大丈夫だ。問題ない……はず。
やべぇ……私の中で一番長くなった……ん?何文字になったかって?それはあとがきに書くことにしましょう。うん。かなり長いです。これ一話? それとも短編? ってレベルで長いです。
それではそろそろ本編の方どぞ~
獣じみた威嚇の声とともにNPCか襲い掛かってきた。
俺は腰から抜いた剣で襲い掛かってきたNPC?の攻撃を剣で受け止める。甲高い音ともに化け物の長い爪は俺を傷つけることなく止まる。ぎりぎり反射神経で反応できるぐらいの速さだった。
しかし――――
「ぐっ……」
人魚の化け物の力は俺の予想を遥かに超え、俺は力で押しつぶされそうになる。剣を振るって弾き返そうにも力が足りないし、片方の手で引きはがそうにも両手で剣を支えなければ確実に押し負ける。
「シャァァァァ!!」
そうこうしている間に人魚の化け物が回避することも避けることもできない俺の体を蹴り飛ばした。
人魚の化け物の足の一撃で俺の体は吹き飛ばされ見えないシャボン玉のような壁まで吹き飛ばされてようやく止まる。
そう言えば、俺は防具が軽装のため、Weight(重さ)もないんだっけな……
俺のHPはそんな俺の気持ちを表すかのように最後のHPバーを削り切った。元から、潜ったせいで削れていたものだ。回復もしていないのだから当然の結果だ。
俺の体はポリゴンの欠片となって砕け散った。
◆◇◆◇
俺の視界がフェードインし、色彩を取り戻したのは海の上……ではなく、堅い木の上だった。俺は周りを見渡してようやく現状を把握した。どうやらここは小舟の上らしい。
おそらく、ここは夜桜が乗ってきた小舟の上なのだろう。しかし、その肝心の夜桜が見当たらなかった。
刹那―――――――
俺の心に何かで抉られたような傷が一瞬のうちにしてできる。
これは……孤独?……いや、そうじゃない。もっと何か、大切なもの……俺がここにいる理由に直結しているような大切ななにかっだったはずだ。でも、俺はそれを思い出せない。いったいそれはなんなんだ?
「ぷはっ!」
俺が立ち尽くしていると、夜桜が急に水面から顔を出した。その姿を確認した途端、その抉られた心の傷は急に癒え、かわりに一つの疑問の種を残していった。
「あーーー!」
夜桜はこちらを見て驚きながら指さした。そして、直ぐに夜桜は俺の乗っている小舟に這い上がってくる。
「ヒッ!」
俺は沈められた恐怖感から怖気づいてだらしなく尻餅をついてしまう。夜桜は俺にゆっくりと近づき、そして……
「ごめ―――――」
俺はとっさに謝ろうとしたが、夜桜の突然の行動によって急に止めてしまう。
二人の乗った小舟はわずかに揺れた。
夜桜は俺の首元をしっかりとホールドし、離そうとしなかった。夜桜のふわりとした心地よい独特の上品なにおいが俺の鼻孔をくすぐった。それは仮想世界が作り出した幻だったのかもしれない。けれども、俺にはそれがここに夏輝がいるという感覚を思いださえているように感じてしまう……
「心配したんだから……」
夜桜は俺の耳元で何かを呟いた。しかし、耳元なのにもかかわらず小さすぎたため、俺の耳にその言葉が届くことはなかった。
「えっ!? 何か言った?」
俺は、夜桜を軽く抱きかかえながら立ち上がる。すると、夜桜はようやく俺のことを放してくれた。そんなうつむいている夜桜の目が海で反射した太陽の光でわずかに光ったような気がした。
こいつ……もしかして、俺のことを心配してくれたのか? そう言われてみれば死んで復活するのでもなく、息継ぎに上がってくるのでもなかった。心配するのも当然なのか……
直後―――――
俺の体が宙に浮いた。
俺が空中で視界にとらえたのが夜桜の思わず出てしまったブーツの裏……
俺の体はあっけなく再び水の中へ……
俺は一度水に沈み、再び浮上する。
「何しやがんだ!」
あー……今までのこと前言撤回で! 俺は何を勘違いしていたんだ? 今まで俺に悪逆非道の限りを尽くしてきた魔王だぞ?そんなことあるわけない。
「なにしてるって? 決まってるじゃない。舟の動力を設置しただけだよ」
さも、当然のごとく俺を見下してくる……やべぇ……めっちゃ怖いんですけど! 俺、死ぬのかな……あっ! 何度も死んでるわ……
「動力って、お前! 俺をなんだと――――」
「あー、私疲れちゃったなー。オールをこぐのも億劫だなー」
わざとらしく語尾を伸ばす、夜桜に俺は少しカチンッ、ときたが、いつも通りでもう慣れたことなので、俺の頂点まで昇りかけた怒りはため息とともに海の水に溶けてなくなった。
「はいはい……かしこまりましたよ。お嬢様……」
俺はそう言って小舟の後ろ側にまわり、舟を押すためにバタ足を始める。舟はゆっくりとイシスの船着き場へと動き出した。それとともに、俺の日常も再び動き出した気がする……
◆◇◆◇◆◇
俺と夜桜はイシスの宿屋の一室でとりあえず休むことにした。俺はこれまでのあらましを全て夜桜に話した。
「で、負けたあんたは、強くなることを諦めて死ぬことを生かしたマップ攻略に乗り出したと……」
「はいそうです……」
で、なんで俺は正座させられてるんだ?
そろそろ気分的に足が痺れてきたぞ……仮想世界だからまったく痺れないけど……
「まぁ、あんたが私を差し置いてそのレイカさんとかいう人と一緒にいたことは差し置いて……」
あっ! そこ、スルーするんだ。いや、待て!リョウ! あいつが今までそういう女絡みの件でそんな簡単に終わらせたことがあったか? 最後には必ず。俺に制裁を加えるはずだ。だから、あいつは俺を許してなどいない!
