戦火に響く歌声
今回は奈良都翼です^^
「俺のせいだよね……」
俺が猿を虐殺したことによって戦争が始まるらしい。開戦までの時間は1時間を切った。今のうちに現実での食事を終えておこう。それとあの踊りを見るまで少し時間を置くとしよう。
「あーあ、まったく良ったら」
「お前も共犯だ」
「何のことかしら、そうそう現実に戻らなくていいの?」
俺の言葉をあたかも聞いてないように話を切り替える夜桜。
「ああ、すぐ戻る」
その場で夜桜とは別れあの路地裏へ向かう、なるべく早くこちらに戻ってこなくては。
ログアウト
◇◆◇◆◇◆
現実に戻った俺を待ち構えていたのは空腹と大量の不在着信だった。
『8月17日18時32分――――どうして黙って帰ったの夏樹ちゃんは大変なことになちゃたって言うのに、わかって――――』
携帯を閉じる。最後まで聞いている時間はない、ひとまずこの前コンビニに行ったときに買っておいたカップ麺に入れるためのお湯を沸かす。テレビをつけてみると例のごとくあの忌々しいゲームのことに関するニュースが流れている。
『人気ロックアーティストの響さんもまたこのゲームに参加しており、ファンからは悲しみの声が数多く寄せられています』
「へえ、そんなやつもいるんだな、しかもまだ若いし……」
年は17歳、夏樹と同じだ。ショートの茶髪でかわいらしい容姿をしている、背は150cm後半くらいだろうか。意外とそこらですれ違った人間なのかも知れない。
「おっといっけねぇ、お湯お湯」
すでに沸騰していたお湯のほうが今の俺には大事だった。これを食べたら戻るとしよう、時間は戻ると30分ほどになるだろう。
◇◆◇◆◇◆
「ただいま、……ってあれ?」
待ち合わせ場所に夜桜の姿はなかった、すでに戦場へと向かったのだろうか。
「仕方ない、俺も行くか」
二つの軍がぶつかり合うのはちょうどゴブリンの洞窟と谷の中間地点になる。このことによって谷の存在がほかのプレーヤーにもばれてしまうことになるが、もうあそこに用はなかった。
門を出てその場所へと急ぐ、すでにたくさんのプレーヤーがそのイベントを見ようと集まっている。《エンペラー》と《エンプレス》その二つのタロットカードの示すボスへの手がかりを知ろうとする者や、ドロップアイテムを狙っている者。それぞれ考えていることは違うだろうが、ここに集まると言うことは誰もが同じ考えらしい。
『おい来たぞ、あれは……犬か?』
『向こうからもだ、あっちは猿だ』
ちなみに俺は犬は好きだ。勝ってもらうならぜひとも犬がいい。
『始まったぞ、すごい戦いだ』
あたりが砂煙のエフェクトで包まれる。剣がぶつかり合う火花や、放たれる魔法が発する閃光が所々見え隠れする。
「すごいもんだな」
これの原因の発端が俺だと考えると、少し複雑な気分だ。NPCだとしても死ぬことには変わりない。
『なんだあいつ……』
『あの中へ向かってるバカじゃねえのか?』
そんな中に一人のプレイヤーがまっすぐと向かっている。ボロボロのコートが風で揺らいでいるプレーヤー名はHIBIKIとなっている。
「まさかな……」
さっき見ていたニュースを思い出す。いやな汗が背中を流れ落ちる。
「戦争なんてくだらねぇ、僕の歌を聴けえぇぇぇっ!!」
コートが風で舞いアバターの姿が目視できた、そして俺の疑問は確信へと変わった。容姿、身長、そして名前から察するに彼女は響本人だ。手にしているのはボロボロのギターだ。一体何のジョブなのだろうか?
