愛戦士
どうも、一葉楓です。最近あんまり小説を書いて無くて、腕がなまってました(・・;
気温が下がった砂漠はまるでシベリアの大地にいるかのような冷たい風を容赦なくプレイヤーに吹き付ける。さらさらと砂同士がこすれる音と空気が流れる音がない静寂の中、一つの赤い光が大地に落ちたかと思うと、辺りは爆音に包まれた。
「敵だ! みんな起きろ!」
浅い眠りについて、いつでも体を起こせる体制でいた私、フィルベルトは状態を起こし、隣のパイさんの肩をゆすって起こす。そして、その向こう側にいる三人の幼女たちの頬を軽くプニプニして起こす。おー柔らかい。もうこの手、絶対洗わねぇ。
隠れ家にしていたカナートから飛び出して辺りを見渡す。だが、見渡すまでもなかった。囲まれているのだ。
急いでカナートに戻り、その旨を伝える。すでにみな覚醒しているようで、戦える準備はできている。だが分が悪い。逃げるのが得策だ。
「地下の水路をとおって、別の竪穴から出よう。暗いから気を付けて」
アイテムも魔法もないので真っ暗な闇の中を幼女と手を結んでひたすら歩く。私が先頭で、パイさんが最後尾。私はミルちゃんと手を繋いでいることになる。至福の時である。
柔らかいい手をそっと包むように握る。軽く力を入れると、むこうも握り返してくれる。逆に手の力を抜くと、わたしの手を離すまいと言って用に余計に力を入れて、体を寄せてくる。なにこれ最高!? これ、なんかの死亡フラグ!?
「大丈夫、私が皆を守る」
「フィルベルトさん……ほんとう?」
「嘘はつかないさ。守ると決めたから、私は君たちを守る。この命を賭しても」
ミルが小さな声で「かっこいい……」と呟いた。何かとリョウがリーダーとしていろいろ頑張って、私はわき役に徹することが多いが、己の信条を貫くときは、どこまでも強くなれる。
私は紳士の誇りにかけて彼女らを守ると誓った。その誓いは私を縛るものでもあるが、私の力を何倍にも強くする。
やがて、月明かりに反射されるくらい水が見えてきた。出口だ。後ろから敵は……来ていない。私だけがそこから出て、まずは周りを索敵する。……よし、いないな。
「大丈夫だ。上がってこい」
幼女三人は自分の力では昇るのに時間がかかる。私が手助けをして地上に登らせた。お腹とかがとても「ンョウジョ!」っぽくて高揚感を覚えたが、顔には出さないでいた。
だが、俺のそんな高揚感は一気に覚めていった。
「……先回りされていたか」
囲まれさえされていないものの、目視されてると考えた方がよいだろう。右の方に敵三人。わたしだけで相手するには分が悪い。
「パイさん、ゾンビを何体か出せますか?」
「ん……二体が限界ね、それもさっきまで出していたやつだから、すぐにやられるかもしれない」
「心配しなくていい、わたしがやる」
そういって前に出たのはナツちゃん。手には、今まで背負っていた銃を握られている。
「まて、それではだめだ。あいては三人。おそらく君たちよりレベルが高いやつだろう。まともに戦ったらこっちがやられる。後退しながら戦うべきだ」
「だいじょうぶ。目視はされているけど、隠れながら戦えば、混乱させられる」
「それは――」
「フィルベルトさん!」
不意に手が温かいものに包まれた。それが何かと気づくのと、パイさんが俺に真剣なまなざしで訴えてきたのは同時だった。
「ナツならできます。もちろん、近接戦闘はフィルベルトさんとミルちゃんに頑張ってもらうけど、相手が三人ならできます」
「その根拠はどこに?」
「フィルベルトさん、ナツの職業……覚えてますか?」
「あ……」
言われてそのことに気が付いた。開発者のくせに今まで気が付かなかった自分にいらだつ。だが、そのことに気が付いたおかげで次々と作戦も思い浮かぶ。同時にかなり高揚している自分にも気が付く。自分の口角が上がっているのに、それを抑えきれない。
「パイさん。確かに私がバカでした」
「あ、いえいえ……って、ひゃぁ!?」
自分の非礼をわび、つないだ手をほどいて、その柔らかい体を私は抱きしめた。これなら相手が三人なら十分対応できる。もちろんアリアは戦闘に参加することはできないが、ミルにはいい経験になるだろう。ついでに、敵を倒せたらレベルアップも期待できる。
パイさんの体は一瞬びくっと体が硬くなったが、すぐに緊張が解け、両手を私の背中に回した。
「パイさん、おかげでいい作戦が思い浮かびました。協力してくれますでしょうか?」
「あ、も、もちろんですッ! フィルベルトさんのためなら……わたし……」
心なしか、月明かりに照らされた彼女の顔は少し赤みがかかっているように見えた。熱っぽいなら無理はしてほしくないなら、本人は大丈夫そうだから、よいだろう。
「……フィルベルトさんって大胆」
「ここまでできる人だとは思わなかったよ。パイさん、幸せそう……」
「フィルベルトって、普通の男だったのね、しかもなんかかっこいいし」
ロリ三人の声が聞こえて、あわてて抱擁をとく。そうだよな、パイさんだって人前でこんなの恥ずかしいだろうしな。またしても配慮が足りなかった自分が悔やまれる。って、アリア? 普通の男って何のことだ!? 私はロリを愛する紳士だぞ! 普通の男よりもっと高尚だ!
