彼女はゴブリンのことを知っているのか?知らないとかあるのか?いや、知らないと見せかけて実は知っている……と見せかけて実は知らない……と、考えていたら宇宙全土を巻き込むような大きな闘いが起きそうだ。
こんにちは。霧々雷那です。
前の二人にならって、タイトルを長くしてみました。
えっ!? そんなことしなくていい?
だって、やりたくなるでしょ?
皆さんもそう思いませんか?
茶番はこの辺にしてそろそろ本編の方をどうぞ。
俺とレイカは一旦、別れて後日、再び始まりの街の噴水前で待ち合わせた。俺は一旦、ログアウトして久しぶりに現実世界でのベッドで眠ることとなった。いつもなら、夜桜とともに宿に泊まるのだが、今はその必要がないため現実に戻ったというわけだ。
まだ朝日が昇りたての噴水前は昨日の祭りの余韻を残すように人が横たわって寝ていたりと、人が誰一人いないということはなかった。
「おはよう。リョウはん」
透き通るようなきれいな声がまだ寝ぼけている俺の耳の奥に入ってきた。俺が声のした方を見ると、そこには昨日となんらかわりないレイカの姿があった。
相変わらず美麗な人だ。
「おう。おはよう。じゃあ、さっそく行こうか」
「わかりました。それで、何処にいきはるですか?」
そう言えば、何処に行くかを考えていなかった。彼女は確か……8レべだっけ? だったら、少し上ぐらいのゴブリンの洞窟ぐらいでいいんじゃないか?
「あー、うん。ゴブリンの洞窟の上の方に行こうと思ってるんだけど……」
「あぁ。コブリンはんやね。ほんまにかわいい動物はんやはね……」
なんとなく、彼女のレベルが上がらない理由がわかったような気がする……まぁ、その話題はさておいてとりあえず、ゴブリンの洞窟に向かうことにしよう……俺は彼女とパーティを組んでゴブリンの洞窟に向かった。
◆◇◆◇◆◇
相変わらず湿っぽい岩の洞窟……つまり、ゴブリンの洞窟はボス攻略前となんらかわりなかった。今回の狩場はゴブリンの洞窟3Fだ。
「はぁ!」
俺は右肩から剣を斜めに振り下ろした。剣は見事にレッドゴブリンに命中し、一撃でHPバーの大半を減少させる。ゴブリンはノックバックしてわずかによろけた。やはり、装備が強くなっている他、俺のレベルも上がっているため、この前よりも楽だ。夜桜なんていらないんじゃないか? このまま俺がすべて倒してしまっても、パーティの経験値を平均で分ける設定にしているため、なんら問題はないのだが、レベルだけ上がっても中身が伴わなければ意味はない。したがって、今回は、レイカにも戦ってもらう。
幸い、レイカの職業はアーチャーなので、前線に出なくてもよい。
「今! LAお願い!」
俺は腹から声を出し、叫んだ。しかし、いつになってもレイカの矢は飛んでこなかった。俺は疑問に思いながらレイカの方を見る。そして、その瞬間、俺は驚きで顎が外れるかと思った。
なんせ、レイカは弓を構えるどころか、こちらを向いてすらいない……
「レイカさん! 弓構えて!」
「はい? どないしたのですか?」
「いやだから戦闘を……」
戻ってきたゴブリンの攻撃が俺のすねをヒット……俺のHPを一割削る。防御が無いのでこれはしょうがない。俺はゴブリンを蹴り飛ばして再び遠くへ……
「ところで、LAとはなんですか?」
「ああ……LAってのはラストアタックのことで、最後の一撃のことを指すんだ。だから、さっきのはゴブリンに最後の一撃を入れてほしいって意味で……」
ここまで言う間にレッドゴブリンの攻撃を三回ほど受ける。俺は台詞を言い終わると同時にゴブリンを再び蹴り飛ばす。
「あぁ……ところで、なにしてはるのですか?」
「戦闘です」
戻ってきて俺に一撃加えたゴブリンを再び俺は蹴り飛ばして遠くに吹き飛ばす。
いい加減、しつこいなこのゴブリン……
俺にはすこしづつイライラが募ってきた。
「それにしてもこの赤いものかわいいどすねー」
