ノートゥングの少女
暴走してすみません。
こうなったのは私の責任だ。だが、私は謝らない。
ウゾダドンドコドーン!
茶番はこの辺にして本編をどうぞ。
大会が行われる数時間前……。
私はいつも通りリアライズ・ワールドの制服を着る。リアライズ・ワールドの制服は赤と白を基調とした私服に限りなく近いものだ。服の袖に腕を通すと、ようやく今日が始まったような感覚を覚える。いつものことだ。
最後に、鏡で自分の服装を確認する。黄色に近い茶髪のショートに、同じような色の大きな瞳。少し幼さが残っているのが私的には残念だが、特に気にしていない。最後にシンプルなヘヤピンをつけてようやく準備が整う。
出発の直前になり、わたしは自分の小さな手を眺める。今でもその選択が正しかったのか疑問に思う。
軽く、手を開閉すると愛剣であったノートゥングの感覚が蘇る。わたしの手の中にもう愛剣はない。今は《魔剣の欠片》となってアイテムボックスの中にある。何故、完全に喪失するのではなく、こうなったかは不明だ。
だが、一つはっきりとした事実があるとすればそれは―――――――
私は強化スーツを身に纏えなくなったことだった。
◆◇◆◇
事は数日前に遡る。その日はVRMMOでは珍しい雨の日だった。わたしはそんな降り注ぐ雨の中で一人の女性と相対していた。
女性と言っても自分と同じぐらいの身長の人物だ。雨の光すらも反射しそうな銀髪のショートカットで、手には大きな槍が握られている。目は右が紅く、左が蒼い。その人物は私服に近い軽装を装備している。
私は強化スーツを身に纏い、右手のノートゥングをかまえる。ノートゥングはボスドロップの片手剣だ。そして、それが強化スーツのチカラの源になっているのだ。
「ねぇ、フェン……。もう終わりにしよう?」
わたしがフェンと呼んだ人物は空を見上げて、動こうとしない。彼女の本当のキャラ名は『フェンリル』だ。私が愛称を込めてそう呼んでいるに過ぎない。
彼女とあったのはとあるダンジョンだった……。
彼女は横にいつも頼りなさそうな男子を連れていた。そんな彼女の顔はいつも目的をやり遂げようとする瞳で輝いていた。けれども、そんな幸せは長くは続かない。
死んだのだ。
その男子が……。しかも、彼女の目の前で死んだのだという。そんな彼女の心に受けたダメージは計り知れないものだっただろう……。それから彼女は変わってしまった。
来る日も来る日もモンスターを狩り続け、まるで目的の失ったゾンビのように単純な行動しかとらなくなった。それを見ていられなくなった彼女の友人は返り討ちにあった。
その友人が語るには彼女は一種の狂気に憑りつかれているようなのだという。
その話を聞いて、私は即座に彼女の元に駆け寄った。私が彼女の話を聞こうとしたところ、彼女は私に槍の切っ先を向けてきた。そして、こう言ったのだ。
『邪魔するならあなたも断罪するよ?』
虹彩がまったくない瞳で見つめれたわたしは恐怖で動くことができなくなり、ただ、彼女の背中を見送るしかなかった。そんな折、私の元に迷い込んできた案件があった。それは天魔帝国軍のある男性からの依頼だった。
彼は私にこう言ったのだ。
『ともに、彼女を止めてほしい』
その男性の名は『大文字』と言っただろうか……。遅かれ、早かれ人間である彼女が疲弊してモンスターに倒されてしまうのは時間の問題だった。
だから、この案件は私に再び動く勇気を与えてくれたと言ってもいい。私は彼女を止める……。いや、救うために再び動き出したのだ。
◆◇◆◇
降り注ぐ雨の中、彼女は私の問いに自嘲気味な笑みを浮かべて喋りだす。
「なに? 今度は彼氏まで巻き込んであたしを止めに来たの?」
「いいえ、むしろ僕が彼女を巻き込んだんですよ……」
「そう……。まぁ、どうでもいいわ……。あたしはただ、モンスターを狩り続けるだけだし……。みんなに文句を言われるんだけど、何か悪いのかな?」
「悪いですよ……。このままではフェンが死んじゃいます!」
私は必死で訴えたが、フェンの心に響いている様子は全くない。むしろ、槍の切っ先をこちらに向け、威嚇してくる。
「前に言ったよね……。邪魔するならあなたも断罪するって……」
「やれるもんならやってください。私はもう逃げません……」
