ロリコン曰く燃えよカオス
こんにちは。一葉楓です。辻褄合わせに苦労しました。
大文字から聞いた《女帝》ダンジョン攻略の話。《女帝》は《イシス》を領土としているアルカナボスだ。《イシス》の海岸から見える孤島に《女帝》はいるらしい。孤島にいるおもなモンスターは犬。《流星犬山大陸軍》が《女帝》を守るモンスターだ。ただ、《イシス》周辺の森にいる奴らと違って孤島にいる犬たちは単純に強さが違うらしい。プレイヤーと同じような防具と武器を身につけ、それぞれの職業に合った技を使ってくることに変わりはないが、どれもグレードが上な物ばかり使っている。
それでもマイナスなことばかりではなく、たまに犬たちはレアな武器や防具を新品の形でドロップすることがあるらしい。《多刀流》を使えるくせにシルバーソード一本しか持っていない俺にとってはうれしい話だ。ちなみに防具はいらん。あったらもらうが、動きが鈍くなる防具は要らない。俺、死なないし。
と、まぁ長々と《女帝》について回想してはいるが、俺がいるのは《ネフティス》の墓場だ。
今回も夜桜はいない。ミズキとトモキに預けていった。あれから夜桜は目を覚まさず、ずっと寝ていたのでトモキたちのギルド、《クルセイターズ》のギルド本部に寝かせてもらっているのだ。夜桜は今回はボス攻略戦に参加できそうにない。
ただ、気になったことが一つだけ。《碧い鳥》のギルドメンバーの行動だ。
あいつらは確かに憎悪むき出しに俺たちを攻撃してきた。つまり、リリアが彼らの前に現れる前は彼らはリリアが死んだものだと思い込んでいたという事だ。
同じギルド……しかもリリアがギルドマスターとなればなおさらおかしい。リリアが死ねば同じギルドメンバーにギルドメンバー死亡のシステムメッセージが届くはずだ。仮にそうでなかったとしてもギルドメンバーメニューを見れば生きているか死んでいるかの判別は簡単につくはずだ。
そもそもどうやってリリアが死んだって分かったのだろうか? 初めの一言から推測するに、彼らはリリアを殺した……と思われるところにいなかった。つまり、夜桜がリリアを襲ったかどうかを知っているのは夜桜とリリアだけのはず。殺人現場を見なかったのにどうしてリリアが死んだと思ったのだろうか?
そこで俺は《ネフティス》の墓場に来た。リリアは生きているのだからあるはずはない。暗い夜の墓場の道を歩きながら、ひとつひとつ、墓石に刻まれている文字を確認する。
あるわけがない。だって、リリアは生きているんだ。生きているプレイヤーの名前がこの墓場に刻まれているはずがない。
しばらく歩くと、角が円い墓石があった。苔が生えていて、古ぼけた印象を持つ一つの墓石。そこには『liria』の文字があった。
「なん……で?」
確かにこれはリリアのユーザーネームだ。死んだプレイヤーの名前しかここには刻まれないはずなのに、リリアの名前は確かにここにある。同名の別のプレイヤーか? それとも新たなバグ?
「……リョウ。何でここにいる?」
「え? ……って、リリアか。何でこんなところにいるんだ? 《女帝》攻略の準備はしなくてもいいのか?」
「リョウが気にすることじゃない。さっさとどっか行ったらどう? ここにいる理由はないでしょう?」
「確かにそうだが……」
……おかしい。普段のリリアならこんなこと言わないはずだ。いや、本当にこいつはリリアなのか?
リリアは俺を押しのけてさっきまで俺が見ていた墓石の前に立った。まるで俺から墓石を隠すように。
カマをかけてみる価値は……ありそうだな?
「おい、リリア」
「ん? なに?」
「……いや、お前はリリアじゃないだろう? 正体はなんだ? 夜桜と同じような『かーでぃなる』だとかいうやつか?」
正直。『かーでぃなる』って何のことか分からなかった。かっこよく決めようと思ったのに、そこだけ棒読みなのは見逃してくれ。あれか? モンスターみたいなものか? それともバグのことか?