「では作戦を説明します」
だが、敵はまっちゃくれない。動きが無いわたしたちに警戒しているのか、じりじりとしか距離を詰めていないが、それでも時間はないので、手短に説明した。
「……と、ざっとこんな感じです。あとは各自の判断で行動してください」
『了解』
「あ、アリアはパイさんと一緒にいときなさい、そこが一番邪魔にならない」
「なによ! 邪魔にならないって!」
「お前は今度のエリア拡張時のアップデートが終了しないと戦闘できないだろ?」
「そ、そうだけどさ……う―……しょ、しょうがないわね。そのかわりちゃんと勝つのよ!」
「もちろんだ」
アリアはまだ何か言いたそうだが、それを押しとどめて、首を縦に振った。
「エリア拡張時?」
「あ、パイさん、気にしないでください」
運営側だけの話ですから。
「じゃあ準備はいいかい?」
「待って、フィルベルトさん!」
背中の刀に手をかけようとしたら、パイさんの手がそれを阻んだ。戦闘前にまだ何かあるのかと思ったが、何か欠点があったら作戦は崩壊する。彼女の真剣な目にしっかりと向き合う。
だが、彼女の行動は思ってもみなかったことだった。
突然彼女の体重が俺にかかったかと思うと、彼女のまつ毛が目の前にあった。心臓が止まったかのように静かになったが、そのことに気がついたらまた暴れだした。
長いような短い時間。彼女のは私から体を離し、りんごのような真っ赤な顔でいたずらっぽく笑った。
「ふふっ、勝利のおまじないです」
私は何か言おうとして……できなかった。何かいうのは野暮だ。彼女の顔を見て思った。
かわりに笑顔を作り、彼女の唇に、自身の唇を押し付けた。ほんの一瞬、挨拶程度としか見られないだろう軽いキス。
すぐに顔を離し、遠くの敵を見据える。
「じゃあ、作戦スタートだ」
私は言うと同時に地面を蹴る。パイさんの顔がどうなっているのか、想像するのは容易かった。
◆◇◆◇◆◇
作戦というにはあまりにもシンプルすぎる。まず前衛として私とミルが二手に分かれて、敵を挟むように攻撃。先手は私で敵の注意がこちらに向いたところで、ミルが後ろから首をズバンだ。首を跳ね飛ばして、一撃死してくれればよいのだが、経験をつんだプレイヤー相手ではそうもいかない。HPを大幅に減らしてくれればそれで十分だ。そして、いったん私とミルは後退。後退といっても、元の場所に戻るのではなく、ただ後ろに下がる。つまりは私と見るとの距離が離れる格好となる。ロリと離れるのかー……気が進まないなぁ。
そこからはヒットアンドアウェイ。私たちが後退する時にナツちゃんが援護射撃をするという方針だ。
パイさんはいつでも誰でも援護できるように三人から等距離のところにいてもらい、ついでにほかに敵がいないかゾンビで索敵してもらう。
欠点としては、私が敵から離れるときに私以外のところ……つまりは、パイさんやナツちゃん、ミルのところに行ったら、こちらは苦しくなる。それと、ナツちゃんの射撃ポイントがばれるのもまずい。そこは彼女の技量に欠けるしかない。見つかったときはパイさんがナツちゃんを守りながら逃げ、私たちは二人を追う敵を追撃する。
だが、前者はともかく、後者は大丈夫だろうと思った。それは彼女の職業から由来する安心感。
《魔法射手》。平たく言えば、《魔法剣士》のガンナーバージョン。特徴としてはその攻撃方法。スキルのひとつとして《鏡面狙撃》というものがあり、ランダムでフィールドに設置した二つの鏡と、自分の居場所の計三箇所からの狙撃を得意とする。射撃時に発射ポイントを選択することができ、銃の引き金を引くと、選択した場所から発射することができる。ただ、自身が移動しているわけではない。あくまで弾丸だけが魔法でワープしているのだ。
ただ、その魔法の鏡を破壊されると、そこからの射撃は不可能になり、一度スキルを解かなければ再使用はできない。それに、《鏡面狙撃》をするには大量のMPが必要になるので、あまり多用することはできない。