「あんたの話した内容には一つだけ間違いがある。たしか、リョウは『攻略されてないのは《女帝》のダンジョンだけ』って言ったでしょ。それ、何処の誰に言われたの?」
「えっと……酒場にいたプレイヤーだけど……」
その言葉を聞いた途端、急に夜桜の顔が険しくなった。そして、俺に聞こえない声でぼそりとつぶやいた。
「情報操作……それも仲介者あり……」
「なんか言った?」
「何でもないわよ。えっと、結論から言うとね。攻略されてないエリアはまだ無数にあるのよ」
「はっ!?」
いや、俺は確かにあの酒場で他のプレイヤーから、イシスの海しか攻略されていない場所は無いと聞いていたはずだ。なのになぜ……
頭がこんがらがりそうになる俺を置いてきぼりにして、再び夜桜は喋りだした。
「全エリアが攻略されてるなんてありえないわよ。だって、《正義》から後ろにあるアルカナのボスのエリアは全てまだ、始まりの街から移動するエリアすら開通されてないのよ?」
「あの~。ちなみに、どんだけ、それらのエリアはお強いのですか?」
ギルドもできててそれはさすがにないだろ……でも、たしかに夜桜の言うことは確かかもしれない。なぜなら、そんなに簡単に全エリアが攻略できるのだとしたら、VRMMOとして破綻しているからだ。
あっ! これは別に小説のモノとしてではなくてデスネ……も、もちろん。ゲームとしてデスヨ。当然でしょ? そんなに簡単に物語が終ってはつまらな―――――っ! なんだ。今、一瞬俺の意識が誰かに乗っ取られたような感覚が……
「そうね……成熟体のデタモンで、究極体のデタモンに挑むぐらいの感じね」
ちなみに、デタモンとは俺が生まれる少し前の世代で流行ったアニメだ。その作品のクオリティの高さは後の世代でもある俺たちにまで影響するぐらいにすごい。
「なるほど、それは無理だ。って、何やってるの?」
俺が相槌をうとうすると、夜桜はまったく俺の方を向こうとはせず、何か作業をしていた。
「んー。メール……」
数秒後、メールを打ち終えた夜桜は急に立ち上がり、俺に言い捨てた。
「私、ちょっと用事ができたからここで待ってて。私の知り合いが来るから。それと、その人物にあんたの悩みを全部話なさい。たぶん、力になってくれると思うから!」
それだけ言うと、夜桜は何か焦っているような顔をして宿を出ていった。
そう言えば待ち人って誰なんだ? 俺は正座から胡坐に直し首をかしげて悩み始めた。
しかし、すぐに階段を駆け上がるような音が聞こえ、部屋のドアが開け放たれる。
「ごめん。一つ言い忘れてた!」
それは先ほどまで俺と会話をしていた夜桜だった。もちろんゲームなので汗はまったく書いていない。それどころか呼吸の乱れすら感じなかった。
「なんだよ」
俺はふてぶてしくそうつぶやいたが、夜桜は本当に急いでいるらしく、いつもみたいに俺を罵ることはしなかった。
「あんたは何処にいても一人じゃない……」
「それ、今言うセリフかよ。もうちょい、TPOを考えろよ」
夜桜はかなり真剣に言っていたようだったが、それだけ言うために戻ってきたことを考えると、言葉の重みが半減……さらに、ここが何の変哲もない宿屋だし、今真昼間だし、なんていうか台無しだった。
「うるさいわね……」
夜桜は少し恥ずかしそうに赤面しながら、うつむいた。それを見た俺は不意突かれた』感じではあったもののかわいいと思ってしまった。
落ち着け、俺! 相手はずっと一緒にいた従妹だぞ! そうだ、俺は何か頭がおかしくなってるんだ! そうだ、そうに違いない!
「急いでるんダロ。早く行った方がイイんじゃナイカ?」
俺は動揺を隠せず、言葉が片言になってしまった。しかし、夜桜はまったく気にすることなく言葉を続けた。
「うん。あと、最後に……」
夜桜はここで少しだけ間を開けた。
その行動が、俺にはかなりもどかしく感じてしまう。いつもなら、気にすることもないわずかしかない間だが、今はそのわずかな間が数十倍長く感じられた。
そんな間に俺は思わず生唾を飲んでしまう。
「今日の夜9時、《星降る湖》で待ってる……」
《星降る湖》とは、イシスに来るまでの間にある分かれ道を進むとある湖のことだ。ちなみに、その名称通り、この丘では夜の10時くらいから、晴れている日ならば流星が見えるというとてもロマンチックな場所で、男女のカップルにはとても人気……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!
ちょっとん待て! あいつどうした? あいつも頭がおかしくなったのか!
「熱でもあるのか?」
「ね、ねぇーよ!」
手を額に当てようと迫る俺の手を夜桜は赤面しながら振り払う。
パシン……
手と手がぶつかり、その途端に俺と夜桜の目が久しぶりに向かい合った。夜桜の透き通るような瞳と俺の瞳が惹かれあうように重なる……
しばらくの沈黙……
俺と夜桜はほぼ同時に我に返り、これまた同時に目線を逸らした。
「じゃあ、わ、わたひもう行くから……」
「お……おう……」
言葉をかんでいる夜桜に対し、俺は恥ずかしすぎてツッコミを返せなかった。今回の話で一番の失策だ……
夜桜はこれ以上俺と何も会話することなく、この場から逃げるように走り去っていってしまった。俺はただそれを呆然と見送った……
◆◇◆◇
数分後……
ようやく落ち着きを取り戻した俺だったが、さっきのことを思いだすと、今にでも再び心臓が高鳴りそうだった。
そんなとき、誰かが部屋のドアを叩いた。
「はいはい」
おそらく、また夜桜が戻ってきたのだろうか……やめてくれ。いつもだったらいいけど、今は本当に勘弁してくれ……
俺は恐る恐るドアを開いた。古い扉が鈍く高い音を立てながらゆっくりと開いていく。俺はわずかに開いた隙間から外を覗いた。
その途端、俺から安堵の息が漏れ、ためらっていたドアを全て開けた。
「やぁ。久しぶりだね」
扉の前にいたのは大文字だった。おそらく、夜桜が呼んだ待ち人というのが彼なのだろう。
大文字は大人びている顔立ちをし、髪は目に入るかというぐらいの茶髪のストレート……身長は俺と同じぐらいかもしれない。年齢は分からないが、おそらく高校生だろう。そして相変わらずの意味もないのにつけているメガネだ。
通常、VR空間では視野も補正されるため、メガネなんてつけなくてもきちんと見えるのだ。だから、彼がつけているのは単なるオプションとしてだ。彼は魂の99%がメガネなのか? 俺にはつける意味が理解できなかった。
そんな大文字の装備は前に会った時よりもよりゴツくなっている。まぁ、その分防御力も上がってると思うのだが……
「ひさしぶりだな!」
俺は先ほどとは打って変わるように快活さを取り戻して、喋りだした。
◆◇◆◇◆◇
俺と大文字は一旦、宿屋を出て誰もいない始まり街近くのフィールドに来ていた。ここなら、暴れても誰の目にもとまることはないし、モンスターに襲われても今のレベルなら高が知れている。
「で、君はそれで強くなることを諦めて、情報屋にでもなろうとしたんだね」
一応、死んでも大丈夫なことは隠すために多少改ざん……まぁ、致し方なしだ。
「あぁ……お前らは死んだらここで終わりなんだと思って戦ってるから強い。でも俺はその実感が持てないから弱いんだ……」
俺が自嘲気味に話すと、大文字は一度深いため息をついた。
「君は何か僕らのことを勘違いしているよ……」
「はっ!? 何がだよ」
「たしかに、君の言う『生存本能』は強さの元……という考えは正しいよ。でも、それじゃ、ううん。それだけじゃダメなんだよ。大体、それだけだったら、弱いプレイヤーなんていない。それどころか、世界中の人がみんな強くなってるよ。君は戦地の子供たちだけが『生きたい』とでも思ってるのかい? だとしたら、この世界はもう崩壊しているよ」
「すまん、言っている意味が理解できないんだが……」
俺には大文字が俺に何を伝えようとしているのかわからなかった。表面上のことは確かにわかる。でも、その言葉の裏に隠された何かが、俺にはわからないのだ。おそらく、それが俺の弱い理由だと言いたのだろう。
俺の言葉を聞いた大文字は一言、俺の目をしっかりと見て喋りだした。
「リョウ君。君は何のためにその剣を握ってる?」
「何って、このゲームをクリアするため―――――」
あれ? 本当にそうだっけ?
