見える。見えるぞ!
こんにちは。一葉楓です
一応、俺たち《ログアウト》の拠点っぽいものは《イシス》にある。「ぽいもの」とぼかすのは、それが正式な拠点じゃないからだ。ほかのギルドと違って小さいものだし、できて間もない。ある宿の大き目の部屋を借りてそこで夜をすごしているのだ。
資金不足のため部屋はひとつしか借りれない。ベッドの数には困らないが、一応男と女がいるのだ。誰か不満を漏らすかなーと思っていたが。
「従妹なんだから気にすることないじゃない」
「ロリ以外には興味ない。もちろん男にもだ。かといって私は絶対にロリに手を出さない」
「わたし、お兄ちゃんと同じベッドで寝ていい?」
「わたしはミルと同じベッドで!」
誰も反対しなかった。なぜだろう、誰か反対するかと思ったのに……不思議。
ということで、ギルド結成から五日目の朝を迎える。各ギルドへの挨拶とリュージやカノンとのごだごだがあって、そのあとはミルにせがまれて一日遊んだらいつの間にか五日たっていた。
昨日は一日遊んだ――といっても手短なところでレベル上げっぽいことをしただけだが――俺のレベルは上がらないくせに結構疲れた。ミルはもともとのレベルがそんなに高くなかったから結構上がったみたいだが……それでも三次転職にはまだ早い。40レベに達したとしても三次転職は危ないだろう。俺やフィルベルトがもう少し強くなってやろうと思う。
余談だが、フィルベルトは結構強かった。俺ほどではないが、夜桜よりは強い。先頭向きでないプリースとである夜桜を基準にするのもどうかと思うが、そこそこの強さはあった。
フィルベルトのジョブは《侍》で、武器も太刀だった。速さと攻撃力に重点を置いているらしい。まぁフィルベルトは俺と同じ死んでも死なないからこの振り方になるのは当然といえば当然なのだが……。
と、語られないくだらないことを思い出しながら体を起こす。俺の右横のには夜桜、左横にはミル、その隣にはアリア。みんなまだ起きそうにない。ちなみにフィルベルトは今日はいない。リアルで仕事があるらしい。
「おい、起きろ。今日は移動するぞ。ほら」
夜桜の肩をゆすって起こす。すると、目をぼんやりと開けて体を起こした。
「……はぅ……あぁ、おはよう」
「まだボケてんな。さっさと顔洗って来い。ミルとアリア起こすから」
「ふぁい……」
おぼつかない足取りで洗面所に行く夜桜。後はアリアとミル、二人も同じようにして揺さぶって起こす。
こないだのように全員放っといてどこかに行ってもいいのだが、帰ってきたら夜桜とミルにむっちゃ怒られたので自重しなければならなくなった。それに、今日はギルドとしての仕事のようなものがある。大したことではないのだが、なるべく早くしたほうがいいと思ったので朝から動く。
俺はすでに準備はできているので女性陣の身支度をひたすら待つのみだ。ただぼうっと待っているとミルにせがまれたので髪を梳かしてやった。ゲームの世界の感触だとはわかっていても、ミルのさらさらの髪はとてもいい。ミル超かわいい。
アリアもやってほしいといってきたが、それは夜桜に任せた。ちょっと残念そうにしていたが、また今度な? 次はアリアにやってあげるよ。
「準備できたか?」
『はーい』
うむ。いい返事だ。ということで宿のチェックアウトを済ませて外に出る。目指すは……ネフティスだ。
道中、ゴブリンや犬、サルに襲われたりしたが、《女帝》クエストの経験があってか難なく倒せた。もちろんアリアは見てて、応援しているだけだったが、その代わりというかミルがよく動いてくれた。身の丈ほどもある真っ黒いカマを振り回してサルやゴブリンの首を狙い、頭と首を一撃でおさらばさせる。急所を狙っているのでクリティカルヒットが多かった。真っ黒い装備とカマとこの戦い方……まるで死神だ。敵を倒して笑顔になって「どうだった?」って抱きついてくるミルはかわいいのだが、ちょっと複雑な気分だ。頭をなでてやると気持ちよさそうに目を細めるのだが、そのほっぺには返り血がついてたりするもんだからなぁ……。
