波打ち際のアリアちゃん
ちわわ。一葉楓です。前書きを短く、後書きを長くします。では本編どうぞ~
『突然別のクエストに巻き込まれたから、今回のボス攻略は参加できない』
文面を二、三度確認して、大文字にメッセージを送る。死ねる体で俺たちがこのゲームから脱出するクエストとなれば奮って参加すべきなんだろうが、今回はそれができない。
新たに出てきたクエストのせいだ。『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』は強制クエストだ。しかも、キャンセル不可の鬼畜です……。
そして今、俺は目の前の牙をむく大型の人魚の形をしたモンスターを前に剣を振るっている。ちなみに、隣にはしっかりと夜桜がいる。そして……なぜかミズキとトモキもいる。
ハハハッ。こいつら《星降る湖》イチャラブしていたところ、このクエストに巻き込まれたんだとさッ。リア充は幸せでいいねぇ、ここは現実はないけどさっ!
人魚の水流ブレスが三方向から(・・・・・)俺たちを襲う。人魚の口から出る水流ブレスはなかなか威力のある攻撃だが、当たらなければどうという事は無い!
威力も早さも初めやった時と同じ強さだ。だが、一つだけ違うのが……頭が三つあるという事。人魚姫様の頭が一つの胴から三つ伸びている事だ。
俺は水流ブレスを避けながらも、夜桜のそばを離れる事は無い。もし、離れ離れになってしまって、人魚の頭が一つでも夜桜に向けば助けられる自信がない……。
そして人魚を挟んだ反対側に居るミズキとトモキできるだけ固ま……
「おいお前ら! 二人一緒に固まってろ!」
「あ、わかった」
「二人一緒に居た方が結構安全だからな」
「え!?」
「ん? ミズキ……どうした?」
「結婚した方が安全だなんて……リョウ君気が早すぎますよ」
「そうですよ、まだ未成年ですし……」
「うっさい黙ればカップル!!」
何だこいつらは!? 戦闘中もイチャイチャイチャイチャしやがって! それでもしっかり戦ってやがるし!
「真面目にやれ! 子供じゃないんだから」
「こ、子供はいつ作るって……そんな恥ずかしいこと言わないでください!」
「そうですよ! セクハラですよ!」
「うぅぅるっっっさいわぁ!! 黙れイチャラブバカップル!! 俺の言葉を無理やり幸せ変換してんじゃねぇ!!」
あぁもううっぜぇ! 死ねよ! 爆発しろよバカリア充!! そのくせまともに戦っているのがかなりむかつくし!
「ねぇ良。私は急かさないからね。いくらでも待てるよ?」
「うるさいわ! なんでお前らは戦闘中だってのにそんなに自分の欲望全開モードになれるんだよッ!」
「良は私に恋愛感情抱いてないの? 私がこんなにアプローチしてるのに?」
「抱けるわけねぇだろ! 魔王様……いや、従妹に恋愛感情なんて抱けるか!」
「……チッ」
「いいから黙って戦闘に集中しろ!」
俺は人魚のしっぽを避け、止まった尻尾を切りつける。その間、夜桜は魔法で人魚の頭を狙い、確実にHPを減らしている。ミズキとトモキは人魚の胴を狙って大剣と日本刀を振る。魔法剣士の俺と違ってナイトとサムライの二人は攻撃力が高い剣を使える。上手く攻撃を避けながらHPを減らす。
いける。なぜだかそう思えた。前回戦った時は手も足も出ずに負けてしまったが、今回は何故だか圧倒的な力の差があるようには思えない。頭が三つになったせいで逆に弱くなったか? だったら好都合だ。
でも……何かがおかしい。
スムーズに有利に戦いを進められるのはいいが……不自然だ。前回の戦いを経験していない俺以外の三人には分からないだろうが、俺には気持ち悪い違和感が体に纏わり付いて離れない。……気持ち悪い。
「おい! さっさとこいつを倒すぞ! あとちょっとだ!」
「はい!」
いやな気持を振り払って剣を振るう。倒せばこっちのもんだ。倒せばいい、倒せば……。
人魚のHPはだんだんと減っていき、ついにはレッドゾーンに突入した。正直、こいつ相手に四人でかなりの善戦したと思う。でも、相変わらず奇妙な違和感は拭えない。それどころかありもしない不安が腹の底から湧き上がってくる感じがする。
人魚のしっぽの薙ぎ払いをしゃがんで避けて、飛び上って肩に剣を突き刺す。
その時、人魚の頭の上にあったHPバーが突然消えた。レッドゾーンではあったが、まだHPは残っていたはずなのに、なぜ?
