《星降る湖》、血に染めて
一葉楓です。
この話ができた理由はただ一つ。てめーは俺を、怒らせた。
《タイム・アップ》
俺のリリアのウインドウに決闘終了の表示が出た。決闘用のHPバーが消え、通常の物へともどる。
「……なんだったんだ」
膝から地面に崩れ落ちる。ぐるぐる考えが巡って頭がパンクしそうだ。
なにが起こった?
アリアが大人になった。これはいい、前回のリベレーターの時も同じように大人になったからこれはアリアの能力の一つとして理解できる。
突然リリアと決闘させられた。俺もリリアも何もしていないはずなのに突然決闘になって……。じゃあなんで決闘になった?
アリアが門の前で道をふさいだ。
一番わからないことだ。AIで召喚用モンスターなのだから、俺の意志とは関係なく行動できるのだろう。しかし……指輪の持ち主は俺だ。俺に立ちはだかることがあるのか? いや……考えにくい。
そもそも召喚も武が持ち主にたてつくことなんてあるのか? ないだろ。召喚も武は普通の召喚士が……例えばリリアが何かを召喚する時と同じで主に危害を加える事は無い。
バグか? それもないかな。いくらなんでもそれじゃあバグが多すぎる。じゃああの気絶ミッションでの弊害? そんなはずないだろ。俺に異常があるのならともかく、元から制作されていたアリアに異常が起きるなんてのはありえない。
じゃあ結論は……何らかのイベントの前触れ。それか、リリアをアリアが敵と認識したかのどっちかだろう。
突然決闘になった事だけはわからない。イベントの前触れと言えばそれで済む話だ……いや、イベントとリリアたちが敵の場合の二つが同時に起こっているなんてこともあるのか……。
「あーも―、わかんねーえええぇぇ!!」
叫んだってなにも分からないことに変わりはないのだが、叫ばずにはいられない。わからなさすぎる。アサミの説明くらいわからなさすぎる
ちくしょう……この分からなさすぎる説明やら現象やらは……『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』のせいか。どうもあれに全ての「分からない」が帰結しているっぽい。
クエスト攻略すれば全部解決するのか?
も、もう……ゴールして、いいよね?
違う。クリアだクリア。クエスト攻略。
「クエストに行こう。さっさと行ってクリアするぞ」
もう……いいや。さっさとクリアしちまおう。
俺はメッセージで知っている限りのプレイヤーに連絡をし、これからボス攻略をするってことだけを伝えた。そしてある程度の人数が集まったんだ。クエストに行くのは俺とリリアとアサミとアヤと大文字と響と……
「もちろん私も行く。良が行くなら私も」
夜桜だ。
いや、もう変なことしませんよ。夜桜様に付いて行きますよ。ロリコンでもありませんしホモでもないですよ? まぁ、夜桜がいれば戦力もかなり上がるからいいにはいいけどね。
ちなみにミズキとトモキは参加不可らしい。
らしいと言葉を濁すのは、あいつらからメッセージの返信がなかったからだ。どこかのフィールドにいるのか、攻略化レベル上げでもしてんのか……二人それぞれの愛を育んでいるのか。
うん。心底どうでもいいと思ったね。俺はホモじゃないし、ましてや女じゃないからレズでもない。かといってユリ好きってわけでもないからあいつらの思考は分からん。
けれど……せめてバイセクシャルでいてほしいもんだ。
という事で、二時間後に《イシス》に集合することになった。リリアのMPがゼロであることに加え、場所が場所だ。それぞれの準備もいるだろうから二時間とかなりの余裕を持つことにした。
さて……俺はかねてより考えていたことを実行するため、《月光猿森連合軍》の向こう側にある街……《ネフティス》に一人向かった。
けれど、なぜか夜桜は俺についてこなかった。あいつのことだから俺を殺してでも付いて行こうとするだろうに……物理的な意味で。
うひゃぁ、怖い。
◇◆◇◆◇◆
《ネフティス》はアルカナボス……つまりはこのログアウト不能ゲームを脱出するための主要の21体のボスのいない町だ。《皇帝》は一番この町に近いが、この町に属しているわけではなく、この隣街の《スサノヲ》に属している。
《ネフティス》の一番の特性は……昼がない。一日中ずっと夜だ。しかも白夜のような薄明るい太陽が見えないだけの夜ではなく、四六時中ずっと闇に包まれている。街中には街灯がともってはいるが、東京の夜のような明るさではなく、どこか薄暗い。街から出ればそこには墓場や、湿った不気味な森がありゾンビ系、ゴースト系のびっくり恐ろしやのホラーなモンスターがうようよしている。
まあちっと……って言うかかなりこいつらは怖い。夜の暗闇で視界が良くないせいもあって突然出てきては気持ち悪く動いたり、そこら辺の障害物を透けて出てきたりするんだから寿命がいくつあっても足りない。
この街に来たのはレベル上げやフィールド探索じゃない。この街には武器……中レベルの武器がいろいろ売り出されているのだ。
周りのフィールドの一部に猿森連合軍の森もある。そこから猿たちを倒して、ドロップされた装備をここで加工するという事がよくあるらしい。
