告白
美穂と奈々が、フリーズしている。
二人の目が大きく見開かれたまま、動かない。愛も後ろで口を手で覆っている。
「おい、美穂? 聞いてるか?」
美穂の唇が震えた。
「えっと…秀治君? ピーちゃん、その冗談は笑えないよ」
奈々も声を上げる。
「ちょっとピーちゃん、美穂が真剣に悩んでたんだよ! 何やってんの!」
「冗談じゃない。俺は小野秀治だ。美穂、覚えてるか? 文化祭の時、二人で写真を撮っただろ。あの時、俺が『一緒に撮ろう』って言ったら、美穂が『うん』って頷いてくれた。その写真、俺の机の上に飾ってあった。美穂は昨日、それを見て泣いてたよな?」
美穂の顔がみるみる赤くなっていく。
「それ…本当に…二人しか知らないこと…」
「ああ。俺が死んだのは、家に帰る途中の角だ。自転車と鞄が落ちてただろ。あの血痕は俺のものだ」
美穂の目から涙が溢れ出した。
「嘘…嘘でしょ…秀治君が…ピーちゃんが…」
「嘘じゃない。俺は死んでスライムになった。理由はわからない。だけど、お前にテイムされて、ずっとそばにいた。お前の声を聞いて、お前の涙を拭けなくて、もどかしかった。声が出なくて、名前も名乗れなくて」
「秀治君…秀治君!」
美穂が俺を抱きしめた。激しく震えている。涙が俺の体に染み込んでくる。
「会いたかった…ずっと会いたかった…」
「俺もだ。ずっと伝えたかった。俺はここにいるって」
奈々が呆然と呟く。
「本当だったんだ…ピーちゃんが小野君だったんだ…」
愛も手が震えている。
「じゃあ、ピーちゃんさんが…秀治さんだったんですか」
美穂が突然、俺から離れて顔を上げた。何かを思い出したような顔だ。
「あ…あ…」
美穂の顔が真っ赤になった。赤を通り越して紫色に近い。
「秀治君に…私…あんなことしてもらって…」
美穂が弾かれたように立ち上がって、部屋を飛び出していく。
「美穂!」
俺は美穂の後を追った。スライムの体で廊下を跳ねて、隣の部屋に入る。美穂がベッドの上にうずくまっていた。顔を枕に押し付けている。
「美穂…」
「来ないで! 恥ずかしい! すごく恥ずかしい!」
「何が恥ずかしいんだよ」
「だって…私…秀治君にあんなことしてもらって…声だして…秀治君って呼んで…」
美穂が枕に顔を埋めたまま叫ぶ。
「俺は嬉しかったよ」
美穂が顔を上げた。目が真っ赤になっている。
「俺が死んでスライムになって、一番辛かったのは、お前が泣いているのに何も出来ないことだった。でも声を聞けた時、名前を呼んでくれた時、俺は嬉しかった。お前の裸はキレイだったよ。本当に」
「秀治君のバカ!」
美穂が枕を俺に投げつけた。スライムの体に枕が当たってプルンと跳ねる。
「それに奈々と愛にもしたよね!」
来た。俺は覚悟を決めて言い訳をする。
「あれは違う。道具になりきってただけだ。ただのオモチャと一緒だ。美穂には愛を込めてた。あいつらとは訳が違う」
「本当に?」
「本当に。美穂にだけは本気だった。ずっと好きだったんだ」
美穂の目が潤んでいる。俺は美穂の身体に張り付いて、優しく振動させ始めた。
「あっ…秀治君…」
「美穂。お前にだけは、愛を込めてる。今日も、これからもずっと」
俺は身体中に振動を与えていく。胸の先端を挟み、下の割れ目に張り付いて、優しく刺激する。
「んっ…あっ…秀治君…好き……」
「俺も好きだ。ずっと好きだった」
美穂の声が高くなっていく。でも今日は俺の名前を呼んでいる。ピーちゃんじゃなくて、秀治君と呼んでくれている。それが嬉しかった。
「あっ…ああっ…秀治君…だめ…いっ…」
美穂がビクッビクッと痙攣して、力が抜けた。俺は優しく下着を直して、顔の横に移動した。
「美穂。俺は、人間の体に戻ったら、お前とちゃんと付き合いたい。人間として」
美穂が涙を流しながら微笑んだ。
「うん。約束だよ。クリアしたら、ちゃんと付き合おうね」
俺たちは少しの間、抱き合っていた。
元の部屋に戻ると、奈々がニヤニヤしながら言った。
「声聞こえてたよー。秀治君、秀治君って」
美穂が真っ赤になって奈々の肩を叩く。
「奈々! 聞こえてたの!?」
「バレバレだよ。壁薄いんだもん」
俺は咳払いをした。いやスライムに咳はないか。
「奈々、ごめんな。お前の部屋に行った時もしたけど、俺は道具だったから」
「小野君、私のお尻にも入れたよね!」
奈々が容赦なく言い放った。美穂がぎょっとして俺を見る。
「お尻に?」
「ああ…奈々が気持ちよさそうだったから…」
俺は俯いて謝った。
「ごめんな。奈々。あれはやりすぎた」
「いいよ。またやってね」
奈々がウィンクしてきた。この子は本当に度胸があるな。
美穂がむすっとした顔で言う。
「お尻にも入ったの? 私にはそれしてくれてない」
「えっ」
「次は同じようにしてよ。ずるい」
(美穂までそんなこと言うのか。いや、わかった。次は同じようにするよ)
「わかった。次は同じようにする。約束だ」
美穂が少し満足そうな顔をした。愛が後ろで顔を赤くして俯いている。
「あの…私も…またお願いしていいですか…」
「愛もかよ」
三人が俺を見ている。俺のため息はスライムの体の中でくぐもった音になった。
「まあ、それはクリアしてからだ。まずはダンジョンを攻略しないと」
俺は話を戻した。
「ソラのこと、つまりゲームマスターのことだが、クリアしたら俺たちの寿命が尽きるまで、この星には干渉しないと約束してくれた。つまり、クリアすれば世界は元に戻る。死んだ人も生き返る。俺も人間に戻れる。そのまま、俺たちが生きている間は平和が続く」
美穂が俺を見る。
「秀治君が人間に戻れる…」
「ああ。戻ったら、ちゃんとデートしような。映画行ったり、ご飯食べたり」
「うん! 絶対だよ!」
美穂が拳を握る。奈々も頷く。
「私たちは秀治君を人間に戻すんだもんね。頑張ろう!」
愛も決意の表情を浮かべた。
「はい。クリアして、皆で元の世界に戻りましょう。私も…お母さんに会いたいし」
「うん。奈々もパパとママに会いたい」
三人の顔が前を向いた。もう迷いはない。
「よし、ダンジョンだ。富士宮のダンジョンに入って、頂上まで登って、ラスボスを倒す」
「はい!」
三人の声が重なった。
ポヨン。
ポヨン。
俺は美穂の肩に乗る。いよいよダンジョンだ。富士山の頂上に待つラスボスを倒すために。
美穂の温もりを感じながら、俺は前を向いた。
「なあ美穂。人間に戻ったら、まず何したい?」
「えっと…秀治君と手をつないで歩きたい。普通に。街を」
「じゃあそうしよう。約束だ」
「うん。約束」
美穂が俺を撫でてくれた。その手の温もりが、俺の全身に染み込んでいく。
(人間に戻ったら、この手を自分の手で握るんだ。スライムの体じゃなくて、人間の手で。それまで、もう少しだけこの体で美穂を守る)
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