そして、このフィールド自体が凍結したかのように、人魚がピタッと止まる。とどめを刺そうと思った俺だが、この異質な雰囲気に呑まれて、足が動かない。夜桜も、トモキモミズキも……。
「シャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
人魚の咆哮。つんざく悲鳴にたまらず俺は耳をふさいでしまう。くねくねと体を動かした人魚は首をぐるりと回転させて……。
「うわああああ!?」
「きゃああああ!?」
ミズキとトモキを喰った。ミズキは左の頭の人魚に喰われ、トモキは右の頭の人魚に喰われた。文字通り、丸呑み。
避ける間もなく上半身が人魚の口へおさまり、二人は足をばたつかせるが人魚の首が上に傾くとすっぽり足も喰われた。そして、このフィールドのマップ上から、二人の名前が消えた。
消えた。跡形もなく。
「くっそおおおおおおおおお!!」
また犠牲者が……堪らなくなって俺は走りだす。HPはあと少しだったんだ。俺一人でも倒せる! アイテムボックスからもう一つの剣を出し、《多刀流》で宙に浮かせ、相手の注意をそちらへ向ける。だが、俺の宙に浮く型なのに反応したのは右と頭と左の頭だけだった。中央の頭は……まっすぐこちらに口を向けて迫ってきている。
地面を蹴って避けるが……奴の首はそれにも反応し……
俺も喰われた。
そして、フィールドには夜桜が一人だけ残った。
◇◆◇◆◇◆
遠くから静かな波の音が聞こえる。誰もいそうにない。けれども、ここは現実の俺の部屋ってわけでもない。なら……
ここはどこだ!?
がばっと状態を起こすと、そこは砂浜だった。目の前には広大な海が広がり、俺の足首の所で波が押し寄せては引いていく。静かな砂浜だ……。
立ち上がって体に着いた砂を払う……っと、砂が付くはずないんだ。ゲームだからありえないことなのに、つい条件反射でやってしまう。
あたりには誰もいない。海水浴客なんているわけないし、夜桜やトモキ、ミズキもいない。
……待て、なんで俺はこんなところに居るんだ? ふつう、死んだらログアウトして俺のベッドで目を覚ますか、あのおなじみの路地裏に戻されるのどちらかだろう? なのに俺は見知らぬ海岸で寝ていた。じゃあ……俺、死んでないのか?
俺はメニューからマップを開いた。やはり俺以外は周囲に誰もいない。そして、名前も表示されていない、見知らぬエリアだ。
次に、フレンド……
「あ、あれ? ミズキ……トモキと夜桜も?」
三人は生きている。生きていることは分かったが……
《現在地 【???】》
三人の現在地が表示されていなかった。俺と同じように、まだ開拓されていないエリアに居るのかもしれない。
と、メニューの端を見ると、メッセージがいくつも来ていた。
大文字から三通、ミズキから一通、トモキから一通……夜桜からは一通だった。
まずは一番古い大文字からのメッセージ。
『分かった。残念だけど、そのクエスト頑張って』
……これは俺が人魚と戦っている最中に大文字に送ったボス攻略に参加できないメッセージへの返信だろう。返事する暇なかったよ……。で、二通目は?
『ボス……《女教皇》の攻略、無事に終わったよ。《ミックスベジタブル》が乱入してくることもなかったし、幸い、犠牲者はゼロだった。じゃあまた』
「おおー。すげぇじゃん。いつの間に攻略したんだ?」
…………誰もいない砂浜で独り言って……結構さびしいな。で、三通目は?
『夜桜さんから調べてくれって頼まれたことなんだけどね、リョウ君が《イシス》の酒場で間違った情報を聞いたからそれについて調べてくれって頼まれてたんだ。なんだか《女帝》のダンジョンだけ攻略されていないって情報を流されたとか……。あれ、リョウ君の説明不足か、聞き間違いか、夜桜さんの的外れな推測だったよ。そのリョウ君が情報をもらったプレイヤーに話を聞いてみたんだけどね、『このあたりでは《女帝》のフィールだけとは言ったが、全てのフィールドが攻略されたなんて一言も言ってない。全部のフィールドが開拓されてるわけねーだろ。バカかww』っていわれたよ。まぁ夜桜さんの心配は杞憂に終わったってことさ。それじゃ』
夜桜……あいつ『情報操作……それも仲介者あり……』とか言ってたの、完璧勘違いじゃねーか。つーか俺全部話したはずだぞ? ちゃんと聞いてなかったのか? いろいろ考えるくせに、肝心なところは抜けてんだからなー。
で、トモキからは?