できる武器のレア度はそんなに高くはないが、それは素材だけのせいではない。NPC任せではレア武器なんて手に入るわけがないし、生産職プレイヤーはまだまだ未熟だ。一次、二次転職の選択肢がアレだっただけに生産職プレイヤーは少ない。けれど、それでも今の俺には十分だ。
本来はリリアにあげるはずだった短剣を加工してもらって俺に使いやすい剣にしようと思う。結局忘れちゃって今も俺が持ってたんだよなぁ、これ。
本当はボスドロップとかなんかスゲー素材を武器にしたかったんだけど生憎俺には何にもない。ホントに何もない。桃鹿と紫熊の素材くらいだ。流石にこんなのは使えない。弱すぎワロタ。桃鹿の肉はうまいけど。
と、まぁ《魔術師》のボスドロップはミズキとトモキの《クルセイターズ》。《恋人たち》のボスドロップは《ミックスベジタブル》。《女教皇》のボスドロップは大文字……かな? それかそれを攻略したどこかのギルドが持っていて、俺は何一つ持っていない。
でもいいや、俺は《多刀流》で使う武器を作りに来たんだ。そんなに強くなくていい。今持っているのは初期レベルの武器だからもうちょっと強いのが欲しくなっただけだ。
俺は歩きながら《ネフティス》の中でも異色を放つ明るい市場にやって来た。薄闇の中人が集まればそれなりに光も出てくるわけで、光あるところに人は集まる。
そこは《ネフティス》の中で武器屋アイテム類を売っている店が多く立ち並ぶ通りだ。宿泊区や居住区とは違ってかなり明るい。
俺は適当に歩いてなるべく人の少なそうな店に向かう。集合時間は二時間後で、もう三十分は過ぎている。人の居ない店で手短に武器を作ってもらおう。
「よぅにーちゃん。武器欲しいんだろ? 俺の店にこねーか?」
……いや、チンピラに絡まれたときは無視ろう。流石に変な人に付いて行ったりするほど俺は馬鹿ではない。
「おいおい、無視すんなよ。これでも腕はいい方なんだぜ? なぜだか客はこねーんだけどな」
そりゃグラサンリーゼントの彫りの深い顔したガタイのいいお兄さんの店なんて怖くて行けないよ。見れば、確かにあんたの店だけ結界が張られたみたいに客はいねーし。
歩いていたところ突然話しかけてきたのはチンピラっぽい俺より背の高い男だった。黒髪リーゼントに真っ黒な細いグラサン。タンクトップ一枚に首には白タオル……これだけだったら職人みたいな感じはするのだが、いかんせん放っている雰囲気と体格特徴が怖い。一言でいうなら……ガタイのいい不良かヤーさんだ。
「いえ、俺はもっと別なところへ行きます。急いでいるので……」
こういうやつからはすぐに離れるのが一番。手で制しながらさっさと未知の奥へ逃げようとするが……
ガシッ
「まぁまぁ、うちの店によってけや。なに、とって食ったりなんかしねぇよ」
「あ……あ……ハイ。ヨロコンデ」
首根っこを掴まれたかと思うと、ドスの利いた声で店に放り込まれた。
あぁ、俺の人生ここで終わりなんだ。法外な金を請求されて俺はここでタダ働きさせられるんだ。集合時間に遅れて夜桜にボロ雑巾にされるんだぁ……。
俺の意志なんて無関係にやーさんに首を掴まれて、入った店は……
「いるぁっしゃぁい!」
「らぁっしゃい!」
威勢のいい声とともに、顔中傷だらけのこれまたガタイのいい男が二人、迎えてくれた。一人は短髪で少し太り気味、もう一人は痩せているが筋肉はありそうな長身。
うぅん……ヤンキーの巣か? ヤーさんの巣か? どちらにしろ……怖さしかないよ、裏の世界のお店だよ。夜桜の二分の一くらいの怖さだよ。
「おぅおぅ、兄ちゃん。俺たちの店を見つけるなんざぁ運がいいねぇ」
「名は知られてねぇし、客も少ないが腕は確かなんよ」
さ、さいでっか。い、いや、そんな詰め寄られても困ります。それに見つけたんじゃなくて連行された……。
「あん? なんつった?」
「な、なんでもないっす! いやー良さそうな店ですねぇ」
「良さそうじゃなくて良いんだよ」
「そ、そうっすか……」
長身の人はヤス。ちょっと太り気味の人はエンというらしい。そして、今でも俺の首根っこをつかんで離さないのが、ゴウさん。……うん、怖いよ。
でも、店に入ったからには逃げられない。さっさと武器作ってもらってさっさと《イシス》に行こう。
「で、リョウさん。あんたの職業は?」
「魔法剣士です」
「は? 魔法剣士!?」
そりゃ驚きますよね。防御無視の攻撃特攻隊長の職業の魔法剣士なんてデスゲームで選択してたら自殺志願者以外何者でもないだろう。
呆れられたか? と思ったけど、ヤスさんとエンさんは見た目に似合わずに店の中を飛び回って「いやほぉおいぃ!」なんて騒いでる。ちょっと引くよ。あ、ゴウさんに殴られた。「落ち着け」って。俺の首を掴んだまま。
「いやーすんません。ようやく俺たちぴったりの『客がキタ━━━(゜∀゜).━━━!!!』と、思わず舞い上がっちゃいました」
ヤスさん、その顔文字、似合わないっす。使うのやめて……なんて口には出せない。
「で、リョウさんは何をご所望で? 武器? それとも防具?」
「あ……えっと、剣が欲しいです。できることなら魔法が使えるもので。できれば三本ほど……」
ゴウさんに首を掴まれたまま答える。って、やめて! 地面に足がつかない! そしてなぜかHPは減ってない!