「ここがネフティスかぁ……真っ暗だね」
「あ、そうか、夜桜だけ来たことないんだよな。ミルは武器を作るために一度来たことがあったと聞いたけど?」
「うん。全部ここで作ったよ」
「よく一人でこれたね?」
「パーティー組んでほかの人と一緒に来たんだよ」
まずこの町ですることは宿探しだ。《女帝》の攻略が終わった今、《イシス》にいても特にやることがないから次の攻略対象になりそうな《皇帝》の近くの町にやってきたというわけだ。ではなぜ《皇帝》の直轄フィールドである《スサノヲ》に行かないのかというと、《死神》が攻略対象になる可能性もあるからだ。すぐに動けるように二つのボスの中間地点に来たというわけだ。実際は《死神》のほうは若干イシスよりのところにあるんだけどね。
さて……できることなら安い宿がいい。NPC経営の店はあるにはあるが、若干値が張る。ユーザー経営の店に行ったほうが何かと便利なことがあるだろう。俺たち《ログアウト》は資金が全然ないんだから。
「あ、良。あのホテルはどう?」
「何だあのベルサイユ宮殿みたいなやつは? 高いから却下だ」
「わたしは野宿でもいいんだけどなー」
「アリアはよくってもミルと夜桜ががよくないだろ。こいつらはちゃんと屋根の下で寝かせないと」
「え、もしかして良……わたしのこと心配してくれてる?」
「いいから宿探せ。なるべく安いやつ」
女性三人ははぺらぺらしゃべるだけで歩くのが遅い。やっぱり朝起こしてきてよかった。《ネフティス》はずっと夜だから関係ないのだが、このままだと日が暮れる。いや、暮れないが時間を食いすぎる。
すると、ミルが何かを見つけたかのように小さな路地に入っていった。追いかけようと思ったが、すぐに出てきた。
「お兄ちゃん、見つけたよ! 値段はイシスで止まった宿の半分!」
「お、でかした。どこにあるんだ?」
「こっちだよー」
ミルに手を引かれるまま路地に入る。薄暗い街灯が照らす中しばらくすると少し開けた道に出た。そこにはミルの言うとおりホテルがあった。キラキラと真っ暗闇の中必要以上に自己主張するホテル。看板に書いてある値段表を見てみると、そこに書かれてある数字は確かにイシスで止まった宿の半分だ。だけど……
「ミル、残念だけどこれはだめだ。ほかの宿探すぞ」
「えー何でぇ!?」
「何でもだ。ほかの宿探すぞ」
「何で!? 夜桜お姉ちゃんは? ここでいいよね?」
「あ……ぅ……」
「ほら、夜桜だって困ってるじゃないか。行くぞ」
「何でよー!」
何で……か。それを教えるには、ミル、君は幼すぎる。大人になるといろんなことを学んでしまうのだが、これもそのひとつだ。ミルから見れば普通の文字で、普通のホテルに見えるだろうが。俺たちからすればそれはホテルでもホテルじゃないんだよ。
だって……『ホテル』の文字の前に『LOVE』って書いてあるんだぜ?
「だめなものはだめなんだ」
ミルはこれを説明させるには早すぎる年だ。何とかぼかさないと……
「夜桜お姉ちゃんはだめ? ここだめ?」
「わ、私は……良が相手なら……」
「発情するな馬鹿。ミルもアリアもいるんだぞ」
「うぅ……」
さっさとここから離れよう、あらぬ疑いをかけられたら元に戻れない。特に世間から変態認定されている俺としてはこれ以上やばい噂をかけられたくない。
『ねぇあそこにいるのって……』
『ほんと、変態で有名な《白褌の一本気》だわ』
『ラブホの前で何やっているのかしら……』
『見て、あの変態、三人も連れているわ! しかも二人は幼女よ!』
『まさか……三人いっぺんに? さすがは変態、あのプレイヤーは人類の敵だわ』
『最低野郎ね。死すべき変態だわ。他のプレイヤーに知らせないと』
やめて! ほんとにやめて! 精神的、社会的に俺死んじゃう! 身体的に死ねないのに別方向で俺死んじゃう! ついでにフィルベルトに殺されちゃう!