俺がこのゲームを始めた理由ってそうだったっけ?
俺がこのゲームを最後までやり遂げようとしている理由ってそれだったけ?
そんな些細な疑問が俺の心をよぎった。しかし、今の俺にはその答えを出すことができなかった。
「たぶん。ヴァルヴァディアさんも何かを持ってるんじゃないかな? 僕だってそうだよ。ただ、生きたいという理由だけでここに立ってない」
俺は自分の胸に手を当ててみた。たしかに俺がこの世界に来た理由があったはずなんだ。でも、俺にはそれがなんなのか思い出せない。
いったいなんだったんだ?
「僕はね。ある人を探しているんだ。一人の生徒を追ってこのゲームにログインした一人の女性を……ね。だから、現実とそう変りないアバターを選び、現実でかけているようなメガネを着けているんです。そうすれば、あちらから気が付いてくれると思いますから……」
「そう……だったのか……」
俺は彼のことを何か誤解していたのかもしれない。いや、それどころかこの世界にいるほとんどの人物のことを誤解していた。
たしかに俺は弱い。それは事実だ。
でも、俺がヴァルヴァディアに大敗した理由は【『やられても、俺は死なない』という“余裕”】なんかではない。
俺はもっとも大切にしなければいけない気持ちが欠落していたのだ。
それを認識した瞬間、俺は全てを思い出した。自分がここに来た理由。そして、自分が今ここにいる理由を……
その途端、俺の顔は自信の喪失した悲しい顔から、自信に満ちた元の快活な顔へと変わった。わずかに口元がにやけてしまうのもそのせいなのだろう。
「どうやら、何か吹っ切れたみたいだね……」
「あぁ……サンキュな……」
俺は自分の手の平を見て、自分の手の中にある力を確認すると、それを握り潰すように拳を固めた。それとともに俺の意志はより強固になった気がする。
「『自分で動かずに他人に助けを求めるやつを助ける義理はない』」
「えっ!?」
突然の大文字の言葉に俺は困惑した。しかし、そんな困惑を無視し、大文字は言葉を続けた。
「『俺らは俺らのために動く、お前の理由なんて関係ない』……乱暴だけど、これは僕の心を変えた人が僕に対して言っていた言葉です」
「なんか無茶苦茶な言葉ですね」
「えぇ……無茶苦茶ですよ。この言葉も、これを言った人物も……でもね。その人にはゆるぎないしっかりとした決意があったんですよ。今の君の決意はもう二度と揺るがないものになったかい?」
「ああ! なったぜ!」
もう、忘れるもんか……俺がこの世界にいる理由……絶対に忘れてたまるもんか!
刹那――――
ポーン
急に音が鳴り、システムメッセージが表示された。
これより、《女教皇》攻略会議を始めます。参加ギルド代表者または希望者は至急、《始まりの街》神殿前に集まってください。―ギルド:《リアライズ・ワールド》ギルド長、カノンより―
その途端、俺の頭は疑問でいっぱいになった。それどころか事実と嘘がこんがらがり、どちらを信じていのかわからず、放心してしまう。
それに対し、大文字は特に何もなかった。
「なぁ? これどういう意味だ? 《女教皇》って倒されたんじゃないのか?」
「ん? 君は知らないのか?」
知らない? やべぇ、ますます頭がこんがらがってきた……
「えっとね。まず、今みんなを招集した《リアライズ・ワールド》ってのが、《女教皇》の最終エリアである《マグダラ神殿》を先行して攻略していたんだ。そして、ボスのエリアを見つけてここ一週間ほど調査してたんだ。でも、三日ほど前に急にあのシステムメッセージが出た。そりゃあ、驚いてカノンさんはすぐにボスのエリアに向かった。そしたらボスは未だ健在で、何ともなかった」
「つまり、どういうことなんだ?」
「まだ、わからないのかい? 誤報だったんだよ。あのシステムメッセージは」
いや、システムメッセージに限ってそんなことはないだろう。なんせ、システムだぞ。そんなバグなんて……バグなんて……いや、あるな。
「正確には仕組まれた誤報だね。君は『メガホン』というアイテムを知ってるかい? これはね。言葉を全プレーヤーに知らせることができるんだ。ちなみにかなりお高いよ」
苦笑いを浮かべて喋っている大文字に対し、俺は驚きと放心が未だに続いていた。
「でもね。この『メガホン』には一つの欠陥があったんだ。それは発信者が表示されないことなんだ。だから、さっきみたいに語尾に誰が出したかをつけるのがマナーとなったんだ。だから、何も表示させなければあたかもシステムメッセージのように思わせることができる。でも、誤報だっていう知らせはすぐに出たはずだよ?」
「すぐっていつだ?」
「その発言から数時間後ぐらい……」
思い出せ! その時俺は何をしていた……たしか、水に中に……あー、そりゃ気づかないわー。なんたって死にもの狂いだったんだもの……
「いやー。気が付かなかったみたい……」
「よかったね。誤解が説けて。じゃあ、僕は会議に向かうからこれでも僕は《天魔帝国軍》の部隊長だしね」
「《天魔帝国軍》? 何そのブランドみたいな言い方してんの?」
これを聞いて、さすがの大文字も驚いた。けれども、それも数秒の間で、すぐに馬鹿な俺に説明してくれた。
「今、このジョグラトルオンラインで攻略の最前線を担っている大ギルドと言ったら、三つしかないよ? 《天魔帝国軍》、《リアライズ・ワールド》それに《センブルクの風》の3つ。この他にも多少の中小ギルドはあるけどやっぱりこの3つの影響力が何よりも大きいんだ。でも、最近《センブルクの風》のリーダーであるヴァルヴァディアさんが不在のことが多くて、《センブルクの風》は目立った動きをしてないみたいだね。だから、今回は《リアライズ・ワールド》が仕切ってるんだと思う」
「なるほど、よくわからん」
「いや、さすがに理解しようよ……」
実際、わかったのだが、ついつい癖で言葉が出てしまった。いやー、大文字の視線が痛い……マジで……
「よし! 俺も攻略戦に参加するかな!」
直後――――
