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好きなあの子にテイムされた俺、最弱スライムだけど彼女を守るためなら最強になります!  作者: ミコジ


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15/20

日本刀を持った少女

山の中の舗装された道を俺たちは歩いていく。木々の間から差し込む陽光が道に斑模様を作っている。

空気は澄んでいて、都市部とは全然違う。もしこの世界が壊れていなければ、ハイキング気分で楽しめただろう。


美穂が富士山を見上げた。山道の先に富士の裾野が見えている。


「ねえ、あの天辺にモンスターがいるのかな」


奈々も空を見上げる。

「ラスボスってくらいだから、大きいんだよね。けど何も見えないね」


愛が首を傾げる。

「ですねー。頂上って広いんでしょうか? 戦う場所は確保できるのかな」


誰も富士山に登ったことがないみたいだ。俺もないんだけどね。


「ピー」

俺が小さく鳴くと、美穂が俺を撫でてくれた。

「ピーちゃんも登ったことないよね。スライムだから登れるかな」

(跳ねれば登れるだろ。たぶん)


そんなことを話していたら、後ろからバイクの大きな音が聞こえてきた。

ドドドドドドッ。

すごい爆音だ。山道で隠れるところもない。俺たちは道の端に寄るしかなかった。


数秒で見えてきた。10台くらいの派手なバイクに乗った男たちだ。全員が白い特攻服を着て、手には金属バットや鉄パイプを持って武装している。暴走族だ。


(まずい。山道で逃げ場がない)


俺は美穂の肩から飛び降りて前に出た。愛も盾を構えて前に出る。


バイクの列が俺たちの前で止まった。エンジンはアイドリングのまま。先頭のバイクに乗った男がヘルメットのシールドを上げて俺たちを見た。


「お前たち、こんな所で何してるんだ?」


美穂が後ろに下がる。奈々も美穂の背中に隠れている。


愛が一歩前に出て答えた。


「富士山まで行きます」


「富士山?」

男が眉毛を上げる。


「俺たちも富士山のラスボスってのを倒しに行くんだ。一緒に乗って行くか? 後ろに座れば楽に行けるぞ」


男がニカッと笑う。悪い人じゃなさそうだ。


美穂が少し考えてから首を振った。


「いえ、歩くから大丈夫です」


「そうか。俺たちが先に倒してやるから、ゆっくりモンスターに気をつけて来いよ」


男がそう言って笑った。他の男たちも笑っている。


「おう、頑張れよー」


「気をつけてな」


男たちがそれぞれ声をかけて、バイクのエンジンを吹かす。爆音を響かせながら走り去っていった。土煙が舞う。


美穂と奈々が同時に「怖かったー」と息を吐く。

「いきなり来たからびっくりしたよ」


美穂が胸を撫で下ろす。

「うん。なんか武装してたし」


奈々が震える。

愛が少し考えてから言った。

「けど、見かけによらず、優しかったね」

「そうだね。乗せてあげるって言ってくれたし」

美穂が頷く。


(こんな時に頼りになるのは、ああいう突っ張っている奴らなのかもしれないな。彼らはバットや鉄パイプで戦う気満々だったし。ゲームマスターに立ち向かう気概がある人間は、生き残っているのかもしれない)


「さあ、行こう」

俺たちはまた歩き出した。


山道を抜けて下り坂になる。富士山が近づいてきているのがわかる。裾野の広がりが見えてきた。


その時、道端に女の子が一人で座っていた。

黒髪の長いストレートの髪。学校の制服らしき服を着ている。腰には日本刀を刺している。

人形のように綺麗な女の子だ。


美穂が真っ先に駆け寄る。

「ねえ、大丈夫? 一人?」


女の子が顔を上げる。大きな目が俺たちを見ている。表情はほとんど変わらない。


「はい。一人です」


「どこに行くの?」


「富士山です。仲間を探していました」


美穂が目を輝かせる。

「えっ、私たちも富士山に行くところだよ。一緒に行かない?」


奈々も前に出る。

「そうだよ、一緒に行こうよ。一人じゃ危ないし」


女の子が俺たちをじっと見た。それから俺に視線が止まる。

「スライムですか」

「あ、これはピーちゃんだよ。私がテイムしたスライムなの」


美穂が俺を紹介する。女の子が無表情に頷いた。

「わかりました。お願いします」


あっさりしている。少しクールな女の子だな、と思った。

「私の名前はソラです」

「私は田口美穂。これは平田奈々、望月愛。そしてピーちゃん」

「よろしくねソラちゃん」

奈々が手を差し出す。ソラが少し躊躇ってから手を握った。

「よろしくお願いします」


四人と一匹になって歩き出す。ソラは美穂の隣を歩いている。


美穂がソラの腰の刀を気にして聞いた。


「ねえ、その刀は本物?」


「はい。家にあったから持ってきました」


「家に刀があったの?」


「父が趣味で集めていました。父はもういませんが」


ソラの声は平坦だった。感情を表に出さないタイプなのか、それとももう悲しみを通り越しているのか。


「そう…だったんだ」

美穂が暗い顔をする。奈々が話題を変えようとした。


「ソラちゃんって、スキルあるの?」


「はい。剣術というスキルです」


「剣術! すごいね。それでその刀を使えるの?」


「はい。少しは」


(剣術スキルか。戦闘スキル持ちの仲間が増えた。愛が盾で守って、俺が捕食で攻撃して、ソラが刀で斬る。完璧な布陣じゃないか)