リリアの動きがピタッと止まり、首だけをこちらに向ける。口元をゆるませてはいるが、目は笑っていない。鋭く、射抜くように睨んでいる。
「……なんのことかしら?」
「うん……。まず、俺の質問から返答までの空白が一つの証拠。違うのならば即座に否定できたはずだ。それに二つ目、それがその墓場に刻まれている文字だ。それはお前の名前だろう? システムは覆らない。ならばお前はリリアに化けた何かだ。そして――」
「フフフッ」
「なにがおかしい?」
「フフッ、いやまぁね……よく分かったね、リョウ君」
瞬間、リリアの体が一瞬にして俺と同じくらいの背丈の男のものへと変わった。少しパーマがかかった髪に、褐色の肌。眼鏡をかけていてずる賢そうなキャラの顔をしている。
「……決定的なものがそこに在るじゃねぇか。墓石」
「うん。すぐに消そうとここに来たんだけどね、それより早く君がここに来ちゃっただけさ」
男はこちらに向き直り、頭を少し下げながら言った。
「こんにちは。私は『フィルベルト』」
「ん? フィルベルト? ……アリアが話していたロリコン野郎のことか!?」
「違う! ロリコン紳士だ!」
「どっちでもいい! ってことは、運営側の人間だな? 今すぐ全プレイヤーをこのクゾゲームから解放しろ!」
「それはできない! ロリ成分が足らないことでは確かにこれはクソゲームだが、それでも解放はしない」
「ならば……殺す」
シルバーソードを抜き、上段から振り下ろす。しかし、そこに在ったはずのフィルベルトの頭は突然消えた。
「無駄だよ、わたしはログアウトできるプレイヤーだからね。殺しても殺せないのさ」
「な――!?」
いつの間にか俺の後ろに立っていた。眼鏡を中指でクイッとあげて、ドヤ顔している。うぜぇ。
「ま、秘密を知ったからと言って、君には危害を加えないよ」
「俺が……リリアの正体がおまえだってばらすかもしれないぞ?」
「それには心配いらないよ。夜桜をあんなふうに言った君を……誰が信用すると思うかい?」
「――ぐっ」
確かにそうだ。《碧い鳥》のメンバーは俺よりもまずリリア……もとい、変化したフィルベルトを信用するだろうし、大文字もそうだろう。夜桜は意識が戻らないままだし、トモキとミズキはリリアを知らない、蚊帳の外の存在だ。
「どうして……リリアに化けている?」
「フフフ、わたしの目的はただひとぉつ!」
「なんだ?」
なんだ? プレイヤーを全滅させることか? それともほかに運営が絡んでいる何かがあるのか?
「アリアたんを間近で眺めることだぁああああ!!」
「……………………は?」
「私は自他ともに認めるロリコンだ。だからこそアリアたんをこのゲームに作った。しかしどうだ! このゲームをプレイしなければアリアたんに会えないではないか! だから私もこのゲームに参加することにした。無論、わたしだけはログアウト可能でな。そして、アリアに近いプレイヤーの一人、リリアが死んだ。私はこれがチャンスだと思ったね。リリアのプレイヤーデータ全てを私が引き継ぎ、他のプレイヤーからが私を見る時はリリアを見ていると同じようになるよう細工もした。大変な作業だったし、あの夜桜を言い負かすのにも骨が折れた。このすべてはアリアのためだあああああ!!」
ダメだこいつ、早く何とかしないと。
「でもお前、アリアを転移結晶で《オービット》に戻したじゃねぇか」
「あれは《碧い鳥》の信用を得るためだ。背に腹は代えられなかった。あの時私は、自分の手でアリアをお前から引きはがすしかなかったんだ」
「そ、そうか……」
「だが! そこは私たちの腕の見せ所! 必ずやアリアやルシフェル、黒子美晴を意味たちの手に戻す! 私だけでなくリナやヨシの願いでもある!」
なんかどっかで聞いたことあるぞ、その名前。確か……ああ、そうか。阿部ルシフェルと黒子美晴を作った奴の名前だったな。
「できんのか、そんなこと? できたら戦力上がるから俺たちにしては大助かりなのだが……」
「できる。その証拠に、君たちはまだ指輪を持っているだろう?」
「あ、あぁ。確かにな」
「私はアリアのためならなんだってやる、この身をすべてアリアにささげる!」
やばい、こいつはマジだ。本物の……変態だ。字分は一見かっこいいように見えるのだが、自分の性欲丸出しの最低やろうじゃねぇか、こいつ。
「まて、じゃあリリアは死んだのか? このゲームだけでなく、リアルでも死んだのか?」
「いや、リリアだけはそうではない」
「はぁ?」
「この姿は私が君の元へアリアを戻し、再びウハウハするためだけにある。突然良く分からないやつがいるより、ある程度お前と接点のあるプレイヤーの方が動きやすいと思ったのも、私がリリアの姿をしている理由だ」
「じゃあ、アリアが俺の元へ戻った時は?」
「もちろん、リリアをゲームに復帰させる。その時、他者との記憶に齟齬ができることは免れないがな」
そんなことできるのか? アリアを戻すっていうのはまだできそうな気はする。フィルベルトは運営側の人間だし、自分の性欲だけに忠実だ。しかも大きすぎる欲望。これを原動力にして本当にやってのけるかもしれない。
けれど、一度死んだ人間……リリアを復活させることなんてできるのか?