俺のメールボックスに一つの着信があった。そこには俺が忘れていたことがもう一つ……いや、理解することを諦めて、放置していた案件が一つ……
メールの内容はもう一度会わないかということだった。
差出人はもちろんレイカさん……
俺はどちらに行くべきなのだろうか……
俺が悩み、放心していると、目の前の大文字が察したらしく一言だけ言った。
「行ってきなよ」
そうだ。俺は今、ゲーム攻略よりも大切なことがある。その案件を片付けないで、何がマップ攻略だ。俺の頭はどうかしていたらしい……
俺は自分の両頬を両手で叩き、本当の自分を目覚めさせる。
「あぁ……ごめん。俺用事で来たわ!」
それだけ言うと、俺は集合場所である始まりの街の北側の酒場まで走り出した。少しずつ小さくなっていく大文字は両手を大きく振って俺のことを見送っていた。おそらく彼とはもう一度会うだろう。だから、その時にでも今回の礼を言う、と俺は心の中で決意した。
◆◇◆◇◆◇
空模様が少し曇り始めてきた。
今日の約束の時間には晴れているだろうか……晴れていなければただ暗い空を眺めるだけで終わりそうな気もする。
俺は弱気な自分を否定するために首を横に何度も振った。
始まりの街北側の酒場に着くと、奥の席にはすでにレイカの姿があった。そしてその隣には《センブルクの風》の副リーダーであるクイの姿が……
レイカは暗闇に星をちりばめたような瞳でこちらを見つめている。視線はやわらかく、物腰が柔らかそうに見える。顔立ちはきれいで、背も高く良自身とほとんど変わらない、肌は白く足もすらりと長いまるでモデルのようだ。髪型は黒のロングの髪を後ろで一箇所に束ねている、いわゆるポニーテールという髪型だ。数秒の間その容姿に視線を奪われた。
クイは背の高い黒髪の女性は整った顔立ちで、かなり大人の雰囲気を醸し出している。後ろに流している長いさらさらとした髪は風で容易になびきそうなほどきめ細かい。
だが、今のクイはどことなくさびしそうに見えた。
「やぁ。久しぶりだね……」
無理に愛想笑いをうかべているクイさんは本当に見ていられないぐらい痛々しい。いったい何があったというのだろうか……
俺はゆっくりと奥の席の方に歩いて行った。
3人の間にはかなり重々しい雰囲気が漂っていた。
「こんなところに呼び出してどうしたんですか?」
「そやな……リョウはん……うち、きちんとあんさんに謝っとらんとおもおてな……」
「いいんですよ。もう過ぎたことですし……」
数秒の間の沈黙……それはまるで外の曇天をそのまま酒場の中に持ってきているような感じがした。
そんな沈黙をどうにか破り、クイさんが喋りだした。
「もう一つ、今日はあなたにお願いがあって来たの……」
そう言うと、クイさんは一度深呼吸をして再び喋りだす。
「あの人……ヴァルヴァディアを救ってほしいの……」
救う? なんで? あいつは俺よりも強いし、助ける必要なんてないんじゃないのか? それに、俺に頼むんじゃなくてもっと強い人物もいただろう……
そう思ったが、横にいるレイカを見て俺は納得した。
そう、クイさんはレイカに気を使っているのだ。もし、ここで第3者を巻き込むのだとしたら、もちろんレイカの秘密をばらさなくてはいけないし、それがもし口の軽い人物だったらと思うとぞっとする。そういう意味でおそらく秘密を知っているかつ、ばらす心配のない人物として俺が選ばれたのだろう。まったく迷惑な話だ。
「あの人を人殺しになんてさせないでください……」
クイさんはうつむき、喋りだした。その目には少々の涙が見える。
「あの人はとってもバカな人です。このゲームをクリアするとか言って、自分の事情は胸の中にしまって……ボス攻略のときだってみんな責任を恐れてしなかったのを自分から前にでてやると言ったんですよ。まったく、お人好しもいいとこですよ……」
おそらく、最初のボス攻略の時、各ギルドで誰が仕切るかを議論したのだろう。だが、もし誰かが犠牲になったらと考えた各ギルド長たちは責任を逃れるために仕切ることを進み出なかった。そんなとき、ヴァルヴァディアは自分がやると言い出したのだ。結果として一人の犠牲者が出たが、それでもあの難関のWボス攻略に対して相当な戦果を挙げたと言えよう。
しかし、その一人の犠牲者からここまでの事情にまで発展してしまった。未だに《ミックスベジタブル》の目的は不明。そして、それを追っているヴァルヴァディアはおそらく、我が身を犠牲にしてまで、たった一人であのギルドの問題を止めるつもりなのだろう。おそらく、それが最善の策だと思っている。
俺はクイさんの顔を見た。やはり、ヴァルヴァディアのことを心配し、涙を流している。でも、それはクイさんだけのことなのか……
『あんたは何処にいても一人じゃない……』
ふと、夜桜が俺に向けて言った言葉が俺の頭をよぎった。俺は奥歯を強く噛み占め、拳を握った。
たしかになぁ……お前はうまい作戦を立て、指揮もかなりすごいよ……でもなぁ……あんたは間違ってる。根本的なものが間違ってるんだよ……
「詳しく話してもらえませんか? こんな俺で良ければ力になります」
俺もあの時、逃げた現実に決着をつけなければならない。ヴァルヴァディアを止める。そんなこと弱い俺にできるのかなんて今は関係ない。誰かを助けること、誰かを救うことに理由なんていらない。力の有無なんて案外どうにかなるものだ。
「わかりました。では、お話ししましょう……」
クイさんがレイカの方を見ると、レイカは重い口を開き、ゆっくりとしゃべりだした。
「あの人たちは最初はほんまにやさしゅぅてうちもほんまにお世話しはったんや。めっちゃ弱くて彷徨っとたうちをここまでにしてくれた。《ミックスベジタブル》の中の人の名前はわかるやろ? そうや、全員野菜の名前なんや……そやけど、うちはこの通り普通の名前や。そやけんど、やさしく接してくれいたんや。えろういい人たちやったで……」
レイカは昔を思い出すように天井を見上げ、目をつぶり、ゆっくりと首を降ろした。
もしかしたら涙をこらえたのかもしれない。