俺は「ピー」と元気よく鳴いた。


ソラが俺をちらりと見た。

「そのスライムは強いのですか」

「うん! ピーちゃんはすごいんだよ。モンスターを食べちゃうの」

美穂が胸を張って言う。


「モンスターを食べる…」


ソラが少し目を細めた。興味を持ったようだ。

「ピーちゃんのスキルは捕食って言って、モンスターを取り込んで食べることが出来るの。食べるとレベルが上がって、スキルも奪えるんだよ」


「なるほど。強いですね」


ソラが無表情のまま頷いた。


「ピーちゃんは私の従魔なの。テイムスキルでテイムしたの」


「テイムスキル…」


ソラが何か考え込むように黙った。


しばらく歩いて、沼津の町に着いた。富士山の裾野がすぐそこに見えている。


「わあ、富士山が大きい」

美穂が足を止めて見上げる。夕日に染まった富士山が目の前にそびえている。


「きれいだね」

奈々もつられて見上げる。


「ですね。本当に大きい」

愛も感嘆する。


ソラだけが無表情に富士山を見ていた。


「あの頂上にラスボスがいるんだ」

「うん。あそこまで行って倒すの」

美穂が拳を握る。


高速道路のインターの近くにラブホテルがあった。ここで泊まることにした。


いつものように俺が隙間から鍵を開けて中に入る。慣れたものだ。


部屋に入って、俺は異空間から弁当と飲み物を取り出して並べた。四人分。最近は人数が増えて異空間の容量が減るペースが早いな。でもLV3になったからまだまだ入る。


「わあ、ありがとうございます」

ソラが初めて少し驚いた顔をした。


「ピーちゃんすごいね。どこに持ってるの?」


「異空間っていうスキルがあるの。アイテムボックスみたいなものなんだよ」

美穂が得意顔で説明する。


「便利ですね」

ソラが弁当を受け取る。小さな口でかじり始めた。上品な食べ方だ。


「ねえソラ、ソラって呼んでいい?」


「はい。構いません」


「ソラは、一人でここまで来たの?」


「はい。家を出てからずっと一人でした」


「怖くなかった?」


「怖いですが、やるしかありませんから」


ソラが淡々と答える。

「ゲームマスターの声を聞いて、富士山に行けば世界が元に戻ると。なら行くしかないと思いました」


「そっか。ソラも同じだね」

美穂が微笑む。

「私の好きな人を生き返らすために、富士山に行くんだ」


「生き返らせる…」


ソラが箸を止めて美穂を見た。初めて感情が表に出た。少し驚いたような顔だ。

「本当ですか」


「うん。クリアしたら時間を戻して、死んだ人も元に戻るって言ってたから」


「…そうですか。なら、私も行く意味があります」

ソラが小さく呟いた。


「ソラにも、生き返らせたい人がいるの?」

奈々が聞く。ソラが少し目を伏せた。

「父と母を。二人ともモンスターに殺されました」

静かな声だった。感情を押し殺しているように聞こえる。


美穂がソラの手を握った。

「一緒に行こう。絶対に元に戻そう」


ソラが美穂の手を見つめて、少しだけ頷いた。

「はい。お願いします」


(ソラちゃん、ようこそ。仲間がまた増えた。剣術スキル持ちの戦力。これで俺たちのパーティはかなり強くなったはずだ)


四人が食事を終えて、順番にシャワーを使った。俺は異空間から着替えを取り出して配る。ソラには予備の服がないから、奈々の予備を貸すことになった。

「ありがとう。借りるね」

ソラが奈々の服に着替える。少しぶかぶかだが、問題ないだろう。


「ねえ、今日はどうやって寝る? ベッドが1つだから」

美穂が聞く。

「じゃあ、みんなで寝ますか?」

愛が言う。


「私は床で寝ます」

ソラが即答する。


「ダメだよ。床は硬いし寒いし」

美穂が首を振る。


「大きいベッドだから4人で寝れるでしょ」

奈々が提案する。


「いいの?」

「うん。狭いけどね」


ソラが少し考えてから頷いた。

「わかりました。ありがとうございます」


「よし、じゃあ今日はこれで寝よう。明日はいよいよ富士山だ」

美穂が元気よく言う。


俺は「ピー!」と鳴いてプルンと跳ねた。

(明日はいよいよ富士山登山か。でもその前に、五合目くらいまでは道があるはずだ。車を見つければ楽できるんだけどな。まあ、とりあえず今日は寝よう)


美穂が俺を抱いてベッドに移動する。


「明日はソラちゃんの刀も見たいな。本物の刀って見たことない」


「ピー」


「それにしても、バイクの男の人たちも富士山に行くんだよね。もし先に着いてラスボスと戦ってたらどうしよう」

(彼らが勝てるかな。バットと鉄パイプでラスボスに勝てるとは思えないけど、人数が多いから何か分があるかもしれない)


「ピー」


「そうだよね。私たちも頑張ろうね」


美穂が俺を抱きしめて目を閉じた。今日は何もしないらしい。疲れているのかもしれない。俺は気配察知を発動したまま、美穂の寝顔を見守る。


明日からはいよいよ富士山登山だ。ラスボスとの戦いが待っている。俺たちは強くなっている。でもラスボスがどれくらい強いのかわからない。


(もっと強くなるしかない。捕食して、スキルを奪って、レベルを上げて。美穂を守るために。奈々を守るために。愛を守るために。ソラを守るために。四人を守り抜いて、ラスボスを倒す。それが俺の使命だ)


ポヨン。

ポヨン。

俺は今日も、美穂の胸の上で小さく跳ねている。静かな夜だ。富士山の頂上に何がいるのかわからないけど、俺たちは明日、そこに向かって歩き出す。

冒険の物語は、いよいよ佳境に入ろうとしている。

ポヨン。

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