「じゃあ今から作る。使ってほしい素材とかはあるか?」
って、これから商談っすか!? もうおれこの店から逃げられないじゃん! もうやめて! 良の逃げ場はゼロよ!
ソファーに放り投げられた俺は、ゴウさんの威圧に押されながらアイテムボックスからリリアにあげるはずだった短剣を渡す。ついでに桃鹿からドロップした《桃色の皮》と《桃色の角》、紫熊からドロップした《深紫の皮》と《深紫の爪》を差し出す。
ゴウさんはそれを見て、手を顎に当てて考える。……いや、これって結構つらいよ。何がって? やーさんみたいなリーゼントグラサンと面と向かって何もしゃべらない静かな空気に耐えるのって結構つらいよ!? 夜桜の正座折檻半日コースの四分の三くらい怖いよ!
しばらくしてゴウさんは顔を上げた。そしてヤスさんとエンさんを呼ぶと、二人にアイテムを渡して作業場に追い込んだ。
「作業は三十分かかる。代金は……そうだな。三つ合わせて8,100MJでどうだ?」
十分予算内。こんな重い怖い空気からさっさと逃げ出したい俺は代金の8,100MJをゴウさんに渡して
「よ、よろしくお願いします。三十分後にまた来ます!」
店から転がり逃げました。
ようやく解放された俺は外の空気をいっぱいに吸ってほっと一息。
『おらぁ! てめぇら、珍しく客が来たんだからしっかり仕事しろやぁ!!』
『『オッス、ゴウさん!』』
店から響くやーさん(もうやーさんでいいや)の声にビビりながらさっさと道の奥に逃げました。
もしかしたら……《ネフティス》で一番怖いスポットって、モンスターが出てくるフィールドじゃなくてこの店じゃないのかな……?
大分歩いてもいまだに聞こえるやーさんの声とそれに応える舎弟(?)たちの声にビビりながら三十分過ごす俺だった。
◇◆◇◆◇◆
待ち合わせにはまだ時間はある。《ネフティス》から《イシス》までは遅くとも45分で着く。走って敵を無視って行けばもっと早いだろう。何なら一回死ねば最終ログアウト地点の《始まりの町》まで一気に行ける。
で……俺は今、怒声の鳴り止んだやーさんの店の前で深呼吸していた。不自然にこの店の前にだけ人は寄ってこない。
動物は本能で危険を察知してそれを本能で回避することがあるという。いまのプレイヤーにはそれと同じような事象が働いているのだろう。誰も……やーさんの店なんて行きたくない。
気が重いが、来なかったらどんな目に合うか分からない。俺は死んでも死なないから大丈夫だけど恐怖は別物だ。無いに越した事は無い。
木製の扉を開けて中に入る。
「し、失礼しま―……す」
三十分前の怒声が嘘のように静まり返った店内。カウンターには誰もいないし、商談したソファーにもゴウさんもヤスさんもいない。怖いくらい威勢のいい……いや、実際にちょっと心臓が止まる威勢のいい「いらっしゃい」も聞こえない。
「い、いないなら仕方ないですね。で、ではまたいつか」
「おう、リョウさん。武器できてるぜ」
突然の首を絞められる感覚と妙な浮遊感……って、足が地面についてない。
「まさか……逃げようとしたんじゃないだろうな? 俺たちがせっかく作った渾身の武器を捨ててよぉ」
「あ、あははは。ま、まさかそんなことするわけありませんよ。あっはっは」
「ホントか?」
「モチロン。リョウ、ウソツカナイ」
いやだなぁ。やーさん相手に嘘なんてつきませんよ、ハッハッハ。
首根っこを掴まれたまま必死の営業スマイル。にかー。
「おい、リョウさんどうした? ちょっと気持ち悪いぞ」
ほっとけ!