「そんなさかい、起きたのがあの事件やった。それからや、みんなえろう人がお変わりになろぅてな……うちは、怖ぅて逃げてしまったんや」
レイカは顔の前に両手のひらを置いて自分の罪を思い出すように泣きはじめた。それを見たクイさんはレイカの背中を軽くさすり、代わりに喋りだした。
「事情は分かったか? レイカは、あいつらに復讐したいわけじゃない。かといって、野放しにもできないんだ。矛盾ってやつかな……止めなきゃいけないていうのと、昔の儘でいてほしいってのがぶつかりあっているんだと思う」
「昔に戻すことはできないんですか?」
「無理だな」
クイさんはさも当然のごとく低い声で即答した。
「人間ってのはそう簡単に変われるものじゃない。悩み、探して、見つけて、自分自身で納得して初めて変われるんだ。価値観の押し付けなんかで変われるものじゃない。だから、私たちはあなたに過度な期待はしない。ただ、このまま現状で犠牲者が増えるのだけは止めてほしい……それだけなんだ」
「その犠牲者っての、前から気になってたんです。本当に犠牲者っているんですか? いるとしてもそれはどんな人なんですか?」
俺がこう聞くと、クイさんは軽く鼻で笑った。おそらく、全てを知っていてそれでも話したくないようなものだったのだろう。
しかし、クイさんは一度、深呼吸をすると、真剣に俺の目を見つめて喋りだした。
「あのボス攻略戦の時、死んだトマトを助けられたであろう人々だよ……遊撃隊の一部、それに補助隊の一部……そして、ヴァルヴァディアよ」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。たしかにヴァルヴァディアはあの時の全責任を負うべき人物だが、それ以前に彼はあの後ミックスベジタブルの調査をしていたはずだ。だとすると、彼は自分が狙われていることを知りながら、あえて戦火に突っ込んでいっているということだ。普通ならギルドの中で籠ってもおかしくない。
「じゃあ、具体的に俺は何すればいいんですか?」
そう言うと、クイさんは2つの正八面体の緑色の結晶を二つテーブルの上に置いた。どちらも手の平サイズでソフトボール程度の大きさだ。
「これは?」
「帰還結晶……本来、瞬時に街に戻るためのものよ。本当は転移結晶の方を使いたかったんだけど、予算の問題でできなかったの。帰還するポイントはこちらですでに設定してあるわ」
帰還結晶とは、ゲームなどになる街の中心部に瞬時に戻るアイテムである。《自分用》と相手にも使えるものがあるのだが、今回は後者の方。値段は《自分用》のものと比べてかなり高いはずだ。それよりも高いのが転移結晶なのだが、これはまた後々話すことにしよう。
「その場所って?」
「始まりの街中心部、噴水前よ。ここに《センブルクの風》の戦力を設置する。そして、あなたが帰還させたのを私たちが捕まえる」
「捕まえてどうするんですか?」
「私たちで作った牢屋に入れる……殺しはしない」
おそらく、クイさんは殺すことはできるけれども、殺してしまえば相手方と同じということになることを分かっている。だからこそ、隔離という選択肢をとったのだろう。
「わかりました。引き受けます」
そう言って俺は二つの結晶を受け取った。もはや、これは《センブルクの風》とレイカの問題ではない。レイカに話しかけられたときから俺は巻き込まれていたんだ。だから
俺はこの問題を解決しなければならない。乗りかかった船は最後までいなければならないのだ。現実逃避などもってのほかだ。もう一度逃げれば、今度は夜桜になんて言われるかわからない……
俺が結晶を受け取ると、二人はどことなく嬉しそうに見えた。
◆◇◆◇◆◇
俺は目的地に向けて走り出していた。ヴァルヴァディアの場所はすでにクイさんに聞いている。クイさんはヴァルヴァディアとフレンド登録しているので場所の特定自体はできるようだ。ただ、問題なのはその場所だ。現在、彼がいるのは《マグダラ神殿》内部……つまり街の外ということだ。街の外にいて襲撃に会えば当然のごとくHPは減る。だから、俺は急いでいるのだ。もし、交戦にでもなれば両者とも容赦はしない。最悪の場合死人が出る。
「くそぉ!」
《マグダラ神殿》内部のモンスターは何とか俺が倒せるぐらいのレベルだ。決して余裕など持てない。それどころか油断すれば死ぬレベルだ。パーティだったらまだしも、今はソロだ。
現在時刻午後7時45分……約束の時間まであと1時間と15分だ。
《マグダラ神殿》のモンスターをあいてに逃走を繰り返しつつ、俺は目標をようやく捕捉した。しかし、ヴァルヴァディアは多数のプレイヤーに囲まれている。最悪の事態だ。
「トマトの恨み……晴らさせてもらうぜぇ!」
そう言って、一人のプレイヤーが襲い掛かった。現在、ヴァルヴァディアを囲んでいるのは皆、フードを被っている。だが、元は善人なだけあって、職業はバラバラだ。
一人のプレイヤーがヴァルヴァディアに向かって走り出した。それを察知したヴァルヴァディアは背中の大斧を正面に構える。
俺は歯噛みしながらそれに突っ込んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
腰の剣は抜かずにとりあえず思いっきり殴る。俺の拳は見事に攻撃しようとした《ミックスベジタブル》の一人にめり込む。それと、ダッシュしていた慣性の法則が合わさり、STRが高くはない俺の一撃でも相手を吹き飛ばすことができた。
「「「セロリーー!」」」
俺は殴った反作用を利用してヴァルヴァディアと背中を合わせる。
「これは……ふっ……どうやら何か吹っ切れたみたいだな……」
「あぁ……まぁな……」
俺は腰の剣を抜いた。銀色に輝く刀身がマグダラ神殿の照明の光でより鋭利に見える。
「これ……あんたの副ギルド長からだ」
俺はそう言って、結晶の一つをヴァルヴァディアに渡した。ヴァルヴァディアそれを受けとり、少しだけほほ笑んだ。
「まったく、あの女は心配性だな……行くぞ、少年!」