「そう……。残念だわ……。あなたのような人を失うなんて……」
その言葉と同時に彼女は地面を蹴り飛ばし、一気に私に迫る。だが、その攻撃は間に割りこんだ大文字によって防がれる。
「僕だって逃げません……」
「邪魔……」
彼女は槍を地面に突き刺してそのまま大きく跳躍する。フェンの体は大文字を乗り越えようとする。大文字は先ほど盾にした大剣を再度構え直そうと両手で掴み直そうとした。
刹那――――――
雷光にも似た速さの踵での蹴りが振り向こうとする大文字の背中にささる。
宙に浮き、体がくの字に曲がりながらも、大文字は強引に体を曲げ、振り向こうとする。そのせいで大剣は彼の手元から離れ、濡れた地面に刺さったまま放置される。
振り向いた大文字が目にしたものは槍を構えて空中からこちらに突進してくるフェンの姿だっただろう。大文字は当然避けることができず、胸の中心にその槍が当たる。
大文字の着ていた鎧と槍が激しいライトエフェクトを放つ。一度で終わらないということはスラスト効果でも出ているのだろう。
途中で、フェンは止まったが、大文字は慣性の法則に従うように後方に吹き飛ばされて一本杉に激突する。私は大文字が苦悶の声を上げる姿まで見ることができなかった。
1コンマたりとも目線を逸らそうものならやられることは間違いない。
「どうすればあなたは止まるのかな……」
「さぁ!? この槍でも壊せば止まるんじゃない?」
「そう……。じゃあ、壊すよ……」
そう言って私は地面を蹴り上げる。その動きに迷いなどない。アーマーブーツのスプリングが一度大きく上がり、地面を叩きつけることによってそのスピードは一気に加速する。
フェンも反応して、槍を前に突き出す。私も同時に牙突の体勢にはいる。
私のノートゥングとフェンのガングニールがぶつかり、青白いライトエフェクトがほとばしる。互いの後ろの地面が抉れ、数秒後にようやく停止する。
私は腰にある小さなブーストを使い、跳躍するように再度距離を詰める。そして、槍の柄の部分を叩こうとする。
だが、フェンは同時にさがっており、私の剣がぶつかったのはまたしても彼女の槍の鏃だった。ランスのにも似た大きな鏃のため、やはりぶつかってしまう。
私は彼女の槍を力任せに弾き飛ばす。今度は、左手に剣を移動してパリィ状態のフェンの体を引き裂くように回転しながら切ろうとする。彼女は私の剣を持った手を蹴り飛ばし、今度は私がパリィ状態になる。
彼女の槍の攻撃は流星のように飛んでくる。私はそれを全て剣で弾き飛ばそうとする。だが、全ては弾き返せずに所々、アーマーを破損させながらも耐え抜く。
私が全ての攻撃を弾き返すと、フェンは少しだけさがって距離をとった。
「ねぇ、あなたもその武器を壊せば諦める?」
「私は諦めない!」
「……あなたならそう言うと思ってた……。でも勝算はあるの?」
「思いつきを数字で語れるもんか!」
それを合図に再度、攻防を繰り返す。彼女の実力は明らかに私より上だ。けど、そんなことを私は気にしない。
私は相手の攻撃を何度も弾き返し、フェンの槍の何度も攻撃する。その光景はおおよそ数分間続けられる。
フェンの攻撃を剣で防いだ衝撃で後方にさがると、再び会話できるぐらいの距離になる。
私は剣を地面に刺し、彼女の様子をうかがった。
「で、どう? 啖呵を切った割にずいぶんとボロボロじゃない?」
「ううん。全然ボロボロなんかじゃない……。だって、私の足はまだ地面についている!」
強く自分を鼓舞してはいるが、私の体力はすでにイエローゾーンに突入している。かすり傷でここまで削れたのだ。
もう、覚悟は決めていた。最後は華々しく同士討ちでもしようじゃないか……。
「でも、根性だけじゃ何もできないよ?」
「わかってます……。だから―――――――」
私は一度息を大きく吸い込み、今度はゆっくり喋りだす。
「Macht wird warum getragen. alles in einem Lied gern bewahren. das Schicksal gern verändern. Geben Sie mir die Macht bitte, jemanden zu bewahren.」
