黙。
「(これ、ガチで異世界か?)」
「(っぽいね)」
なぜか小声のまま会話が成立している。
「私、なんか魔法使える気がする」
「は?」
桜はそう言うと、手のひらをじっと見つめた。
次の瞬間――
小さな光が、ぽっと灯る。
「……おお」
思わず感心する。
が、それは一瞬で終わらなかった。
光はどんどん強くなり――
「ちょ、待っ」
ボンッ!
軽く爆ぜた。
「……」
「……」
部屋の一角が、少し焦げていた。
「(え、今のなに)」
「(分かんない。でもなんか、いっぱいできそう)」
「(怖っ)」
対して俺は、普通の剣一本。
「(バランスどうなってんだよ……)」
⸻
結局そのまま、俺たちは小声で状況を整理することになった。
結論としては――
・二人とも異世界に来ている
・なぜか子供の体
・同じ部屋で寝ている(関係は不明)
・桜はよく分からんけど強そう
・俺の聖剣は普通
「……思ってたのと違うな」
思わず呟く。
「何が?」
「もっとこう……冒険とか、無双とか」
「あー」
桜は納得したように頷く。
「じゃあ私がやるよ」
「何を?」
「無双」
「俺の役目なくなるじゃん」