「当たり前だ!」
おそらく、ヴァルヴァディアはその結晶の意味を理解したのだろう。俺とヴァルヴァディアは背中を離し、正反対に走り出す。
「おらぁ!」
何の考えもない強引な剣振り……だが、今はそれでよかった。下手にスキルをだし、硬直時間に攻撃されたのではたまったものではない。
「何だテメェは!」
囲んでいる一人が吼える。だが、今の俺にはその声は届かない……
スキルなんて今はいらない。《多刀流》など、握っていない部分に思い込められない。だから、剣など一本で十分だ。
相手のソードマスターの縦振りを俺は紙一重のところで体を傾けて避ける。しかし、相手は《二刀流》だ。もう一撃が来る。今度は横振り……しかし、もう一度避けるだけの反射神経を俺は持ち合わせていない。だから、避けない。無理な動きは集中力を無駄に浪費するだけだ。
俺は剣と剣をぶつけて攻撃を止める。今度はこっちの番だ。片手剣を持つ手を右から左に切り替え、拳を強く握りしめる。
「くそったれ!」
渾身のアッパーカットは見事に相手の顎を捉え、ソードマスターを吹き飛ばした。倒さないのだからダメージは少なくてもよい。ようは相手の戦意を喪失させるか全員を同時にスタンにさせればよいのだ。
攻撃を当てたものの、油断はできない。相手は間髪入れず次の攻撃を放ってくる。
「ファイアー」
今度は後方の魔法使い職のやつが俺に火球を放ってくる。そんなことなどお見通しだ。なぜ、俺が魔法剣士だと思う……それは―――――
「ファイアー!」
火球に火球をぶつけ、相殺させる。そうだ。俺は魔法剣士だ。魔法も当然のごとく使えるんだ。たとえ、リリアみたいにスキルどうしを繋げるスキルコネクトをできなくても単発の威力はそこまで相違ない。
俺は火球を打ち出すと同時に魔法使いに突っ込む。
魔法使いは再び俺に火球を放ってくる。しかし、直線状で俺を狙ってるのだから撃ち落とすのは容易だ。
俺は火球に向かって牙突する。火球と俺の剣先がぶつかり、火球は左右に分かれて消滅する。俺はそのままの勢いで魔法使いに突っ込んだ。剣先が魔法使いの胸をえぐり、後方へ吹き飛ばす。
「ホウレンソウ!!」
なんか、シュールだな、おい! いちいち、仲間の名前を呼ぶな……
「セロリだかホウレンソウだか知らねぇが嫌いな奴多いんじゃねぇの?」
「何……野菜が……嫌い……だと……」
えぇー……そこショック受けるとこなんだ……
俺のセリフを聞いたセロリとホウレンソウは繊維ならぬ戦意喪失……
「キサマ! よくもセロリと、ホウレンソウを! かくなるうえはかくなる上はこのカリフラ――――」
「そい!」
俺は最後まで台詞を聞かずにカリフラワーに一太刀浴びせる。だって、台詞長いの嫌いだし……それに―――――
「戦いの途中で長いセリフ言ってんじゃねぇよ!」
さらに横にいた仲間の一人にも一撃入れる。もちろん不意打ちなのでガード不可だ。これを見たこちらの方にいる最後の一人はかなり激怒した。
「カリフラワー! アスパラガス! くそぉ……よくも―――――」
「あ、それ!」
俺は名乗ろうとした最後の一人に剣撃を一発入れる。
「きさま! 私に名乗らせろ!」
「いやだね。テメェらいちいち名乗ってうるせぇんだよ!」
「「「何だと!!」」」
今度は3人反応……そして、いじけて戦意喪失……本当になんなんだこいつら……
俺が全員の戦意を喪失させると同時に、ヴァルヴァディアは全員スタン……というより麻痺……あれ? ヴァルヴァディアって麻痺させるものもってたっけ?
俺はヴァルヴァディアの手の平に握られている短剣を見て納得……
そう言うことね。相手から奪ったのね……奪われた人南無阿弥陀仏……死んでないけど。
「どうやら、終わったみたいだな……」
「あぁ、終わった……のか?」
ていうか、せこ手無しで相手を撃退するお前はいったいなんなんだよ……《ミックスベジタブル》並みに謎だよ……
俺たちが互いの無事を確認すると、痺れている一人が喋りだした。
「くくく……貴様らがここに来たおかげで本当の目標は倒せそうだぜ……」
本当の目標……なんだそれ……一番狙われるべきなのはヴァルヴァディアじゃないのか? いや、ちょっと待て……あの時のことを思いだすんだ。たしか、トマトは床に叩きつけられた衝撃で全損したはずだ。それと同時に相手の侵入を防ぐために―――――
「まさか! 夜桜!」
「ようやく気が付いたか……だがもう遅い!」
そうだ。あの時、夜桜はトマトを回復できたはずなんだ。でも、夜桜はさらに被害が出ることを心配し、最初に敵の侵入を阻止した。結果、トマトはそのままHPを全損させた。だから、本当の狙いはヴァルヴァディアではなく、夜桜なんだ。
「くそ!」
俺は急いで夜桜の元に走り出そうとした。
しかし―――――
「増援か……」
再び、何人かの組が現れる。こんな時に……
「行け! ここは私が引き受ける!」
「おっさん! 借り一つだ!」
俺は増援の間をぬって包囲を奪取する。残ったヴァルヴァディアは少し笑顔を見せた。
「まったく……借りを返したのは私の方だよ……少年……」
そう言ってヴァルヴァディアは大斧を再び構えた。それと同時に増援が一斉にヴァルヴァディアに襲い掛かる。
◆◇◆◇◆◇
午後8時、《星降る湖》……
夜桜はウキウキ気分でリョウの到着を待っていた。夜桜はもう少しで、自分の気持ちを伝えることを考えると少し恥ずかしいはずだが、何故か心が躍ってたまらなかったのである。
しかし、それを物陰から見ているのものがいた。
「クっクっクっ……ようやく一人になったか……これでようやく恨みが晴らせるぜ……貴様なんぞこのグリーンピース様一人で十分だぜ……さぁ、狩りの時間だぜ!」
グリーンピースは体を起こし、自分のナイフをなめた。そして、湖の方を見つめている夜桜に狙いを定める。
「ヒァッハァァァァアアアアアアア!!」
奇声とともに夜桜に襲い掛かる。夜桜はその奇声でようやくグリーンピースの存在に気が付いた。しかし、もう遅い……
ズバンッ!!