あと《魔法射手》は普通のガンナーと違い、たまに魔法の属性を付与したりできる。ただ、普通のガンナーとは違い、装備できる銃も発射できる玉も限られていて、防具は銃そのものも高価なものが多いため、燃費はすこぶる悪い。それに、攻撃力は銃そのものに大きく依存しているので上位プレイヤーほどあまり使わなくなる。
《戦車》フィールドが開放された後だから、装備が増えて、転職するやつももしかしたら出てくるかもしれないが……。金銭効率の悪い職業はもともと人気がない。それに、一からレベル上げをしたいなんて思う変な奴はそうそういない。
パイさん見たく、店を経営して一定の収入を得られる人なら別だがな。
ナツちゃんはすでにスキルを発動し、スコープを除いている。鏡の場所は知らないが、彼女に任せて低位だろう。それに、ここは砂漠。遠距離攻撃職が十字砲火できる楽園だ。私は静かに回りこんで所定の位置についた。
ミルもそろそろ位置に着いただろう。三人の敵は……魔法職が一人とあとは近接戦闘系……一人は斧、もう一人は双剣を使っているから間違いないだろう。
私は砂丘の陰に隠れ、刀を構える。こちらに背を向けたところで、一気に距離を詰め、刀を横に薙ぐ。
頭で考えるよりも、体で行動していた。刀はすんでのところで斧に防がれた。相手も反応が早い。三人とも男のようだ。
「……これはこれは、ヴァルヴァディアさんではないですか」
「む……《ログ・アウト》のフィルベルトさんでしたか。奇遇だな」
なんと一人の男は《センブルクの風》のギルドマスターのヴァルヴァディアさんだった。という事は、残りの二人も《センブルクの風》に所属しているやつとみて、間違いないだろう。
「何をおっしゃる、ずっと私を追ってきたではありませんか。夜にやってくるとは……夜這いにしては派手すぎますよ?」
「気付いてたか。さすがだな」
「私の手柄ではありません、ここで知り合ったほかのプレイヤーのおかげですよ」
暗くなった砂漠では夜でもよく動けるゾンビ系のモンスターを使役できるパイさんの独壇場だ。日が落ちたあたりから敵が近くで様子をうかがっている報告は受けていた。だからこそ、寝込みを襲われても冷静に対処できたのだ。
「夜這い……まぁいい。悪いが、死んでもらうぞ」
「ぜんぜん悪くないですよ。フリーフォーオールですから……ねっ!」
力で押し返されたが、ステップで勢いを殺して距離を取る。やはり、ヴァルヴァディアさんは強い。特にパワーがある。真正面から攻撃を受けるのはよくないな。
「まぁ、みすみすやられるつもりは毛頭ありませんし、むしろあなた方に死んでもらいますよ」
「ほぅ……ならやって――」
『な、ぐぁあ!?』
「完全にはやられてないようですが……まずは一人目ですね」
私との会話に集中しすぎですね。それに、部下の躾がまるでなってません。後ろへの警戒を怠るから部下の首が飛ぶんですよ。物理的に。
「ナイス、ミル!」
「えへへー、じゃあ一撃当てたから下がってっと……」
ひとまず作戦通り。相手が《センブルクの風》だから首を飛ばすのは難しいと考えてはいたが、予想以上にうまくいった。初撃はうまくいったので、作戦通り俺らは後退する。
「くっ、逃げる気か」
「あなたがおってこれば問題ないでしょう? これまでのように、ストーカーのようにね」
「バカにしおって……」
我ながら口が悪いとは思うが、これくらい言って相手の精神を揺さぶった方が良い。あいてはただでさえ奇襲をかけられた後なのだから落ち着くのは少し難しいだろう。
挑発に応じたのか、標的にしたのは私。魔法職の男は少し離れ、ヴァルヴァディアさんと双剣の男が左右から挟むように迫ってくる。魔法職の男がミルの一撃を食らったのだから、妥当と言えば妥当な布陣。
が、作戦通りだ。
二人の後方で何かが光ったかと思うと、火柱が上がっていた。ナツちゃんの援護射撃だ。特別強力な奴を打ち込んでくれたらしい。