「えっ! これゴブリンだよ! レイカさんゴブリンのこと知ってたよね!」
「はて……そないなこと言いましたっけ?」
「言いましたよ……」
再びゴブリンの襲来……そのことで、俺の堪忍袋の尾がついに切れた。
「ウゼェんだよ! このクソ野郎が!」
俺はわざと剣を使わず、背丈が小さいゴブリンを蹴り飛ばし、転ばして、首の根っこを掴み、何度も何度も何度も拳で殴りつける。
数回殴ると、ついにゴブリンの体力がなくなり、ポリゴンの欠片とかした。
「あらあら……そないにゴブリンいじめたらあかんでー」
「ゴブリンってわかってるじゃんか!」
「あれま、不思議ですねー」
そんなコントみたいな会話劇を繰り広げながら俺たちは狩りを続けた。レイカさんが強くなったかはわからん……
ただ、彼女が言うには20レべに達したらしい。途中でゴブリンの洞窟4Fに切り替えたり、5Fに切り替えたりしたのがよかったのかもしれない。気が付くと、俺のレベルも二つほど上がっていた。これでようやく24だ。でも、今の俺はボスを倒せるぐらい強いので別に弱いとは思わない。
俺らはレイカさんの二次転のためにとりあえず、始まりの街に戻ることにした。
◆◇◆◇◆◇
俺らが街に戻るころには朝早く出たはずなのに、すでに景色は夕焼けに染まっていた。
始まりの街からは昨日のような熱気は消え、すっかりと元の閑散とした街に戻っていた。
おそらく、他の街に散っているのだろう。
アーチャーの二次転職先、すなわちスナイパーへのクエストを受けられるNPCの場所を俺は知っていた。正確には、夜桜の転職先をさぐっている間にたどり着いてしまったという方が正しい。しかし、知っていることには変わりない。
「あのNPCだよ」
俺はNPCから数メートルはなれたところで、目的のNPCを指さした。しかし、レイカは動こうとせず、ただ呆然と見ていた。
「どうしたんだ?」
「何でもない……」
レイカはただそれだけ言ってNPCの元にゆっくり歩いて行った。そして、何らかのことをしはじめた。しかし、それを見た時、俺は少し違和感を覚えた。
それは、レイカさんがNPCと会話をしているように見えないことだ。あのレイカさんのことなのだから、おそらくそう見えるだけなのだろうが、NPCの前に立つ、レイカさんの背中はなんだか寂しそうに見えた。
そんなとき、始まりの街にいる男性二人組の立ち話が耳に入ってきた。
「なあなあ、聞いたか? ついに出たらしいぜ?」
「出たって何がだよ?」
「ほら、よく小説でよくある殺人ギルドってやつだよ」
「殺人ギルド⁉ お前、熱でもあるんじゃないか?」
「本当だってば! たしか、ギルド名が……ミックスベジタブルだっけ?」
その途端、俺は驚きでその話をしている男性たちの方を見てしまった。それどころか、動揺を隠せなかった。なぜ、あのミックスベジタブルが……と、いうような疑問しか頭の中になかった。
俺の大きく開かれた目に男性二人は気が付き、そそくさとその場を離れた。俺はその行動で我に返り、すぐさまレイカさんの方を見た。
すると、何やら鎧を着た男性がレイカさんに近寄っているのが見えた。俺の背中に嫌な汗が流れる。街の中では通常、HPが削れることはない。しかし、拒否するレイカさんの指を無理やり動かし、決闘にでも持ち込めば話は別になる。
通常、決闘は3つのモードがある。
一つ目は一撃決着モード。つまり、先に相手に一撃を加えた方が勝ち、というモードだ。
二つ目は体力半減モード。これは勝敗を体力の半分で決するものだ。
そして、三つ目は決戦モード。これはどちらかの体力が全損するまで争うもので、プレイヤー間で暗黙の了解で禁止されている。当然のことだ。
俺が言っているのはこの三つ目のモードを使われた時、俺は一切の手を出せなくなるということだ。