鈍い音とともに夜桜の装備していた魔法使いの帽子に切れ目が走り、宙へと高く舞った。……
◆◇◆◇
「ぬぅん!」
ヴァルヴァディアは大斧を体ごと1回転させた。大斧のスキル《大旋斧》は発動者の周囲に竜巻を発生させる中範囲技だ。この技により、突っ込んだ全員が一度吹き飛ばされ、再び、ヴァルヴァディアとの距離が開く。
ヴァルヴァディアは周囲を見渡した。敵の数はおおよそ20人弱……中ギルド程度の人数だ。問題なのが、戦意を喪失したものと、痺れていたものが復帰していること……これと増援を合わせて20なのだが、それに対してこちらは一人のみ……状況は最悪だった。だが、ヴァルヴァディアには一つだけ策があった。
「この人数だ! やっちまえ!」
その掛け声とともに数人が襲い掛かってくる。ヴァルヴァディアはそれに突っ込み突破口を開く。
しかし、後ろの魔法使いたちの攻撃をもろに浴びる羽目になり、HPはじりじりと減っていった。だが、これでいい……これでよかった。
今、ヴァルヴァディアがいる位置は全員からほぼ等距離にある。それがヴァルヴァディアの狙いだ。
「《地烈斬》!!」
ヴァルヴァディアは地面に斧を叩きつける。すると、地響きとともに亀裂が一瞬で周囲に広がった。そして、後方に離れている魔法使いたちだけを宙に浮かせた。
《地烈斬》は発動者の周囲を除いて一定距離にある相手を攻撃する範囲技だ。しかし、発動者の周囲の相手は無傷なため、距離感覚をつかむのはかなり難しい。
宙に浮いたのは魔法使いたちだけだ。つまり、近接戦闘をする者たちは硬直中のヴァルヴァディアを襲うことになる。しかし、ヴァルヴァディアは叩きつけた大斧の反作用を利用し、浮き上がった斧をそのまま回転させる。
「《大旋斧》!!」
通称:スキルコネクトと呼ばれる難しい技だ。スキルの最後の体勢を考え、次につなげるスキルを出すことにより、硬直時間を無視できるというものだが、タイミングを間違えたり、姿勢があべこべな場合、失敗する。だから、かなり難しいのだ。
《大旋斧》により、一斉に飛びかかった者たちが魔法使いたちと同じぐらいの距離まで吹き飛ばされた。ヴァルヴァディアはここでは終わらない。
今度は回転していながら硬直するというタイミングで斧を強引に逆回転に変えゆっくりとまわす。回っているかわからないぐらいのゆっくりの動作……しかし、スキルコネクトにより再びスキルが発動する。
「《ジ・グラビティ》……」
ヴァルヴァディアがこの言葉を言った途端、空中にいる者たちが一斉にヴァルヴァディアの方に引き寄せられた。
《ジ・グラビティ》は一定距離すべてのものを自分の近くに引きつける技だ。しかし、地上にいて踏ん張れば意外と耐えられるため、汎用性はあまり高くない。
しかし、今は別だ。《地烈斬》と《大旋斧》により《ミックスベジタブル》たちは宙に浮いている。つまり、何の抵抗もできずに引きつけられるということになる。
ヴァルヴァディアはこの時を待っていたかのように結晶を取り出した。クイさんがリョウに託し、ヴァルヴァディアが受け取った信頼の証……
「くそぉ! これで終わると思うなよ!」
誰かが空中でそう言った。それに対し、ヴァルヴァディアは静かに結晶を掲げる。
「転移!」
その言葉を言った途端に、ヴァルヴァディアの周囲のものが彼自身を巻き込みながら一気に消え失せた。ヴァルヴァディアは仲間を信用し、それに賭けたのだ。作戦内容自信を聴いているわけではない。だが、おそらくクイならこうするだろうと考え、行動した。それは結果的に勝利を生んだのだ。
ヴァルヴァディアたちが消えた《マグダラ神殿》の奥地には何も残っていなかった。
◆◇◆◇
鈍い音とともに夜桜の装備していた魔法使いの帽子に切れ目が走り、宙へと高く舞った。……
「――――――っ!!」
夜桜は攻撃を紙一重のところでかわした。しかし、完全には避けきれず、右肩を軽く切られた。しかし、軽くと言ってもプリーストの少ないHPにとっては意外ときついものがある。だが、それにしてもダメージが多すぎる。絶対に何かからくりがあるはずだ。
「何やってくれて―――――」
喋っている夜桜の体の力が急に抜け、力なく地面に伏せることになる。夜桜は即座に自分のHPバーを確認した。すると、HPバーの上の方に小さな稲妻に似たマークが出ている。
「麻……痺……」
「そうそう、ご明察!」
そう、夜桜は最初の一撃で麻痺にかかり、動けなくなったのだ。
グリーンピースは満面の笑みで倒れた夜桜のことを見下した。
「まぁ、このグリーンピース様としても、あんたみたいなのを殺すのは抵抗があるんでね。泣いてお願いしたら助けてあげてもいいよぉ!」
夜桜歯噛みした。このまま抗えば、十中八九自分は殺される。だが、プライドさえ捨てれば助かるのだ。ならばとるべき行動は……
「助けてください……お願いします……」
「あぁ!? 聞こえねぇなぁ?」
夜桜は唇から血が出るぐらい強く噛み占める。
「助けてくださいお願いします!」
「よく言いました。では、そろそろ死んでください!」
この途端、夜桜の頭からすべての希望が消え失せた。初めから、グリーンピースは夜桜を助ける気などなかったのだ。
「そんな、約束が違う!」
「約束ぅ!? んなもん、破るためにあんだろ!」
「外道が……」
夜桜が最後の抵抗とグリーンピースのことを睨むと、グリーンピースは満足したように笑い出した。
「外道ぅ!? そいつは褒め言葉だな!」
そう言うと、グリーンピースは短剣を高く上げた。
「茶番は終わりだ……そろそろ死ね!」
夜桜は生きることを諦めようと、静かに目をつぶった。しかし、その瞬間、リョウの顔が浮かび、まるで生きることを諦めるなとでも言いたげな顔をするのだ。
(そうだ……私はまだ……伝えてない……この思いを伝えてないんだ!)
振り下ろされた短剣が途中で止まった。それとともにじりじりと減っていく夜桜のHPバー……
「きゃああああぁあああああああ!」
夜桜は絶叫とともに鈍い痛みにこらえた。夜桜はぎりぎりのところで短剣を素手で受け止めたのだ。短剣は夜桜の手の平を貫通し、どうにか止まった。本当は掴んで止めたかったが、そこまで痺れている体は自由に動かなかった。
「あぁん! いいねぇ!」
夜桜は必死で押し返そうとするが、にこやかにほほ笑んでいるグリーンピースはより圧力を強め、じりじりと押し戻される。
HPバーは減少を続け、ついにレッドゾーンに突入する。もう後がなかった。しかし、未だに体の痺れは取れない。夜桜は死ぬ間際に心のうちに思っていたことを口にした。
「まったく……デートなんだから、男は1時間前には来なさいよ! リョウ!」
「あぁん? お前何言って―――――」
「まったくもってその通りだな!」
「―――――っ!」
グリーンピースは殺気に気が付いて、夜桜の手の平から短剣を引き抜き、バックステップを2、3歩した。その途端に、二人の間を切り裂くように、銀色に光る剣が回転しながら通り過ぎた。
剣に送れてようやく俺が現れる。本当にぎりぎりのタイミングだった。間に合わないと踏んだ俺は自分の腰の剣を投げたのだ。
グリーンピースが離れたことにより、夜桜のHPの減少がようやく止まる。
「遅いよ……」
「あぁ……すまん……」
そう言って、俺はポーションを夜桜の顔の隣に置いた。そして、夜桜を殺そうとしたグリーンピースと向かい合った。
「よくもやってくれたな……」
「あぁ!? 友情ごっこか? それとも恋愛ごっこですかぁ?」
相手をおちょくるような聞き方をするグリーンピースに俺は挑発に乗らずに冷静に答えた。
「どちらでもねーよ。俺は夏輝を守るためにここに来た!」
そうだ……俺はそのためにここにいるんだ……
「なにそれ? ヒーローごっこですかぁ?」
「ちげーよ。正義感を振りかざすつもりは無い、使命感でもない、単純に俺は夏輝が好きで守ってやりたい。それだけだ」
俺は静かに周りを見渡した。俺の剣は少し先の地面に刺さっていた。ここからじゃ少し遠い……対して、相手は短剣を持っている。状況的にはかなり不利だ。だが、やらなきゃいけないんだ。
そう思った瞬間に、俺の中の何かに火がついた気がした。新しいスキルを身に着けたわけでもない。レベルアップしたわけでもない。おそらく、メンタル的な面で何らかの変化が起きたのだろう。
喧嘩なら慣れっこだ!