爆炎がやみ、あとに残ったのはもうもうと立ちこめる砂埃と、ポリゴン体となって消えていくプレイヤー。あー……パイさん、ナツちゃんの装備の相当金をつぎ込んだんだなー。いい銃を使っていらっしゃる。強すぎ。オーバーキルですよ。
だが、感心している場合じゃなかった。双剣の男は後ろで起こったことに目を奪われて呆けているが、さすがはヴァルヴァディアさん、ちらっと見ただけで、足は止めなかった。
縦に振られる斧を刀で受け流し、そのまま首に切っ先を向けるが、上体をそらして避けられた。それならばとそのまま縦に刀を振ろうとしたが、それより早く、私の腹にヴァルヴァディアさんの蹴りが入っていた。
「ぐ……」
「おどろいたが、これから反撃させてもらうぞ」
やはり三次転職したプレイヤーは強い、レベル補正がかかっているとはいえ、二次職とはスキルの威力もステータスも全然違う。ミルはミルで元々レベル差があったのか、双剣の男を相手にかなり苦戦しているようだった。それでも拮抗しているように思えるのはナツちゃんの援護のおかげだろう。
斧と刀がぶつかり合い、互いにはじかれる。距離を取ってヒット&アウェイ戦法を二人はさせてくれなかった。
だが、不意にヴァルヴァディアさんの動きが止まった。
「だが、我々の作戦勝ちだ」
口角を上げて嘲笑するようなヴァルヴァディアさんの顔がはっきりと見えた。俺の後ろで光が落ちたからだ。振り向けば、パイさんがゾンビをおとりにして他のプレイヤーに追われている。だが、アリアは見えない。
「《ネクロマンサー》に《魔法射手》かずいぶんと特殊すぎる職業のせいで手間取ったが、まぁ見つければ敵ではないな」
「フィルベルトさん! すみません、敵に気が付いた時にはもう囲まれていて……」
「気にしないで、それより敵に集中して」
「あ……はい!」
向こう側では、ナツちゃんも追い込まれてミルと合流している。向こう側の方が敵数は少ないが、二人のレベルと職業を考えると包囲網を突破することは難しい。
「あぁ、それと、鏡は全部破壊しておいたぞ。夜だからみつけるのがつらかったが……場所によっては月光に反射されてよく見える」
さすがはヴァルヴァディアさん。大型戦闘ギルドのトップだけあり、集団戦闘で自分有利に場面を運ぶのが上手い。戦力を引き付けておいて、敵の後方を叩き、一気に追いつめる。おかげでこっちは一気にピンチだ。
「さすが、集団戦闘が得意ですね。裏でこそこそやってたとはね……対応しきれませんでしたよ」
「褒め言葉として受け取っておこう。それに、わたしも君たち《ログ・アウト》は評価しているよ。少数ながら特殊なメンバーと、周りの目を何とも思わない胆力。このイベントでは脅威になり得ると決めたから、予選初日からつけてきたのさ」
「それはそれは、《センブルクの風》のギルマスにそのような言葉をいただけるとは、光栄です」
皮肉たっぷりで言ってやったのに、それを受け流されては居心地が悪い。それに、周りの目もいとわないってのはあのフンドシ変態野郎だけじゃないか。私は関係ない。
「きゃぁ!?」
「ミルちゃん!? ……く、近接は得意じゃない」
だが、考えている暇などなかった。敵さんは待っちゃくれない。ミルがついに押し切られてしまった。その幼い体に斬撃を叩きこまれる。そして、遠距離攻撃を得意とするナツちゃんも攻撃を食らい続ける。
「くっ、パイさん走る――ぐぁ!?」
「行かせはせん」
すんでのところで刀で受け止めたが、ヴァルヴァディアさんの重量のある斧の勢いは殺しきれず、ミルとは反対側に飛ばされてしまった。何かにとめられて吹き飛ぶ体は止まったが、ダメージは大きい。パイさんが受け止めてくれたのだ。
「フィルベルトさん、ここは私がゾンビを出して、それと一緒におとりになりますから、逃げてください。ここから真後ろにアリアちゃんが待っています。そこで合流して体を休めてください」