「まぁ武器はできた。ちょっとそこに座ってろな」
「あ、はい、って投げないでくださいよ」
「大丈夫だ。きっちりソファーに着地したろ?」
「そういう問題じゃないですよ!」
「っせぇな。なんか文句あんのか?」
「いいいいいやいやいやいや。ないっすよ、やだなぁもう」
「ほれ、武器三つ。一つは短剣、後の二つは魔法剣だ」
ゴウさんが差し出したのは。一つは短剣……って言うかナイフ? コンバットナイフだよね、これ? もう一つは細長い剣。桃色のレイピアだった。まっすぐ伸びた歯輪斬るというより突き刺すことに使う剣だ。もう一つは、刃渡り五十センチくらいの銀色の両刃の剣。紫色でごわごわした手触りの柄とクマの爪をモチーフにした鍔が特徴的だ。
コンバットナイフが《クレーバー》。桃色のレイピアが《桃源針》。紫色の両刃の剣が《パープル・ガロウ》という名前だった。
「どうだ? ちなみに《クレーバー》と《桃源針》が魔法を使える剣だ。杖や本と同じように使えるぞ。魔法剣士や近接戦闘をしたい魔法師にぴったりな武器だ」
「ありがとうございます。ではこれで」
「まぁまて」
「ぐえ。なんですか!? っていうか首掴まないでくださいよ。いや、降ろしてください。足が地面についてないぃぃ!」
「これからクエストに行くのか?」
「あ、はい。この武器使いますので」
すると剛さんは立ち上がってヤスさんとエンさんを大声で呼んだ。正直、耳が痛い。物理的な意味で。
「俺らも行くぞ」
「はぁ!? なん――」
「暇だからアフターサービスをする。文句あっか?」
「ないっす。どうぞどうぞー……はぁ」
俺の意見なんてやーさん相手にとおるはずもなく、また言い返す度胸もあるはずもなく、ゴウさんヤスさんエンさんは『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』に同行することになった。
◆◇◆◇◆◇
《イシス》のはずれにあるフィールド《星降る湖》。リョウたちと別れて一時間後。まだ八時のこのフィールドはだれもいない。きれいな夜空を見ることのできるフィールドではあるが、それは夜の話。それ以外の時間帯ではただの人気のない湖だ。
大丈夫だ、わたし以外誰もいない。いや……私と、一人だけいる。
「夜桜さん? どうしたんですか?」
「うん。ちょっと気になることがあってね……」
自分の名前を呼ばれて振り返る。先ほど暴走したアリアを止めた《召喚士》のリリアがそこにはいた。
《星降る湖》の柔らかい風がそっと頬を撫でる。静かすぎる湖には私とリリア以外、だれもいない。モンスターさえいない湖は、風で気が揺れる音しか響かない。
「さっきの良の召喚モンスター……アリアのことなんだけど」
さっそく話題を切り出す。私は偶然傍から見てただけだが、それでも異常事態というのは分かった。そして……そのリョウの召喚モンスターのアリアをリリアが殺そうとしたことも。
「リリアは……あの時、アリアを殺そうとしたでしょ? なんで?」
「うん、ああするしか……方法がなかったの」
リリアは口ごもりながら言うが……嘘だ。そんなはずない。
「決闘モードのルールはね、周囲のプレイヤーが見たらどんなものか分かるものもあるんだよ」
「知ってるよー」
「あの決闘はね……HPを全損させても死なないルールになってたわよ」
「え……!?」
リリアは口に手を当てた目を見開くが本気で驚いているとはとても思えない。
「けれど、アイテムやMPは失う。あのままアリアを殺していたら良の貴重な戦力を一つ失うことになっていたのよ」
「あ……っと、ごめんね。でも、あの状態のアリアは危険だったよ、それならあの時消しても大丈夫だったんじゃぁ……」
「ダメ。アリアは《オービット》の主。あそこで死なせるわけにはいかない」
「え? 夜桜さん? 突然何?」
ふぅ……。やっぱりこれだけじゃなにを言っているか分からないよね。じゃあもうちょっと深く突っ込まなくちゃいけないかな?