「行くぜ!」
俺は何も持たずに相手に突っ込んだ。相手は笑いながら、短剣を振りおろす。短剣は俺の肩をかすめた。しかし、かすめたにしてはダメージがデカいのだ。
相手は《ミックスベジタブル》……そうか! あれは……
そう、あれは紛れもなくボスのドロップアイテム……だとすると数レべ上の性能があってもおかしくない……これはさらに不利になりそうだ……
俺は嫌な汗を拭い、反撃する。
幸い、相手は今隙だらけだ……
「――――――っ!」
そう思った瞬間に俺の体は急に力が抜け、地面にひれ伏した。
そうか……そう言えば忘れてたぜ……この短剣……麻痺属性持ちだわ……
「お前バカじゃねぇの? わざわざ攻撃くらいに行くなんてさぁ?」
「残念ながら俺は相当バカなんでね……」
「そうか……じゃあ、お前から死ね!」
短剣が夜桜の時と同じように振り下ろされる。しかし、俺は信じていた。この瞬間、この時間……そう、夜桜の麻痺は解けていると……
「リカバー!」
状態異常回復魔法であるリカバーが俺の体を包み込んだ。
そうだよ……俺は何処にいても一人じゃない。夜桜がいる。夏輝がそばにいるんだ!
俺は体を横にローリングさせナイフをかわす。
ナイフは空しく地面にささった。
「くそったれ!」
俺は相手の手首を寝ながら掴み、それと同時に胸元を蹴り飛ばす。俺の体を縛っていた痺れの拘束はすでにない。グリーンピースは俺の蹴りをもろにくらい、後ろによろけたが俺の手首の拘束により今の体勢を維持される。
今度は握っていた手首を放し、思いっきりナイフを握っている手を殴り飛ばす。そして、先ほどと同じように胸元を蹴り飛ばした。
グリーンピースは握っていたナイフを放し、そのまま後方に2、3歩よろける。俺はナイフを持って立ち上がり、そのナイフを逆手に構えた。
「終わりだこの野郎!」
グリーンピースに向かって全力ダッシュし、加速する。グリーンピースは必死で防御しようとしたが、この短剣にとって防御など意味はなさない。俺が狙うのは麻痺なのだから……
俺の手の中にある短剣はグリーンピースのわき腹を切り裂き、グリーンピースは体力が残ってるのにもかかわらず地に伏せた。それを確認すると、俺はゆっくりとグリーンピースに近づきそれと同時にしまっていた結晶を取り出した。
「転移!」
そう言って俺は結晶をグリーンピースに投げつける。
「キサマ……何を―――――」
全てを言い終える前にグリーンピースは光の欠片となって消えた。死んだわけではない。始まりの街の噴水前に帰還結晶によって転移したのだ。
それを見た俺と夜桜は急に力が抜け、その場に座り込んだ。
同時に座ったのを俺と夜桜は見て、お互いを笑った。
「なに落ち着いて座ってんのよ」
「わりぃかよ。夏輝も座っただろ……」
俺はゆっくりと立ち上がり、座っている夜桜に近づいた。そして、手の平を差し出す。夜桜は軽く微笑むとその手を取り立ち上がった。
二人の目が重なり合う……
すると、互いの顔が赤くなり、恥ずかしさを倍増させた。けれども、どちらも目線を逸らすことをしなかった。
「良……私ね……」
「あぁ……」
夜桜は恥ずかしそうに何かを話そうとした。この湖で星が降る予定時間よりもまだ少し早い……でも、今の雰囲気からそんなことはさしたる違いではなかった。
「ずっと言いたかったことが――――――」
刹那――――――
ドゴーン!!
大気を揺らすような轟音が鳴り響き、湖の中心で水柱が上がった。
一瞬だけ見えたが何かが降ってきたのだ。
星降る湖ってそう言うことかよ……
俺は苦笑いしつつ、降ってきた岩の方を見た。
すると、システムメッセージが急に出てきた。
【『セイレーンと深海の王と3人の人魚姫~大救出作戦編~』を開始します】
ちょ! それって俺が途中で死んで戻ったやつじゃん! どうすんだよ!
隕石により、二人の空気は急に冷めていく……まぁ、当然のことですよね……
「リョウ? その短剣どうするの?」
「ん?」
俺は自分の右手を見た。すると、先ほど敵を切った敵の短剣が……そう言えばそのまま持ってたっけな……返すか? いや、これは今回のよくわからんお助けクエストの報酬として受け取ろう……
「リリアにでもあげれば喜びそうだな……」
リリアは一応短剣を使う。まぁ、妥当な線だ。この状況じゃなければ……
「リョウぅー! どうしてここで他の女の名前がでてくるのかなぁ?」
「ちょっと待て! 誤解だ! 今のはとっさにって言うか、なんていうか!」
夜桜お怒りモード突入……まじやべぇ! 死ぬ! 死んでも大丈夫だけど殺される!
俺は命の危機を感じ、夜桜に背を向け全力ダッシュ!
「あっ! 待ちなさい!」
俺の顔面の横を通り抜ける火球……俺は心の限り、夜のフィールドに向かって叫んだ。
「誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
さてさて、何文字になったかですが、な、なんと……20549字です。本当に一話かよってレベルですよね……すべての発端はそう……あの事件だった……
ていうか、また話が飛ぶのが嫌だったっていうのがほとんどですね。あっ! クエストの話し進ませられなくてどうもすみません。私はただ『レイカの話』→『突然の水泳の話』の順になっているのを強引に軌道修正しただけです。長くなったのはそうですね。説明が多かったからかな……スキルとか、地名とか……アイテムとか……いろいろ追加したので、その位になったのかな。本当はラストバトルで夜桜に『サンダー』とか、やってほしかったんですけど、リョウ君を輝かせてあげようという親心が……
おっと、あとがきも長くなる所だった。それでは今回はこの辺で~ノシ




