盾をゲット
美穂が部屋を見回して言った。
「ここはベッドが二つしか無いから、私とピーちゃんは隣の部屋に行くね」
奈々が布団をめくりながら首を傾げる。
「えっ、一緒に寝たらいいじゃん。狭いけど寝れるよ」
美穂は少し考えてから首を振った。
「うーん、やっぱりベッドは広く使いたいしね」
「はいはい、わかったよ。じゃまた明日ね」
奈々が少し不満そうな顔をしたが、すぐにベッドに潛り込んだ。
「おやすみなさい」
愛も小さく手を振って「おやすみなさい」と言ってベッドに横になった。
美穂は俺を抱き上げて隣の部屋に移動する。カードキーをかざしてドアを開けると、同じようなツインルームだった。美穂は俺をベッドの上にそっと置いて、シャワールームに向かった。
(静かだな。隣の部屋からはもう寝息が聞こえる)
しばらくして、シャワーの音が止まった。美穂が出てくる。バスローブではなく、裸のまま出てきた。濡れた髪から水滴が滴り落ちている。
(おいおい、また裸かよ)
美穂がベッドに近づいてきて、俺に寄ってくる。
「ねえ、ピーちゃん」
「ピー?」
美穂が耳元で囁いた。
「昨日のアレ、またやって」
(昨日のって…アレか!)
俺の体が激しく震えた。美穂が上目遣いで俺を見ている。
「昨日は隣に奈々がいたから、楽しめなかったんだ」
(マジか! 美穂って実はスケベだったのか? いや、俺は嬉しいけど)
美穂が裸のままベッドに横になる。シーツの上に栗色の長い髪が広がる。白い肌が薄明かりに照らされている。
(俺はスライムだ。何も知らないスライムだ。でも美穂が頼んでくるんなら…)
「ピー…」
俺は小さく鳴いて、美穂の上に乗った。体を薄く伸ばして胸全体を包み込む。先端の突起を挟んで振動する。スライムの体全体で微細に震える。
「あっ…んっ…」
美穂の声が漏れ出す。昨夜より大きい。
「ピーちゃん…そこ…いいよ…」
俺は胸を刺激しながら体を下に伸ばしていく。腹を越えて、茂みの奥の割れ目にペタッと張り付いて同じように振動する。
「あっあっ…秀治君…秀治君…」
また俺の名前を呼んでいる。俺はここにいる。人間の姿じゃないけど確かにここにいる。
美穂の声が隣の部屋に聞こえそうなほど大きくなっていく。俺は少し心配になったが、美穂が俺の体を両手で押さえて離さない。もう止められない。
「ああっ…んっ…だめ…いっ…」
美穂の体がビクッビクッと痙攣したように跳ねた。そしてそのまま力が抜けて寝息を立て始めた。
(いけないことをしている。でも美穂が俺の名前を呼んでくれた。それが嬉しい)
俺は美穂の体から離れて、顔の横に移動した。安らかな寝顔だ。少し微笑んでいる。
(ゆっくり寝てくれ。明日からまた忙しくなるぞ)
俺は一晩中、美穂の寝顔を眺めていた。スライムに睡眠は必要ない。代わりに気配察知を発動したまま周囲を警戒する。モンスターの気配は遠い。安全だ。
朝が来た。
美穂が目を覚ます。
「ん…おはよピーちゃん」
美穂が俺を撫でてくれる。今日の顔は昨日よりずっとスッキリしている。
「ピーちゃん、ありがとっ。すごくよく眠れたよ」
美穂が俺を持ち上げて頬ずりする。
(よく眠れるように1人でする女性がいるって聞いたことがあるな‥まあいいか)
隣の部屋に移動する。ドアをノックすると奈々が開けてくれた。愛もすでに起きている。
俺は三人の前に弁当とお茶を並べていく。
「あ、ありがとうございます」
愛が恐縮しながら弁当を受け取る。
「ピーちゃん、ご飯どこに仕舞ってるの?」
愛が不思議そうに俺を見る。
俺は「ピー」と一言鳴いておく。言葉で説明できないのがもどかしい。
三人が食べている間、俺は奈々の視線に気づいた。
(奈々が…おかしい。ずっと俺と美穂を交互に見ている)
(もしかして昨夜の声を聞かれたのか?)