胸元に激しい痛みが走り、体が急に火照り始める。同時に私から激しい光が放出される。
だが、私は歯を食いしばり、さらに言葉を続ける。
「クロックスタート! XDっ!」
私の強化スーツは即座に修復され、より強化される。マフラーが現れ、腰のブーストもさらに強化される。
私は地面をバンカーで蹴り飛ばし、さらに腰のブーストで二段加速する。それと同時に私のHPが減少を始める。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
私の咆哮と共に、剣の牙突が槍の先端にぶつかる。先ほどまでよりも激しいライトエフェクトが迸り、ノートゥングが嫌な音を立てる。
剣に亀裂が走り、一瞬のうちに粉々に砕け散る。それと同時に、私の纏っている強化スーツが光りに包まれ始める。憑代を失って消え始めているのだ。だが、それよりも早く、スーツの方が悲鳴を上げ、ミシミシと亀裂が入り始める。
だが、まだ時間はある。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私がこぶしを振りぬくと同時にバンカーが降りてきてナックルダスターのようになる。ナックルダスターとガングニールがぶつかると再度、激しいライトエフェクトが迸る。
だが、今度はガングニールの先端に亀裂が走り、一瞬のうちにポリゴンの欠片となる。それと同時だったかわからないが、強化スーツが完全に砕け散ろうとした。
「D.Cっ!」
強化スーツが砕け散る直前に私はそう叫んだ。それと同時に私の体は完全にリアライズ・ワールドの制服へと戻る。当然のことながらステータスも元に戻っている。だが、体勢は変わらない。体の至る所が反動で痛みを発しているがそんなことは関係ない。
《D.C》によって、私の体の体勢が直前の体勢――――――つまり、こぶしを引いた体勢に戻る。
「目を覚まして!」
私は元からの勢いを生かしたまま、フェンの顔面を殴り飛ばす。フェンの体は何バウンドも濡れた地面に叩きつけられ、ようやく止まる。
私はボロボロの体を引きずって動き出す。HPはほんの数ドットだけ残り、呪文のせいでステータス異常がかかっている。だが、その途中で足がもつれて地面に倒れてしまった。冷たい雨が頬を叩く。
私は再度立ち上がろうとしたが、状態異常のせいで立ち上がることができない。前を見ると、倒れていたフェンが起き上がった。
そして、そのままこちらに向かってくる。彼女のHPも先ほどの一撃でオレンジゾーンにまで到達している。だが、こちらと違ってステータス異常はない。
フェンは仮想の雨で銀色の髪を濡らしながら、こちらを見下してくる。そんな彼女の前に誰かが立ちふさがった。
「もう、止めましょうよ……」
そう、大文字だ。大文字のアーマーはすでに壊れ、今はインナーだけになっている。それでも大文字は両手を広げて動こうとしない。
「邪魔……」
フェンは予備の槍をポップさせ、構える。威力こそガングニールに劣るが、この状況では最強の装備になりうる。なぜなら、私は指一本動かせず、大文字の大剣は遠くの地面に刺さったままなのだから……。
それでも、大文字は足を引こうともしない。
「もう……止めて……」
フェンは槍を振りかぶり、勢いよく大文字の体を突き刺す。それとほど同時だっただろうか、大文字が心の限り叫んだ。
「もう、止めてください……京子先生!」
フェンの槍が大文字の体を貫き、ダメージを与える。幸いなことにイエローゾーンに到達したところで止まったが、継続のダメージが入っている。そのため、大文字のHPは少しずつ下降を始めていた。
だが、槍を持っているフェンの手は震え、すでに持っている槍を手放している。大文字は自身の力で体にささった槍を引き抜いた。
「あなたは頑張りました。だから、もういいんです。もう、無理をしなくていいんですよ……」
「あなたまさか……柊二……くん……なの?」
大文字は黙って首を縦に振った。そしてゆっくりとした口調で喋りだす。
「先生だって気づいているはずです。こんなことをしても失われた命は戻ってこないって……。それに、先生がやっていることは単なる自殺です。自分で自分を殺せない。それなにに死のうとしている……」