「そういえば、リリアはリアル世界ではゲー研やっていたんでしたっけ?」
「あ、リョウから聞いたの? アサミたちと一緒にやってたからちょっとはこの『ジョクラトルオンライン』についても詳しいよ」
「じゃあ攻略の情報とか持ってるの?」
「うーん。残念だけど、攻略に関しての情報はほとんどないの。今一番重要なのは夜桜さんたちのが巻き込まれたクエスト『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』についてのことだけ」
「その情報源はどこから?」
「え? えっと……今までのゲームの経験と、VRMMOのネットでの前情報。あとは私たちの推測と可能性を絞って出した情報かな?」
私は心の底から思った、『呆れた』と。もっともらしいことを並べて信憑性を高めてはいるが、どれもこれも確定的な裏付けはない。つまりは
「どれもこれも推測の域を脱しえない情報ね」
推測でもないよりはいい。けれど、その情報を全面的に信じてたプレイヤーの戦力を低下させられたらたまったものじゃない。
確かに良の話を聞いた限りではアサミっていう子はそういう情報を集めるのが得意そうだし、考えたり、可能性のある選択から吟味して信憑性のある一つの情報を作り事は得意そうだ。けれど、所詮は推測。確定的な情報じゃない。
「はぁ……馬鹿ね。そんな情報だけでアリアを殺そうとしたの?」
「なっ!? ば、馬鹿じゃないです! そんな情報って、しっかり研究して出た情報です!」
「しっかり研究? どこからの情報から推測してその結論が出たの?」
「ネットでの前情報とか……他にもいろいろあったんです!」
しどろもどろになりながら言うリリア。だけど……バッサリ言わなければならないわね。
「実体験に基づく情報や、運営側が公開した情報じゃないってわけだ」
「そりゃ実体験に基づく情報なんてあるわけがないし、何より世界で初めてのVRMMOなんだから実体験に基づく情報があるわけありませんよ。それに運営が公開した情報なんてこの『ジョクラトルオンライン』は一切公表してないし、何よりプレイ中のわたしたちが見れるわけないじゃないですか!」
「だからよ」
「へ……?」
自分でわかっているじゃない? とは言わない。自分でわかっているのに自分たちの情報が確定的なものだと信じて疑わないなんて……心底呆れるわ。
「確定的な裏付けは一切ないじゃない。だからどんなに頑張ってもあなたたちゲー研の情報は『推測の域を脱しえない曖昧な情報』なのよ」
「ぅ……」
「それに、目の前の事象に流されて他人の戦力を低下させないで。『呪い』といっても持ち主に悪い事は無いじゃない。それに《錆びたシリウス》を壊せば呪いは解けるだろうけど、呪いを解くかどうかは良次第。誰かに頼まれたわけじゃないのに、あなたがでしゃばって良い事じゃないわ」
「ご、ごめんなさい」
「私が気絶した理由についての情報は何も言わない。けれど、指輪と『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』を結びつけるには分からなくはないけど、ちょっと無理がある」
リリアはまだ何か言いたそうだったがそれを飲み込み、顔を上げた。若干涙目になりかけてはいるが、気にしちゃダメ。
「うん。ごめんね。確かに私たちのっている情報って全部推測だったね」
「推測でも情報を持つことは悪くない。けれど、それで他人のアイテムや戦力を奪うのはダメ。誰かが死ぬわけじゃないんだからね」
「ハイ……」
「私が言いたいのはそれだけよ」
話は終わり。リリアはあのアリアとの決闘の後すぐにここに来てもらったからまだ『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』の準備ができてないだろう。
「じゃあ私はクエストの準備に行きます。まだMPの回復もしてないし、他にも装備の準備もしたいので」
「待って、リリア」
「ハイ?」
私はいつも身に着けている杖を取り出しながらリリアを呼び止める。
「《ブロックフィールド》」
モンスターに限らず、プレイヤーまでも逃げることを不可能にする魔法をリリアにかけた。同じ効果で《照準固定》というものがあるが、これは魔法使いじゃない職業……剣士や格闘家ようだ。
当然、リリアは驚いた。それはそうだ、なぜ自分がここでこんな魔法をかけられるのかが分からないからでしょう。これでリリアは帰還結晶を使えない。そのほかの脱出系のアイテム、魔法やスキルも一切使用不可。
「え? なんで? こんなことしなくても自分の足で《イシス》に行くけど……」
「そういうわけじゃないのよ」
リリアは混乱しているだろう。私は杖を持ったままつづける。
「話はこれで終わり。話は……ね」
だれもいない静かな湖畔。柔らかい風が波一つ立たない湖を揺らす。
私の杖の先にともったのは一つの火の玉。そしてそれをリリアに向けて飛ばす。だけど、リリアもたくさんの場数をこなしてきたプレイヤー、リリアは横に飛んで避けた。この程度の攻撃は当たらないのは分かっている。
「な、なにするの! 危なかったぁ」
「なにって……? 魔法で攻撃だけど?」
何言ってるのこの子は? 見て分かるじゃない。私はリリアを攻撃しようとしたって。そんなのも分からないほどバカなの?