『こんにちは、リョウさん。なぜか僕、死んでません。受けたダメージはそのままですし、起きたら訳の分からないフィールドに飛ばされてました。でも、とにかく死んでません、情報が入り次第お伝えします』
……うーん。そっけない。でも、どうやらトモキは俺と同じように別のフィールドに飛ばされたみたいだな。現に俺は死んでないんだし、トモキが死んでないってのも本当だろう。で、ミズキからは……?
『こんにちは、今、夜桜さんと見知らぬフィールドに居ます。でも、なぜだか死んでません。トモキも死んでないみたいです。リョウさんはどうですか?』
……知るか。俺がゲームのシステムなんざ知ったこっちゃねぇ。でも安心した。俺たち四人は誰も死んじゃないいみたいだ。えーっと、夜桜からのは……
『なに情けなく死んでんのよ、この役立たず』
「死ねやこらぁああああ!!」
何だこの慈悲も心配のかけらもない汚いメッセージは! あぁ!? 役立たずってなんだ、役立たずって! 夜桜は後方支援してたばっかで俺たちより安全なところにいて、HP削っていたのはほとんど俺とミズキとトモキだってのに、その言いぐさはなんだ!
振り上げた拳はどこにぶつけるわけでもないのでそのまま力を抜く。
あの魔王様のことだ。こんなことは予想してたさ、いつものことさ。役立たずとか人には言うくせに戦闘中は自分の欲丸出しだったし!
俺は鈍感男じゃない。人並みに女の気持ちはわかる。それが親しい従妹ならなおさらだ。けど……俺はあいつの気持ちには答えられそうにない。こんなこと言ったらぶち殺される気がするから言わないが、本心ではそう思っている。正直……妹か魔王様って感じで、恋愛対象として見れないんだよなぁ……。
「何をやってる?」
「わぁ!?」
突然の肩の重みに素っ頓狂な声を上げてしまう。重みから逃げるように振り向くと……一人の女の子がいた宙に浮いていた。
腰まで届くほどの長い亜麻色の髪はさらさらと風になびいていて、頭の右後ろ側の髪を少しだけ縛っている。小柄で、やせていて、華奢な体は綺麗な真っ白な肌。袖のないグレーのぴっちりした服と黒のひざ丈スカートを着ていて、そこからのびる真っ白で細い手は俺の肩を掴んで離れない。
「何やってるの?」
「え……誰?」
まだあどけなさなののころ顔立ちの女の子は少したれ目気味の目を真ん丸開いてまじまじとこちらを見ている。
すると、俺のアイテムボックスに新たなアイテムをゲットしたという通知が来た。宙に浮く女の子をほっといてアイテムボックスを確認すると、一つの装備品がいつの間にかアイテムボックスに収まっていた。
《指輪:色あせたシリウス》
効果は……これも【???】か……装備してみてからのお楽しみってことかぁ……。レベル制限で付けられないって落ちは……ないか。普通につけられるし……。
「ところで、君は誰?」
「……それをつければわかる」
女の子は指輪を指してそういった。つけてみればわかるって……NPCかなんかか? それにしちゃNPCらしくない行動をとるっていうか……AIを使っているとか? ボスって感じのキャラじゃないし……。
いろいろ考えを巡らせながらも、とりあえずつけてみることにした。
すると、システムメッセージ……
『《指輪:色あせたシリウス》を装備したことにより、《シリウスの鋼》にあなたは呪われました。破棄は解呪するまで不可能です。以後は《シリウスの鋼》はあなたの召喚モンスターとなります。』
「なっ……!?」
急いで指をを捨てようとする。指から外そうとするが……はずれない。捨てることもできない。
「……分かった?」
宙に浮かぶ少女が首をかしげながら聞いてくる。じゃあこいつが……《シリウスの鋼》ってやつか?
すると、少女の体が突然光の粒となった。そのまま消えてしまうかと思ったが、フワフワと光の粒は空を漂い……俺の持つ指輪に吸い込まれていった。
「な!? お、おい!?」
だが、間髪入れず指輪から先ほど同じような光の粒が飛び出した。空中でそれらは収束し、先ほどの女の子の形になった。
「《シリウスの鋼》……わたしのこと」
「いや、それは分かったけどさ……なんで?」
「……知りたい?」
「うん」
少女が首をかしげながら聞いて来たので、ここは素直に聞いてみよう。
「ある一人の男がいました」
「うんうん」
「その男は仕事をしていて、常にその仕事に疑問を抱いていた」
「それで?」
「『このジョクラトルオンラインでは、プレイヤーは全員高校生より上の奴らばっかりだ! モンスターも人型のやつはほとんどいない!』って、悩んでた」
「ゲーム製作者の話かよ!!」
真面目に聞いた俺が馬鹿だったよ! 何でいきなりゲーム製作者の話なんだよ!
