風紀委員の様子がおかしい
「この学校の風紀は乱れています!」
朝のホームルーム。
突然、教室の前から声が聞こえた。
「……その通りだ」
俺は思わず頷いた。
この一週間だけでも、
自称宇宙人。
魔法少女。
昭和の体育教師。
前世からの恋人。
これだけ頭のおかしい人間がいる。
むしろ、風紀が乱れていないほうがおかしいだろう。
「だから私は、この学校の風紀を正します!」
声の主は、風紀委員の田中だった。
きっちりと整えられた制服に、腕には「風紀委員」と書かれた腕章。
「……まともな奴だ」
俺は小さく呟いた。
久しぶりに安心できそうな人間を見つけた。
「まずは――」
田中が教室を見渡す。
そして佐々木を指差した。
「そこの男子!」
「俺?」
「そう、あなた」
「何だ?」
「その髪型は校則違反です」
「え?」
「その寝癖です」
「これは宇宙カスタムだ」
「寝癖ですよね?」
「カスタムだ」
「寝癖で、す、よ、ね?」
「……はい」
「認めたな」
田中は満足そうに頷いた。
「よし。直してきなさい」
「はい」
佐々木が素直に席を立つ。
俺は田中を見る。
「真面目なんだな」
「当然です」
「風紀委員ですから」
田中は次に高橋を見る。
「そこのあなた」
「私?」
「そのステッキは何ですか?」
「魔法のステッキ」
「校則違反です」
「なんで?」
「校内への武器の持ち込みは禁止されています」
「武器じゃないよ」
「では何ですか?」
「魔法のステッキ」
「武器ですね」
「違う!」
「では一度、私に向けて振ってください」
「いいの?」
「はい」
高橋がステッキを振る。
――ピカッ
小さな光が田中の目の前で弾けた。
「…………」
「…………」
「没収します」
「なんで!?」
「危険だからです」
「魔法少女の必需品なんだけど!」
「知りません」
田中はステッキを没収した。
高橋が俺を見る。
「助けて……」
「諦めろ」
「バディなのに助けてくれないの?」
「俺まで怒られるだろ」
「薄情者!」
「俺が悪いみたいに言うな!」
次に田中が転校生を見る。
「あなたも」
「私?」
「その制服、少し着崩していますね」
「ええ」
「前世では王女だったので」
「今世は高校生です」
「……確かに」
転校生は少し考える。
「では直してください」
「わかりました」
「素直だな」
俺が感心していると、田中は突然俺を見る。
「そしてあなた」
「俺?」
「あなたが一番問題です」
「……え?」
「この一週間、あなたは何をしていましたか?」
「何って……」
俺は周囲を見る。
宇宙人。
魔法少女。
前世の恋人。
そして昭和の体育教師。
対して俺は……
「……何もしてないけど」
「それが問題なんです」
「なんで!?」
「このクラスの、異常な状況を受け入れている」
「…………」
「あなたも十分おかしいですよ」
「いやいやいや」
俺は必死に否定する。
「俺は普通だ!」
「普通の人間は、宇宙人を見ても、魔法少女を見ても、前世の恋人を名乗る転校生を見ても、冷静にツッコミを入れたりしません」
「……」
反論できない。
田中は眼鏡を押し上げる。
「つまり」
そして、俺を指差した。
「あなたも風紀を乱す側です」
「なんでだよ!!」
その瞬間。
教室の扉が開いた。
「お前らァ!! 朝から何を騒いでいる!!」
山田先生だった。
竹刀を持っている。
田中が振り返る。
「先生」
「なんだァ!!」
「その竹刀は校則違反です」
「教師の魂だ!!」
「関係ありません」
「なんだとォ!!」
山田先生と田中が睨み合う。
高橋はステッキを返してほしそうにしている。
佐々木は寝癖を直すためにどこかへ行った。
転校生が俺を見ている。
「……あなた」
「どうした?」
「このクラス、おかしいですね」
「お前が言うな」
俺は深くため息をついた。
風紀委員。
少し過激なところはあるが、このクラス比で考えるとまともそうだ。
と、そんなことを思っていると……。
「さて」
田中が教室を見渡す。
「このクラスの風紀を乱しているものが、まだあります」
「そうなのか?」
「はい」
田中は教室の隅に置かれていた観葉植物を指差した。
「これです」
「……観葉植物?」
「はい」
「何が悪いんだ?」
「鉢が少し斜めになっています」
「…………」
「風紀が乱れています」
「風紀の問題か?」
田中は無言で鉢を直す。
そして満足そうに頷いた。
「よし」
「そこまでやるのかよ」
田中は次に黒板を見る。
「……黒板消しが右に寄っています」
「別にいいだろ」
「ダメです」
「何がダメなんだよ」
「左右対称ではありません」
「この黒板消しは風紀を乱しています」
「だから風紀関係なくない?」
「関係あります」
田中は黒板消しを定規で測り始めた。
「三センチずれています」
「測るなよ」
「許せません」
「何が!?」
田中は真剣な顔で黒板消しを中央に戻す。
「これでよし」
「……」
俺は黙って田中を見る。
「どうしました?」
「いや……」
俺は確信した。
こいつもおかしい。
しかも、かなり。
「田中」
「何ですか?」
「お前、もしかして風紀委員になる前からこんな感じだった?」
「当然です」
「まじかよ」
「家では、リモコンを斜めに置くことすら許しませんでした」
「家族も大変だっただろうな」
「父は三年前に家を出ました」
「そりゃ出るわ」
田中は真顔のまま頷く。
「ですが、私は諦めません」
「何を?」
「世界中から乱れをなくすことです」
「スケールがデカすぎるだろ」
「まずはこの学校からです」
田中は拳を握る。
「いつか、この世界から一切の乱れをなくしてみせます」
「……」
俺は思った。
宇宙人よりも。
魔法少女よりも。
こいつの方がおかしいんじゃないか?
「……風紀って何だよ」
「素晴らしいものです」
「お前が言うと怖いよ」