「はは……。はははは……。何やってるんだろ……。その通り……。あたしは結局臆病者なんだ……。死ぬこともできず、生きていても他人がそばにいなきゃ正気でいられない……。心の支えがなくちゃまともでいられない……」
その言葉を聞いた大文字は自分のかけているメガネをとり、虚空に頬り投げる。
「なら、僕がその支えになります! だから、先生は生きてください! 生きて、死んだ彼がどんな生きざまを見せたのかしっかりと伝えてください!」
「え―――――――っ!?」
「彼がどんなことを考えて行動していたかは誰にもわからない。でも、彼がどうしていたのかを彼の家族に最後まで伝える義務があなたにはある。それを放棄して死ぬなんて僕が許さない……」
「……………………」
フェンはしばらく押し黙り、うわ言のようにつぶやきはじめる。
「カノン……ごめんね……。そうだよね……。選択肢はすでに出てたんだ。けど、あたしはそれを無視し続けた……。でも、やっぱりあたしには決められない……。だから、しばらく時間をちょうだい……。すべてに踏ん切りがついたら絶対に報告するから……」
そう言って彼女は降りしきる雨の中、一人で歩いて帰って行ってしまった。大文字は後ろ髪をひかれる思いでそれを見つめ、彼女が見えなくなると、満身創痍の私を担いで街まで戻った。
◆◇◆◇
それから、大文字は天魔帝国軍を自分から辞めた。そして、今に至るというわけだ。
私はお会場に着く、間柄にリュージに会いに行った。目的は当然のことながらノートゥングの修理だ。
私は直接リュージに品を見せる。すると、リュージは即座に顔をしかめた。
「うーん。まぁ、修理はできないが、インゴットみたいには使えるんじゃないのか?」
そう言って彼はギルドの奥の方に行き、数分後に戻ってくる。彼の手元には一本の剣が握られていた。愛剣のノートゥングではない。リュージからそれを受けとり、剣の名前を見てみると、《魔剣グラム》と表示されていた。
私は静かに目をつぶり、歌い始めようとする。だが、リュージが即座に私の口を押える。
「おぉっと、すまん。できればここで歌わないでもらえるか?」
「あぁ、すみません。そうでしたね。アサミさん……。大丈夫ですか?」
「まぁ今は大丈夫だ」
「大変ですよね……。師匠もそのせいで大会に出られないなんて……」
私がこういうと、リュージは苦笑いを見せる。
「なに言ってるんだよ。元からうちのギルドは大会に出る気はない。お前も知ってるだろ?うちの方針」
「はい。強さや欲におぼれず、鳥のように自由に……。でしたっけ?」
「その通りだよ。うちはレアアイテムや一位なんてものには興味がない。ただ、この世界を楽しもうとしているだけだからな……。まぁ、でも、カノンは出るんだろ?だったらがんばれよ」
「はい。師匠!」
リュージはボサボサの髪をいじりながら答える。それに対し、私は元気よく答えた。そして、軽い礼をすると、静かに《蒼い鳥》のギルドの家を出て行った。
そして、会場に向かう途中で、適当な路地を見つけ、奥に入り、静かに目をつぶり歌い始める。
「Mein Lied kann gehört warden, guram tron」
数秒経っても何の変化も訪れなかった。私は苦笑いして自分の頭を抱える。今さら公開などしない。それに過去の自分を否定したくなかった。
だから、自分の両頬を軽く叩き、目を覚まさせる。
「よし! 行きますか!」
少し名残惜しいけれどこれでよかったのだろう。近接戦が皆無になっただけで、プリーストの魔法はきちんと使える。ただ、とっているスキル的に考えると、使える攻撃魔法は初期の魔法ぐらいしかない。
変身できないことなど気にしてなどいられない。
大会に参加する以上は勝ちあがる方法を考えた方がいい。
私は自分を鼓舞して会場へと向かった。
はい。これで終わりです。結果的に大変なことになりましたが、大会に参加するのにドラマが無くてはつまらないでしょう?
お分かりだと思いますが、私が操作を希望するキャラは『カノン、夜桜』です。《蒼い鳥》のメンバーは完全に不参加です。いろいろと立て込んでますからね。それにアイテムと威厳ごときであの人たちが動くとは思えません。人って単純じゃないですからね。
次はリターンするので奈良都翼さんです。