俺は急いでその場から離れた。いろいろ手遅れになってしまったが、走らずに入られなかった。走らないと俺の精神がとても保てそうになかったんだ。
ようやくたどり着いたのはネフティスの町の端っこにある宿。墓地と隣接するこの宿は準日本風の瓦葺でユーザー経営の安い宿だった。けれど、少しだけ問題があった。
「これは……出そうだな」
「絶対出るわよ。出なきゃおかしい」
「ちょっと怖い……」
暗いこの街の中、この宿、《ブラックボックス》を照らす薄暗い光がいっそう雰囲気を演出させる。隣には墓地があるだけあって、ところどころひび割れた瓦屋、古そうな木材は俺たちにそう思わせるには十分な怖さがあった。
この宿、ぜってー何か出る。主に……霊的な何かが。
「と、とにかく入ろうぜ。何せ安いんだし」
「うん……他にホテルないもんね。ここしかないよね……」
「こわいよぅ」
暗い色をした木製の引き戸を開けて中に入る。中はやっぱり和風の旅館のような内装で、すぐそこにカウンターがあった。誰もいないのが気になるが、とりあえずカウンターの前で誰かを呼ぶ。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
俺の声が旅館の中を突き抜け、こだまするも消えてしまう。……返事なし。どうしよう? もう一度ネフティス中を探し回ってもいいんだが、正直それは面倒だ。この宿が使えるのならここに泊まりたい。お化け屋敷みたいだが、さすがに本当にお化けは出てこないだろう。
「はいはいはーい。お客さんねー」
しばらく待っていると、カウンターの奥の部屋から声が聞こえた。よかった、やっぱり使えるみたいだ。暖簾をくぐって奥の部屋からやってきたのは普通のプレイヤー……。
「吸血鬼!?」
「ぬ? 初対面相手に失礼ね。私は普通のプレイヤーですぅ」
オレンジ色の紙に赤い瞳、小さくとがった八重歯がのぞいていて、背中には真っ黒いこうもりの羽。どう見ても吸血鬼だ。
「この旅館の経営をやってます。ジョブは《死霊魔術師》のパイです。よろしく!」
「リョウです。よろしくお願いします」
妙にテンションの高いパイさんはそのジョブに見合った服をしていた。黒いマントに、おへそが見える赤いシャツ。カウンターに隠れて下半身は見えないが、きっとそれなりのものなんだろう。背中の翼も装備なんだろうな。ってあれ? こうもりの羽以外は普通じゃね?
「で、何人? 四人かな?」
「いえ、あと一人いるので五人でお願いします。大き目の部屋をひとつ」
「ひとつ? 一緒の部屋で寝るの!?」
「はい。そうですけど……」
「ほほぅ……」
何ですか、その目は。
「リョウくん、なかなかやるねー。フフフ……」
「そんなんじゃないですよ。金がないだけです」
「あらそーう? 何ならやっちゃいなよー。誰も見ちゃいないんだから」
「しませんよ! 何ですか、やっちゃいなって!?」
まったく。俺は紳士なんだ。そんなことするわけないだろう。
「ふーん。なら私と?」
「やめてください」
「だめです! リョウは私のです!」
「だれのでもねぇよ」
「そういいながら……さっきから私の胸見てるじゃなーい」
「う……」
いや、そんなことは断じてない。確かにパイさんの胸は夜桜なんて比べ物にならないほどご立派であるが、そればっかり見ているわけじゃない。いや、腕を持ち上げて強調しても無駄だ! だからやめろ! 体を伸ばしてアピールしないでください!
「リョウ……」
「な、何だ……?」
「鼻の下伸びてる」
「は、そんなことはないさ! 俺はいたって普通だ! 健康的だ!」
「後で二回殺してあげるわ」
「理不尽だ!」
後ろからどす黒いさっきにおびえながら、手続きを終えた。そして、旅館の手続きが終わると同時に……俺の意識は遠くに飛ばされた。HPは残っているが……状態以上なんて、卑怯だぞ。
くそう。意識が遠のく……谷間が……見える。
すいません霧々雷那さん。私にあの暗号を解くのは無理です。日常回を書かせていただきました。
では、次の人、お願いします!