「違う! なんで私を攻撃しようと……あ、そうか、モンスターだね!? モンスターが出たから私を助けようと――」
「よく見なさい。ここにはモンスターもプレイヤーもいないわよ」
「じゃあなんで……?」
杖を軽く振る。この魔法は扱いがちょっと難しい。便利だけど、良の《多刀流》みたいに少しは練習が必要な魔法だ。
「《フレイ・グベ》」
私の降る杖に合わせてさっき放ったリリアのはるか後方にある火の球が動き、まっすぐリリアに向かって戻ってくる。
ぐんぐん速度を増す火の玉にリリアは気が付かない。
「あなたを殺すためよ」
「な……きゃぁ!?」
《フレイ・クベ》は一見と同じに見えるが、実は自分の意志でコントロールできる魔法だ。移動距離が長くなるにつれて威力が低くなるのが欠点だが、それ以外はとても使いやすい魔法だ。
リリアは炎に包まれて、湖に転がり込んだ。炎が消え、リリアのHPゲージの減少が止まる。
だが、ここで手を緩めるわけにはいかない。つづけて、《サンダー》を撃ちつづけ、全弾リリアに命中。死にはしないものの、マヒ状態になったリリアはその場に倒れこんだ。
「なん……で?」
「なんでって……? あぁ、確かに私は《プリースト》だけど、ちゃんと攻撃魔法を覚えておかないと良を折檻できないじゃない。でも、思わぬところで使うことになったわ」
「なんで……私を殺すの?」
「そりゃぁ。あなたが良を殺そうとアリアを殺そうとしたからよ。決闘だからって私は許さないわ。あなたみたいなバカはいつ同じ過ちを繰り返すか分かったものじゃないからね」
リリアの周りに青白く光る幾何学模様が浮かび上がる。
「そんな、わたし、もうそんなことしないよ」
「私がそう思っていたらあなたは殺さないわ」
「そんな……」
幾何学模様はリリアを取り囲むように大きくなり、ある程度の大きさになったら地面から浮き出て空に突き上がった。
リリアにはMPはない。不意打ちのせいで反撃するタイミングもなく、今はマヒ状態。何もできない。
「さよなら」
私は今どんな顔をしているだろう? 笑っている? 冷たい目をしている? そんなに怖い顔しているかなぁ……もっと笑ってよ。
けれど、リリアはガタガタ震えるだけ。ここで何か言ってくれればやめたかもしれないんだけど……いいや。
「《バベルガ・フレイガン》」
天高く幾何学模様のあったところだけ火柱が上がった。もちろん、そこに居たリリアを包みHPゲージをぐんぐん減らしていき……レッドゾーンに突入して束の間、リリアのHPゲージはゼロになり、ポリゴンのかけらとなって砕け散った。
火柱がなくなった時、そこに在ったのはリリアの持っていた装備とアイテム。でも、わたしは興味ないからここに来た誰かが拾えばいいや。
「それに……まぁアリアはついでですよ。今、あの子が死ぬわけがありません」
だれもいない湖の湖畔でつぶやく。モンスターさえいない……っと、そろそろ《イシス》に行って準備しないと。
「アルカナボス……《オービット》、《星》のアリア。《ユーッグオン》、《月》の安倍ルシフェル。《紅炎》、《太陽》の黒子美晴……《オービット》、《ユーッグオン》、《紅炎》が解放されていない今、あの三人が消えたり、壊されたり、消滅することはシステム上ありえないのだから」
《イシス》に向かう途中で私は独り言。傍から見れば危ない人にも見えるかもしれないが、ここには誰もいない。
「さて……リリアのゲー研とやらもバカ揃いね。あの三つのエリアに行けるのは最初にたどり着いた一人だけなのに……。私が着いた時には《紅炎》にはミズキが居たってこと言わなかったかしら?」
《イシス》に着いたのは集合時間の三十分前だった。
◇◆◇◆◇◆
午前九時、《イシス》の海岸。海から吹き抜ける潮の香りを含んだ風が鼻をくすぐる。地面の砂は陽ざしに照り焼かれて少し熱い。
集合場所にやって来たのは俺、ゴウさん、ヤスさん、エンさん、夜桜、響、大文字だけだ。リリアとアサミとアヤは一緒に来るだろうけど……リリアが集合時間に遅れるなんて珍しい。
こういう待ち合わせでは原則集合時間は厳守だ。『約束を守れない人間』と認識された人は『信用できない』と思われ、一緒にクエストに行くと何らかのトラブルが発生することが多い。
「仕方ない……今いるメンバーだけで行くか」
「リリアさんが来ないのは不思議ですが……仕方ないですね。ところでその三人は?」
大文字……できることなら触れたくない話題だったんだが……話さなくちゃならないだろう。
「えっと……《ネフティス》で武器の店を開いているゴウさんとヤスさんとエンさんだ。俺の武器を作ってもらった」
「自分の作った武器の出来を見たいんだ。一緒にクエスト行っちゃぁ……悪かったかな?」
「いえいえそんなことないですよ。ご自分の作った武器に興味が湧くのは当然です」
「そうか、ありがとな大文字サン」
大文字がオーケーを出し、夜桜も響も問題ないとのこと。何で誰もこのやーさんみたいなカッコにはつっこまないんだ? 俺だけか? 俺だけが勝手に騒いでいるのか?