奈々がじっと俺を見て、それから美穂を見て、また俺を見る。
(うーん。でもしょうがないよね。美穂がやってって頼んできたんだから)
俺は知らん顔で弁当をかじるふりをした。いやスライムは食べるふりも出来ないか。
「ねえ、今日はどっちに進むの?」
奈々が地図を広げる。
俺は警察署の方角へ向かって跳ねた。
「ピーピー」
「あっち? 何かあるの?」
美穂が首を傾げる。
(警察署だ。透明な盾を手に入れたい。愛の怪力を活かすには物理的な盾が必要だ。それに銃とかもあるかもしれないし)
「ピー」
「じゃあ、あっちに行ってみようか」
美穂が頷いて歩き出す。
ホテルを出て三人と一匹は歩き出す。美穂はご機嫌で笑顔だ。昨日の夜のおかげか。いや単純によく眠れたからだろう。
だが奈々がおかしい。美穂と俺をずっと交互に見ている。時々顔を赤くしている。
(やっぱり聞かれたな。昨夜の声)
美穂が歩きながら話し出した。
「ねえ、電気とかっていつまで使えるのかな?」
愛が少し考えて答えた。
「人がいなくなったら1ヶ月くらいで電気が止まるって聞いたことがあります。発電所が自動運転でも燃料が尽きたら止まるそうです」
「じゃあ、最低でもあと2週間は電気が使えるのかな」
美穂が計算する。
(止まるまでにクリア出来たらいいんだけど。それに自衛隊とかどうしたんだ? 近代兵器があれば富士山のラスボスくらいすぐ倒してくれそうだけど)
俺は考え込みながら跳ねた。
警察署の看板が見えてきた。俺はそっちに向かって跳ねる。
「あっ、警察署だ」
美穂が看板を見上げる。
「中に何かあるの?」
「盾とかあるといいなって思って」
奈々が言う。
「あっ、そうか。愛ちゃんの怪力スキルがあるから盾があれば守れるもんね」
「はい。盾があればお二人を守れます」
愛が拳を握る。
途中、オークが二体現れた。俺は美穂の肩から飛び降りて、一体ずつ捕食していく。レベルが上がった。
【レベルが10に上がりました】
【異空間がLV3になりました。容量が拡大されました】
【怪力スキルがLV2になりました】
(おっ、怪力がレベルアップした。同じスキルを奪っていけばレベルが上がるみたいだな。オークから怪力を奪ったからか)
誰もいない警察署の中に入る。俺が隙間から鍵を開けて三人を招き入れた。
中は荒れていたが、装備室は比較的キレイだった。
「わあ、すごい。透明な盾があるよ」
奈々が透明なポリカーボネート製の盾を手に取る。
「これなら軽くて頑丈だね。愛ちゃんにぴったりだよ」
愛が盾を持って構えてみた。
「軽い…これならどんな衝撃でも防げそうです」
「よし、盾ゲットだね!」
美穂が喜ぶ。
俺は他の部屋も探った。銃は…金庫に仕舞ってあるのか見つからなかった。まあいいか。盾だけでも十分だ。
盾も何枚か異空間にしまっておく。愛が使う時に出せばいい。
「よし、じゃあ富士山に向かって出発だ!」
美穂が元気よく言う。
「はい!」
愛も初めて元気な声を出した。
警察署を出て西に向かう。富士山まではまだ遠い。でも仲間が増えて装備も整った。
歩きながら、奈々が美穂の隣に並んで小声で話し始めた。
「ねえ美穂」
「ん?」
「昨日の夜、何か声が聞こえたんだけど」
美穂の顔が真っ赤になった。
「えっ? 何のことかな? わかんないなー」
「嘘。美穂の声だよね。秀治君って呼んでたよね」
美穂が歩く速度を速める。
「聞こえてないふりしてたんだけどさ…ピーちゃんに何させてたの?」
「ななな、何もさせてないよ! ピーちゃんと寝てただけだよ!」
「美穂の声すごく色っぽかったけど」
「色っぽくない! 寝言だよ寝言!」
(バレてる。完全にバレてる)
愛が後ろで首を傾げている。
「あの…何の話ですか?」
「あはは、何でもないんだよ愛ちゃん。ね美穂?」
奈々がニヤニヤしながら美穂を見る。
「そうだよ! 何でもない!」
美穂が赤い顔で叫ぶ。
(奈々、これ以上追求しないでくれ。俺も恥ずかしいんだ)
俺は美穂の肩の上で小さく縮こまった。プルン。
「あはは、ピーちゃんも恥ずかしがってる」
奈々が笑う。
「もう! 奈々の意地悪!」
美穂が奈々の肩を叩く。
愛がようやく状況を察したのか、顔を赤くして俯いた。
「あ…あの…そういうことですか」
「違うから!」
美穂が全力で否定する。
(もうダメだ。恥ずかしすぎる。でも美穂が俺の名前を呼んでくれたことは本当なんだ。それだけは事実なんだ)
三人の笑い声が廃墟の街に響く。一瞬だけ日常が戻ったような錯覚。
でも現実は残酷だ。この先には強いモンスターが待っている。ゲームマスターがどんどん強くなると言ったからな。
ポヨン。
ポヨン。
俺は今日も美穂の肩で跳ねている。富士山への道のりは長い。でもこの笑い声を守るために俺は戦う。
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