「その男は言った『このゲームは完璧だ。ストーリーも自由性も完璧なんだ。けど……一つだけ足りないものがある』」
「で?」
「『このゲームにはロリ要素が足りなさすぎる!』」
「………………………………はぁ?」
「その男はゲームの製作者のあちこちに無理を頼んで、『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』から私たちを登場させてもらった。これが私がここにいる理由」
「知るかぁあ!!」
何だよそれ! そのゲーム製作者アホすぎだろ! 自分の欲求のためにゲームをいじるなんてアホすぎだろ! しかもそれを許している奴らがいるし!
「ちなみにその男の名前はフィルベルト。二つ名は『幼女をこよなく愛する戦士』」
「知るか! そいつアホすぎだろ!」
「私たちのデザインを手がけたのもフィルベルト。AIを作ったのもフィルベルト」
「なんだよ! その欲望に忠実すぎるダサい二つ名の天才製作者はぁ!!」
いや、ここでは性搾者か? ふざけすぎる奴らがいたもんだ。
「はぁ……もういいや。お前、名前は?」
「……アリア。ここは、《オービット》。普通のプレイヤーは入れなくて、『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』から一人しか入れないエリア。他のフィールド……と同じように……」
砂浜の奥……そこには現実世界の東京にも負けないようなビル群があった。
近未来都市……そんな表現が一番しっくりくるフィールド。モンスターとは縁がなさそうなフィールドだ。
もうひとつ、こいつ……アリアの言葉に引っかかるものがあった。
「他のフィールド? 何だそれは?」
「もうすぐわかる」
アリアが言い終わるとまたもやシステムメッセージ、
『《カリンの炎》、《セレネーの波動》、《シリウスの鋼》の契約が完了したので、ただいまから契約完了プレイヤーを《始まりの町》に転送します。なお、《紅炎》、《ユーッグオン》、《オービット》の三つのフィールドは今後しばらく立ち入れません』
……なるほど、さっきアリアが言っていた他のフィールドってのは《紅炎》と《ユーッグオン》のことか。察するに……夜桜とミズキ、トモキはそれらのどちらかに居るんだろう。
アリアが何も言わず、黙って指輪の中に入り、俺の体も光に包まれた。
そして……目が覚めた時、俺は始まりの町の噴水広場に立っていた。横には……
「あ、夜桜。ミズキとトモキも……」
「あ、無事だったんですねー。その指輪……リョウさんも呪われたんですか?」
「あぁ、変なのに呪われちまったよ」
「私もですよー」
ミズキとトモキの指には俺と同じような指輪がはめられていた。けど……
「夜桜は何ともないのか?」
「うん、私は何にもなかった。呪われることもなかったよ」
「……なんで?」
「先に《紅炎》に来たのがミズキだったからかも。私は何ともなかった」
「そうか……」
「私が良に憑いたアリアです」
「憑いたって……ってなんで出てきてんだよ!」
「……べつにいいじゃん。私が好きな時に出る。好きな時に指輪に戻る」
いつの間にか指輪から出てきて宙に浮いているアリア。ぷくーっと頬を膨らませていてなんだかかわいい……変な奴だが、悪い奴じゃない。
アリアは地面に降りて、俺の手を握った。まだ小さい手は柔らかく、ぎゅっと握って離れそうにない。
「りょ……良。あんた、どこの子に手を出してんの……?」
「え……リョウさんってそういう趣味が……?」
「まさか……ロリコン?」
「違うに決まってんだろアホ!!」
まさに変態を見る目で俺から身を引いていく三人。その目はやめろその目は! 俺はロリコンじゃない!!
「イエス。ロリータ。ノータッチだよ」
「アリアも黙っとけ!」
その後、俺にかかった妙な性癖誤解を解くのにかなりの時間がかかったことは言うまでもない。
確かにアリアは可愛いが、俺はロリコンじゃないぞ! ……断じてそんな事は無い! ………………たぶん。
うん。《女教皇》の攻略を終えて、『セイレーンの人魚姫ナントカカントカ』っていうクエストも終え、新キャラ登場させて、前の話であったみょーな誤解『情報操作ウンヌンカンヌン』を解決させて……疲れました。
読み終わったらサブタイトルの意味が分かりましたよねww あ、痛い! 石投げないで!
できることなら、このキャラは崩壊させないでほしい。本当に……作者さんたちへのお願いなのです。
では、次は彩菜さんですね。何でもいいのですすめちゃってー。後に続かない終わり方でごめんなさいです。
ではではー。