「ところで、リョウさんはどんな武器を作ってもらったのですか? 少し興味が湧くのですが……」
「ん、名前だけ言うと《クレーバー》と《桃源針》と《パープル・ガロウ》っていう剣を作ってもらった。《パープル・ガロウ》を手持ちに使って、後は《多刀流》で使おうと思う」
「今回のクエストでですか?」
「あぁ。少しだけ……楽しみだ。そういえば、ゴウさんたちの武器ってなんですか? 生産職だけってわけでもないですよね?」
「俺は《盗賊》だ。近接戦闘型だな。罠も使える」
「俺は《弓使い》っす。その通り遠距離型っす!」
「あっしは《ガンナー》。遠距離型で、銃を使うっす!」
ゴウさんが《盗賊》、ヤスさんが《弓使い》でエンさんが《ガンナー》か……。《ガンナー》とは珍しい職持ってんだなぁ……。
「では僕とリョウさんとゴウさんが前衛、ヤスさんとエンさんが後衛で遠距離攻撃、夜桜さんと響さんが回復などの支援に回るっといったところですかね?」
「そんなもんかな? じゃあ行こうか」
俺を先頭に、イシス海底洞窟のあの秘密スポットに向かった小舟が出た。
「そういえば……リョウさんはどうやって秘密のスポットを知ったのですか?」
小舟をこぎながら聞いてきたのは大文字。うん、不思議に思うよね? でも俺があのスポットを見つけた理由って……
「あ……そうですか」
って、やめてくれ! そんなバカを見るような目で見るのはやめて! ゴウさんもヤスさんも『こいつバカか?』みたいな目で見ないでくれ! 俺はあの時は大真面目だったんだ! ついでに言うと今も真面目だ!
「リョウさん。僕もパワーアップした。今度はかなり役に立つ」
「え、響?」
「二次転して《ボーカロイド》になったんだ」
おいちょっと待て。なんだそのどっかの商標の著作権に引っかかりそうな危ない名前の二次職は!?
「唄って、弾いて踊れます。スペック高くなったよ、僕」
「お、おぅ。期待してるぞ」
「うん。全プレイヤーで初めて《ボーカロイド》になったんだ。頑張るよ」
青いロングツインテールのミニスカ女の子や黄色い双子、ピンクのロングお姉さんや紫色の侍が頭に浮かぶけど……たぶん偶然だよ。
そうこう言っている内にイシス海底洞窟への秘密の入り口のスポットに着いた。この海底の感じ……間違いない。
メニュー画面のクエスト欄では相変わらず『ファルネウス』しか表示されていない。
「さぁって……行きますか!」
真っ先に海に飛び込みイシス海底洞窟の秘密エリアに一番に入った。
広い湿った青い光が照らす空間。天井は俺の背よりも何倍も高く、円柱状に伸びている。
部屋を取り囲むように何本もの円柱が天井に伸び、その部屋の中央では下半身が蛇、上半身が碧い髪をした女の化け物がいた。牙をむき、爪を伸ばし、いつでも攻撃できる状態のようだな。
「良! 今度はあんた、その指輪を使って!」
「はぁ、夜桜何言ってんだ? アリアは暴走したから使わない方がいいんじゃ……」
「持ち主のあんたに危害は加えられないってアリアも言ってたでしょう? あんたがちゃんと使えばとっても便利な召喚モンスターよ!」
何言っているんだこいつは? アリアは暴走したし、何より耐久値すんごく減ってたから使わない方がいいって……
「破棄不能、破壊不能なアイテムだって忘れたの? なにがあってもその指輪はなくならないわ。さっきの数字が出てきたこと自体がおかしいのよ。それにほら……」
「あ、ほんとだ。耐久値も耐久度の表示もなくなっている……」
「数字なんてある方がおかしいのよ。破棄不能、破壊不能、譲渡不能って書いてあるでしょ?」
「ああ、確かにそうだな」
「じゃあ使いなさい」
「はぁ!? だからって使う理由にはならないだろ!?」
「つ・か・い・な・さ・い」
「ハイ! ヨロコンデツカワセテイタダキマス!」
っと言っても使い方がいまいちよく分からないんだよなぁ。呼びかければ出てくるかな? おーいアリアちゃーん。クエストだよ。全員しゅうごーう。
すると、指輪が白く光った。やがてその光は指輪から離れ、地面に降り立つととてもかわいらしい銀髪少女へ姿を変えた。
「なぁに?」
「色々あった後だけど、アリアにはこのクエストでしっかり働いてもらうことになった」
「えーやぁだ――ッ!?」
うん、アリアも見たよね。俺の後ろで黒いオーラを出している夜桜魔王の姿が。これ見りゃわかるでしょ?