俺はレンガの地面を勢いよく蹴り上げ、すぐさま、鎧の男とレイカさんの間に割って入る。右手は腰にある剣の柄を握り、目の前の人物を睨む。しかし、その人物の顔を見た瞬間、俺はすぐに警戒を解いた。なんせ、目の前にいたのはボス攻略戦の時、皆の指示をとっていたあの人物だったからだ。
「君は……リョウくん……」
「あなたは……ヴァ……ヴァ……誰だっけ?」
「ハハハ……忘れないでほしかったよ。ヴァルヴァディアだ」
ヴァルヴァディアは苦笑いを浮かべて、自己紹介をした。
「それで、彼女に何の用ですか?」
俺は再び、警戒をしながらヴァルヴァディアに尋ねた。すると、ヴァルヴァディアも笑っている顔から真剣な顔に戻る。
「君には言えないよ。これは彼女の個人にかかわることだからね」
「それなら、通すわけにはいきませんね―――――」
俺が剣を抜こうとしたその瞬間。俺の肩を軽く叩く人物がいた。そう、レイカさんだ。
「いいんや。リョウはん……今までだましていてかんにんな……」
そう言ったレイカさんはその場で自身の装備を変えだした。その装備は先ほどレイカさんが装備していたよりも数倍強いもの……つまりは二次転後ぐらいにしか装備できないものだった。
「うちは臆病者や……現実から逃げて……仲間から逃げて……でも、それも今日で終わりや。かんにんな、うち、本当はレベル低ぅないんや。本当は孤独をおそれてあんさんとともに……いや、ほんまは誰でも良かったのやと思う。そっちのあんさんもその件で来たんやろ?」
「ああ。君はすでに抜けたんだったね」
俺は二人が言っている会話がまったく理解できなかった。それどころか、レイカさんの言葉の意味すら分からなかった。
「ちょっと待ってくれ! お前らは何を話しているんだ?」
「リョウはん……ほんとかんにんや……実はな、うち、もとミックスベジタブルの一員なんや……」
その言葉は俺にとって衝撃の告白だった。つまり、俺は殺人ギルドの一員と一日中一緒にいたということだ。正確には元だが、それでも俺を動揺させるには十分すぎた。
「さ、そっちのあんさん。うちのことを好きにやってや……」
その言葉を聞いたヴァルヴァディアはゆっくりとレイカに近寄ろうとした。しかし、俺はその行動を言葉で止めた。
「待てよ……」
「どけ、お前にはなんら関係ないことだ」
「だからこそだよ! 俺の知らないところで勝手に決められるのがきにいらねぇ!」
「子供の戯言だな……」
「はっ! ほざけ!」
「仕方ない。ならば力ずくでも通してもらうぞ!」
ヴァルヴァディアは背中の大斧に柄に手をかけた。俺はそれを見て笑わずにはいられなかった。
「決闘か……いいぜ。だけど、ボス攻略戦の時、大活躍だった俺と、後ろで縛られてたお前。どっちが強いかなんて明らかだと思うぜ?」
「――――――…………」
ヴァルヴァディアは俺の言葉に耳を全く傾けず、ただ静かに目をつぶっていた。それに対し俺は露骨に舌打ちをする。
「チッ! 無視かよ……まぁ、いいぜ。ルールは体力半減でいいな」
「かまわない……」
ヴァルヴァディアは静かにそう言うと、俺から距離をとった。決闘の雰囲気にでもしたいのだろうか……
俺は腰の剣を抜き、戦闘態勢に入る。それと同時に、決闘開始のカウントが始まった。レイカは戦闘の邪魔にならないように少し離れたところに転移した。
闘いの開始を告げるゴングが鳴った。
俺は勢いよく地面を蹴り上げて、ヴァルヴァディアとの距離を詰めた。近づいてしまえば素早いこっちのものだ。それに、まだヴァルヴァディアは斧を背中から抜いていない。俺の勝ちはすでに決まったようなものだった。
俺は剣を縦に振り下ろす。絶対に避けられないと俺が思った攻撃……それはヴァルヴァディアが軽く体を捻っただけで避けられ、無残にも空を切った。
俺はすぐさま体勢を立て直し、そのまま横に剣を一閃する。
しかし、これもヴァヴァディアが軽くバックステップするだけで避けられる。
くそ! あたらねぇ!