「リリアはゲーム内では死んだが、リアルでは死んでいない」
「本当か!?」
「あぁ、念のために殺すことをストップさせて眠らせてあるのだが……生かしておいて正解だったよ」
「マジか……そんなこともできるんだな」
「アリアが君の元に戻れば、私はログアウトしてリリアを復帰させよう。私はアリアさえ生きていればそれでいいのだ」
じゃあなんで転移結晶なんて使って飛ばしたのか意味不明……と言いたいところだが、ここは黙って聞い――
「あれは私も予想してなかった。びっくりだ」
「な!? 心が読まれただと!? まさか新手の――」
「スタンド使いではない。ただ欲望が強いロリコンさ、ちなみに二つ名は『幼女をこよなく愛する戦士』」
「くっだらねぇ!」
こいつホントに屑野郎だな! ここまで欲望むき出しにされると弾くわ。マジないわー。
「本来、アリアたちは《オービット》や《ユーッグオン》が解放されるまでは召喚用モンスターであるはずだったんだ。転移結晶を使っても、時間がたてば戻ってくると思ったのだが……どこかの歯車が狂ったみたいだ。それさえ修正すればアリアたちは君たちの元へ戻る」
「うーん……アリアは《オービット》で眠っていたっていう噂が流れているけど、カーディナルは許してくれるのか?」
「そもそも、それ自体がおかしいのだ。むしろカーディナルは積極的に君たちの元へ戻さなければならん。わたしのアリアのために!」
お前のじゃねぇ。俺のアリアだ、てぇだすな。
「《オービット》はまだプレイヤーに解放されていないのに、そんなこと確認できるわけないだろう?
あれもわたしが流した噂さ」
「うへー。さすがは欲望丸出しロリコン。やることの綿密さが違うわー。マジきもい」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ」
「まぁいい。あ、それと、私も今回は《女帝》攻略に参加するので、よろしくな。では!」
「……あぁ。うん」
言うと、フィルベルトは姿をリリアに変えてどこかに去って行った。さっきまでそこに在ったはずの墓はだんだんと透けていき、ついにはその姿を消した。
……なんだったんだ、あの変態は?
◆◇◆◇◆◇
手に持つはまっ白い両刃の白い剣。横幅が広く、15センチほどの幅のある曇り一つないまっ白い剣だ。刃渡りは一メートルくらいか? ちょっとした大剣くらいの大きさもありそうな魔法剣だ。
「どうだい、リョウさん? 《ポセイドン》のドロップ素材で作った魔法剣は?」
「すごい……ですね。それにこれ、水属性魔法のステータスアップスキルもある。耐久値も申し分ないし……やっぱりボス級のドロップ素材から作った剣はすごいですね」
ゴウさんから受け取った刀を軽く振って感触を確かめる。墓場に行く前にゴウさんの店に立ち寄ってボスドロップアイテムで作ってもらったのだ。完成の連絡を受けて店に行って受け取ったのがこの剣……。
「魔法剣、《海楼》か……」
正直、むっちゃ厨二な名前だとは思ったが、その力は思っていた以上だ。軽く力を入れると刃が薄く青白く光った。おそらく、通常攻撃に加えて水属性の物理攻撃も付加される剣なのだろう。
「ありがとうございます!」
「おう、じゃあクエスト頑張れよ」
俺は店を飛び出して《イシス》へと走る。《パープル・ガロウ》や《桃源針》は確かによわっちろいモンスターからとった素材で作った武器だから壊れても仕方がない。《クレーバー》は言わずとも……だ。
だけど、この武器ならば壊れないだろう。そう簡単に壊れたらボスドロップアイテムとはなんだったか問うことになる。
《イシス》の攻略本部にはすでに人が集まっていた。俺はクエスト参加の手続きを済ませると、少しうろつきまわる。
こういう時って、自分がぼっちだってのを嫌っていうほど自覚させられるよなぁ。周りはほかのプレイヤーと喋ってんのに俺だけうろうろ歩いてるだけだぜ? ぼっちオーラ丸出し。
「っと、大文字!」
「ああ、リョウ君」
いったー!! 知り合いみっけ! 俺はぼっちじゃないぜぇ!
と、大文字が背負っている剣が今までとは違ったものだと分かった。何か一回り大きくなった気がする……。
「この剣? エンさんとヤスさんに頼んで《ファルネウス》のドロップアイテムで強化してもらったんだ。まだ試してないから楽しみだよ」
その後、大文字と話している内に人は集まってきた。今回のクエストのリーダーを務めるのは《天魔帝国軍》らしい。
ちなみに俺の知り合いで《女帝》攻略に参加するのは、大文字、ギルド《碧い鳥》のメンバー、もちろんリリアに化けたフィルベルトも参戦している。あとはギルド《クルセイターズ》のメンバー、それと響だ。夜桜は未だ意識が覚めないらしい。《クルセイターズ》のメンバーが何人か残って見てくれているから安心かな。
『それでは、これから《女帝》攻略の作戦会議を始めます!』
攻略本部に響く声。攻略もしっかりとやるが、それ以上に《海楼》を試すのも……楽しみだ。
以上です。今回は新キャラ出しません。出してもどうせ殺されるので。よって今回は新武器だけ。ボスドロップをそのまま使った武器なんだから、まさか壊れないよねぇ? これで壊れてシルバーソードが壊れなかったら……なんて考えたくありませんね。
ではでは、次の人クエスト頑張ってー