「リョウも大変だね。こんな彼女に付きまとわれて」
そうなんっすよ、大変なんっす。ついでに言うと彼女じゃない、魔王だ。
「なんか言った?」
「言ってないっす! アリアと相談していただけです!」
「そうだよ! 私ちゃんと働くよ! さーて、ガンバロー」
「それでいいのよ」
続いて、大文字、響が現れ、ゴウさんたち三人もこのエリアに入った。
全プレイヤーがそろうまで待ってくれるとはなんと律儀なモンスターでしょう? あ、いや、そんな怖い奇声で俺の鼓膜を震わさないで。夜桜よりは怖くないけどやっぱり怖い。
だがそんなことも言ってられない。俺は腰に差していた《パープルガロウ》を引き抜き、アイテムボックスから《桃源針》と《クレーバー》を出して《多刀流》を発動させた。
地面を蹴り、大口を開ける《ファルネウス》の懐に飛び込む。しかし今回はこれだけじゃない。空中に浮く二つの剣を操作させ、《ファルネウス》が俺に注意を向けている隙に四角から頭をぶち抜く。
あぁ、『行け、ファ○ネル』とか言ってみたい。
「良の新しい武器の性能も面白そうだけど、《星》のアリアの実力……どれほどのものかしら?」
後ろで夜桜が何か言ったようだが、《ファルネウス》の叫び声にかき消されて聞こえなかった。
◆◇◆◇◆◇
《ネフティス》のはずれの墓場。石碑がぽつぽつと並んでる。石碑にはこのジョクラトルオンラインで死んだプレイヤーたちの名が刻まれている。
《ミックスベジタブル》のトマトや、《ミックスベジタブル》に殺されたプレイヤー。そして、墓地のはずれ、決して開けない空に浮かぶ赤い三日月の下。とある墓石の前で数人のプレイヤーが涙していた。
リリアの所属していたギルド《碧い鳥》のメンバー、アサミやアヤ、タツヤだった。彼らの目の前には灰色の墓石。苔のかかった暗い墓石の表面には『liria』と刻まれている。
《星降る湖》でリリアは夜桜に殺された。誰にも見られていないし、プレイヤーがどこで死んだなんてのはパーティーにもギルドにも表示されないので、《碧い鳥》のメンバーにはリリアがどこで誰にどうやって死んだなんてのは全く分からない。だが、リリアが死んだというのは紛れもない事実。この《ネフティス》の墓場に名前が刻まれている以上、リリアはこのデスゲームの中で死んだのだ。
どう頑張っても、泣いても喚いても覆らない。ただ、リリアが死んだという事だけが彼らの胸を締め付けた。
「どうして……リリアさんが」
タツヤが呟く。アサミは膝を落としてすすり泣いていて、アヤは暗い顔で地面を見て黙ったままだ。
しばらく、面ぐるしい空気に包まれていたが、沈黙を破ったのはアヤだった。
「あいつだ……あのRyoとかいうプレイヤーのせいだ」
「は、なんであの人のせいに?」
「タツヤ、お前は分からないのか? 聞けばあいつは《始まりの町》の門の前でリリアとトラブルを起こしたそうじゃないか。その腹いせにリリアは殺されたんだよ! リリアがそこらのモンスターにやられるわけがない!」
激情するアヤにタツヤは顔を合わせることができなかった。アヤは肩を上下させて息を荒くしている。感情をコントロールできているとはとても思えない。
「これから私はRyoというプレイヤーを殺しに行く。リリアの仇」
悔しそうな顔をするアヤをよそに、アサミはそっと呟いて墓地を後にした。
「待てアサミ! 私も行く! 私もRyoを殺しに行く! タツヤ、あんたも来い!」
「え、えぇぇえぇえ!? なんで……わ、分かったよ」
三人のプレイヤーはリリアの墓に背中を向け、Ryoのいる《イシス》へと向かった。彼らの武器が赤い月の光に反射して一瞬光ったのは、彼らの本気の殺意の表れだろう。
いや、長くなった。ごめんなさい。少しばかり怒りながら書いた結果がこの長さ(--;
何文字かね? 14,626文字だったよ(--;
つぎのひと、クエスト頑張ってー