『あいつ《アーティスト》だ、初めて見た』
『《アーティスト》って転職クエストの5つ目の選択肢のあれか!』
先ほどからほかのプレイヤーが口にしている、《アーティスト》というのが彼女のジョブらしい、見た目から察するに音楽家か何かなのだろう。
しかし俺が考えるべきことはそんなことではない。もし彼女がここで死んでその真相がファンにでも伝わろうものなら……。ロックが好きなお兄さんお姉さんが仲良く「夜道に気をつけろ」といっているような気がした。
「まずいぞ、非常にまずい」
あろうことか響は戦場のど真ん中で歌っている。これこそゲリラライブ……、何てこと言っている暇なんてない。
「くそ、お願いだから死なないでくれ」
どうやらバカは二人になったようだ。いやかっこいいな、他人にどう言われようと自分の信念を貫き通すって、まったく俺じゃできないよ。……って俺か。
「早く、逃げろ」
彼女へと攻撃を仕掛けようとしたサルの腹を蹴り、そのまま後ろへと後退させる。一瞬あった視線からは信念のようなものを感じた。
「――争うことなんて、何も生まない」
まだ歌っている、と言うよりは歌うのをやめる気がないらしい。
「逃げてくれよ、お願いだから」
ダメージよりノックバックを重視した攻撃で猿や犬たちを響から遠ざける。しかし逃げる気などさらさらないらしく、歌うのをやめるどころか曲はすでにサビに入っている。
「――聞いてほしい、この歌を、この声を」
「っくそ」
だんだん距離をつめられていく、どうやら戦うしかないようだ。
「やれやれ」
亀を倒しレベルは16になっていた。攻撃の威力も猿たちと戦っていたときよりも数段と強くなっているようだ。
「死ぬんじゃねぇぞ、歌姫様っ」
犬たちの魔法をかいくぐり、猿たちの喉元へと刃をしのばせる。何の影響かは知らないが、集中力が高まっている。そしてダメージも心なしか多くなっている気がする。刃はそのまま一匹の猿の喉を切り裂いた。ダメージ判定はクリティカルのようでサルはただの一撃で沈んだ。
「これならいける」
高まっている力に興奮を覚えながら、剣を握りなおした。最低限の敵だけを倒して響に攻撃を当てないようにしなくてはいけない、彼女が歌い終わるまで。
◇◆◇◆◇◆
「――この想いよ、届け」
「はぁ……はぁっ」
結局響は最後まで歌い続けた、戦争がひと段落し両者痛み分けと言う形で終わりを向かえ、それぞれの軍が撤退していくまで。おかげさまで俺は相当疲れていた。ステータスを確認するとスタミナはほぼ切れかかっている。HPも半分以下、MPは戦いの途中で使い果たしバーを黒が塗りつぶしていた。
「……だめだった」
「何言ってんだよ?」
「私の歌は彼らに届かなかった」
「は? 正気か? 相手はNPCだぞ、歌が届くはずねえじゃねえか」
冗談でも言っているのかと思い、響の顔を覗き込む。その顔は……真剣だ。
「届く、絶対」
「そうかい」
言い返すのがバカらしく思えてきた。あきれながらその場にへたれこむ。
「お兄さんの名前……Ryoっていうんだ」
響の指が空中で踊っている。どうやら俺の名前を確認しているようだ。
「お前さんは響だろ、ロックアーティストの」
目を見開き驚いたような表情を作る響。
「驚いた僕の正体に気づくなんて」
大抵はアバターに好きなアーティストの名前をつけたんじゃないか程度にしか考えられない。真相にたどり着いたのは俺が始めてのようだ。
「そっか……、ほかの人には僕の正体秘密にしてほしいな」
「言わねぇよ、別に得しないし」
「あれ? スタミナ切れ掛かってるよ、これ食べる?」
と言って手渡されたのは食パンだった、うんシュール。
「お、おお、……ありがとう」
なんだかんだで初めてこの世界で食べ物を口にすることになる、それが食パンだ。ジャムもマーガリンもついていない食パン。
「いただきます」
かじると食パンの味がした。当たり前だけど。
「こんなんじゃだめだった?」
「いや問題ない」
そういいながら響も食パンをかじっている、うんシュール。
「Ryoさんは誰かとパーティ組んでるの?」
「まあ一応」
今ではすっかり俺のイメージを一新させたあの顔が脳裏に浮かぶ。
「そっか……、今日はありがとう、またどこか出会おうね」
その場からさっていく響の背中を見つめながら、俺は何かにはじき出されたように疲れた体を動かした。
「やっば、夜桜のこと忘れてた」
あの素敵な笑顔からどのような傍若無人な言葉が吐き出されるのか考えただけでも、ビターな笑いは止まらなかった。その後フレンド申請が届いていたことは俺の心の中に閉じ込めておくことにしよう。
とあるアニメを見て以来
ことあるごとに
『俺の歌を聴けぇぇぇっ』
と言ってしまう自分がいます……
参加したい方は活動報告か私にメッセージください
では次は雷那さんです、よろしく^^