「だめです。彼らは強いのでゾンビでは一瞬でやられてしまう。それに、敵……計七人ですか、それだけのモンスターを召喚できますか?」
「う……で、でもそうしないと」
わかっている。このままでは全滅だ。誰かをおとりにするのが、成功率は低いが一番効果的な作戦のように思える。だが、パイさんを残して逃げれば男として一生恥を背負って生きていくことになる。なにより、ミルとナツちゃんが悲しむだろう。そんな作戦は却下だ。
なら私がおとりになればとも思ったが、それも駄目だ。敵は人数を割いて逃げたみんなを追撃するだろうから。
「ひとまず、ミルとナツちゃんのもとに行きましょう。パイさん、敵とすれ違うより少し前に、敵の目の前に何かモンスターを出してください。見た目が怖いやつなら何でもいいです」
「わ、わかりました」
彼女の手を取り、地面を蹴る。未だに戦闘を続けているミルとナツちゃんのHPはどんどん減っていき、今では既にイエローゾーン、あと少しでレッドゾーンだ。
「逃がさんよ」
だが、当然合流を阻むヴァルヴァディアさんが目の前に立った。そこで、パイさんは一体体がドロドロに溶けていて、かろうじて人だと分かるようなゾンビを、ヴァルヴァディアさんに張り付くような近くにところに召喚した。……うわぁ、きもい。
当然、目の前にそんな気持ち悪いものが出れば誰だって一瞬はそっちに気を取られるわけで。なんとか彼の脇を抜けられた。
「甘い」
「な……重い……」
が、現実はそう簡単にはいかなかった。彼は、目の前に出現したゾンビごと俺たちを斧で薙いだのだ。なんとかパイさんをかばって彼女は無傷でいられたが、私のHPはレッドゾーンに到達してしまった。
みれば、ミルもナツちゃんもHPはレッドゾーン。パイさんはイエローゾーンだ。まさに大ピンチ、相手は七人、こちらは四人。逆転なんてできそうにないが、腹の下から湧き上がるような不思議な力が「勝てる」と思わせてくれた。
「ふ……ふふふ、はははは」
「どうした、フィルベルトさん。ついにおかしくなったか?」
「ははは、人のことより、自分の心配をしたらどうですか? 油断大敵ですよ」
「心配されるまででもない。それに君たちは満身創痍。もう勝負は見えてるさ」
「あぁ、私にも見えますよ。あなたたちが地面に倒れる未来がねぇ」
「ほざけっ!」
確かにこちらは大ピンチだ。だがしかし、私は負けない。さっきのミルとナツちゃんの戦いを見ながら確信したのだ。二人の女の子に三人の相手が攻撃していた。ふざけるな。
ヴァルヴァディアさんのスキルをまとった斧が俺の脳天めがけて振り下ろされる。
避けはしない。受け止めもしない。
私はその斧ごと、彼の腕を切り落とした。
「なっ!?」
突然失った自身の腕を見て、すぐさま後退したヴァルヴァディアさん。対する俺は赤く揺らめく光をまとっていた。手には刀。離れたところには切り落とされたヴァルヴァディアさんの腕と、斧。
「知っていますか、ヴァルヴァディアさん?」
「何をだ?」
「このゲームのことですよ。プレイヤーはあまりにもゲームのことを知らなさすぎる」
「何を言っている?」
「このゲームの開発メンバーは欲の深い連中だ。それに、遊びも大好きだ。それぞれ暴走もする。あなたたちが予想もしないようなスキルやイベント、NPCや職業も存在する」
赤い光が一層輝きを増す。全身が力で満たされていく。これは分かっている。力の源は……私の紳士の心。
ポーンと、おなじみの機械音が響いた。
『称号:《幼女をこよなく愛する戦士》の発動条件が整いました。
称号:《幼女をこよなく愛する戦士》を発動します。』
「貴様は天使を傷つけた。この紅い炎は彼女らの血の色と同じ。私は今、紳士から、戦士となる」
恋愛ものを書きたかった。でもコメディーも書きたかった。パイさんを可愛く書きたかった。
そして、初めてキスシーンを書きました(・・;
あまーく、したかったです。