「月影切り!」
俺は二次転職後に覚えた技を出した。月影切りは前方の敵に対し、何度も切りつける技だ。俺はスキルアシストによって流れるような動きになり、ヴァルヴァディアを切りつけようとした。
しかし―――――
ヴァルヴァディアはそれさえも斧を全く抜かず、避けて見せる。それは本当にスレスレの回避ばかりで、動きにまったくの無駄がなかった。
「ちょこまかウゼェんだよ!」
俺は《恋人たち》すら倒したスキル《多刀流》をここに来てようやく出した。これで、1、2発は奴に当たるはずだ。あれから、いろいろ試し、今では三つぐらいまでは制御できるようになった。多刀流は魔法で剣を操る技だ。
俺は今、三つの剣でヴァルヴァディアを切りつけようとしている。一つ目の剣で斜めに、二つ目は横に、三つ目は手に持っているものなので突きを放つ。
しかし、ヴァルヴァディアはそれらの連撃をまるで子供を扱うかのように軽く避けていく……何度か切りつけたのち、俺は一旦距離をとった。
「くそ! なんで当たらねぇんだ!」
「簡単だ。それはお前が弱いからだ」
「俺が弱い! ほざけ! 少なくともお前よりは強いと思うぜ!」
「過信……か…… 貴様のその剣。決意はこもっているか?」
「はっ!?」
俺は目の前の人物が言っている意味がまた理解できなかった。ゲームにおいて剣に思いなど込めるだろうか? 答えは否だ。そんなの込めてもなにも変わらない。
「どうした? ついに頭のネジがとんだか?」
「わからない……か……。ならば、教えてやろう。お前の剣一つひとつには何の気持ちもこもっていない。だから、剣撃は軽く、予測もしやすい……それが私に攻撃を当てられない理由だ」
「んなこと、あるわけねぇだろ!」
俺は再び、地面を蹴ってヴァルヴァディアとの距離を詰める。
俺は三つの剣で再び連撃を繰り出す。まるで乱打のように……
しかし、ヴァルヴァディアはそれを避けることはしなかった。
「ふん!」
ヴァルヴァディアは俺が手に持っている剣以外の剣を殴り飛ばし、ほぼ同時に、ファンブルさせる。それによって俺の多刀流のスキルは効果をなくした。いや、元から何の効果もなかった。
俺にはスローモーションのように二つの剣が吹き飛んで行くのが見えた。
そして、それと同時に背中の斧を抜き、それを下段に構えるヴァルヴァディアの姿……
ヤバっ!
そう思った時にはすでに遅かった。
ヴァルヴァディアは斧をしたから上に斜めに振り上げた。
「かは―――――――っ!」
俺の体は斜めに切り裂かれ、赤いライトエフェクトが舞った。それとともに、俺の体は空中に投げ出される。空中でヴァルヴァディアの喋っている声がわずかに聞こえた。
「私にはやらなければいけないことがある」
俺は何もできずに地に落ちていった。まだ俺の体力は半分になっていない。しかし、ヴァルヴァディアは逆さに落ちてくる俺の顔を鷲掴みにして、その動きを封じた。俺の手に持っていた剣は切り裂かれた時にファンブルし、すでに手元にない。
「自分の失態から始まったこの連鎖……せめて自分の手で葬り去ろう。終わりだ、子供」
ヴァルヴァディアは俺を渾身の力で地面に叩きつける。それはおそらく落下の衝撃ダメージよりも大きいだろう。俺は後頭部に鈍い痛みが走った。
ヴァルヴァディアの最後の一撃は俺の体力を半分に到達させるには十分すぎた。
もとからDEFがない俺のステータスだ。あんなSTRに振っているような一撃を何度も耐えられるはずがなかった。
システムは俺に敗北を伝え、ヴァルヴァディアに勝利を告げる。
勝利したヴァルヴァディアは精神的なダメージで動けないでいる俺を無視し、レイカに近寄り、何らかの話をしていた。短いやり取りを何度かすると、ヴァルヴァディアは何事もなかったかのように……いや、何かをしようとしているような感じを見せ、レイカを殺すことなくどこかへ去っていった。元から、レイカを殺すつもりなどなかったらしい。俺は何かを勘違いをしていたらしかった。
おそらくヴァルヴァディアはたった一人でミックスベジタブルを潰そうとしているのだろう。彼の力ならばそれは可能なのかもしれない……
気が付くと、俺の目からは涙があふれていた。本物の涙ではなく、俺の感情を読み取った機械がシステムによって流している仮想の涙……
しかし、俺の悔しい気持ちは本物だった。いや、悔しいのではない。俺は……
クソ! 俺は……自分を過信し、スキルを過信し、ともに戦った仲間を信じることができないクソ野郎だ!
そんなクソ野郎の俺に二人の人物が近寄ってくるのが涙でぼやけた視界で見えた。一人はレイカさん……もう一人はギルド:センブルクの風のサブリーダーのクイさんだった。
俺はただ……自分が許せなかったのだ。
はい。今回はここで区切ろうと思います。
なんだか、シリアスになった? いや、ギャグでしょ?
えっ!? 違う?
すみません……ふっ、かかったな。本当はこのあとがきこそがギャグなのさ!
えっ!? ヤメテ! そこ! 幕をしめないで~!
次は一葉楓さんです。
それでは、おおきに~ノシ




