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先生の様子がおかしい

「お前らァ!! 席につけェ!!」


 朝のホームルーム。

 教室に入ってきた担任の山田先生は、開口一番そう叫んだ。


「…………」


 教室が静まり返る。

 昨日までの山田先生は、こんな人ではなかった。

 むしろ声が小さくて、生徒に何かを注意するときも、

「えーっと……みんな、もう少し静かにしてくれるかな」

 くらいの人だった。


 それが今日はどうだ。

 ワイシャツの袖をまくり、腕には謎の笛。

 そして何故か竹刀を持っている。


「先生」


「なんだァ!!」


「その竹刀は何ですか?」


「教師の魂だ!!」


「昨日まで持ってませんでしたよね?」


「過去を振り返るな!!」


「急にどうしたんですか?」


「気合いが足りん!!」


「質問に答えてください」


 山田先生は黒板を勢いよく叩いた。


「いいかァ!! 最近の若者はなァ!!」


「はい」


「何かにつけてすぐに『無理』と言う!!」


「はあ……」


「そしてすぐにスマホを見る!!」


「先生も昨日、スマホ見ながら授業してましたよね」


「過去を振り返るな!!」


 先生は大きく息を吸う。


「今日からこのクラスを鍛え直す!!」


「何を?」


「精神!!」


 嫌な予感しかしない。


「俺がお前達を腐ったみかんから変えてやる!!」

「まずは全員、グラウンドへ出ろ!!」


「今、数学の授業ですけど」


「数学なんてどうでもいい!!」

「将来必要なのは、数字なんかじゃない」

「大切なのは『心』だ!」


「あんたが言っちゃだめだろ…」


 俺たちは半ば強制的にグラウンドへ連れていかれた。

 そして。


「まずはランニング十周!!」


「多くないですか?」


「そんなことはない!!」


「先生は、何周なら多いと思ってるんですか?」


「百周だ!!」


「極端すぎるだろ」


 クラスメイトたちが渋々走り始める。

 俺も走る。

 隣では佐々木が走っていた。


「なあ」


「なんだ?」


「山田先生も、宇宙人かもしれない」


「なんでだよ」


「今朝、宇宙からのメッセージが飛んできた」


「お前まだそれ言ってるのか」


「この学校には、宇宙人と魔法少女がいる」


「……うん」


「そして、宇宙軍の軍人もいるらしいんだ」


「なんでだよ」


「もしくは敵の幹部」


「どっちでもいいよ」


 そんな会話をしていると、前方から笛の音が響いた。


「お前らァ!! 喋るなァ!!」


「先生も喋りながら走ってるじゃないですか」


「俺はいいんだ!!」


「横暴だ」


 十周を終えた頃には、全員が疲れ切っていた。

 先生は満足そうに頷く。


「よし!! 次は腕立て伏せだ!!」


「まだやるんですか?」


「当然だ!!」


 そのとき。

 先生の懐から、小さな雑誌が落ちた。


「先生、何か落ちましたよ」


「ん?」


 俺が拾い上げる。

 そこには大きくタイトルが書かれていた。


『教師としての心構え 金八先生編』


「…………」


 俺は雑誌を見つめる。


「先生」


「なんだァ!!」


「これ、何ですか?」


「………」


 先生の顔が固まった。


「知らん!!」


「知ってるじゃないですか」


「知らんと言ったら知らん!!」


「じゃあ、なんでそんなに目が泳いでるんですか?」


「気合いだ!!」


「意味わかんないですよ」


「他人を責める前にまずは自分を大きくするんだ!!」


「名言で誤魔化さないでください」


 一通り問答を続けると、先生が突然上を向き始めた。


「……そうか」


「何がですか?」


「お前も成長していたんだな」


「何が?」


 先生が真剣な顔で俺を見る。


「お前は、腐ったみかんなんかじゃない」

「理不尽にも抗える、立派な生徒ってことさ」


 先生は竹刀を高々と掲げた。


「青春は有限!!」

「俺には、それを支える義務がある!!」


「……先生!」

「いいこと言った風にしても、さっきのことは無くなりませんよ」


「………」


 授業終わりのチャイムが鳴る。

 その日の数学の授業は、結局行われなかった。


 俺は確信した。

 この学校はもうダメだ。


 宇宙人。

 魔法少女。

 そして昭和の体育教師。

 俺の平穏な日常が、段々と毒されていく。


 そんなことを考えていた俺の横で、佐々木が呟いた。


「……先生も、至ったんだな」


「何にだよ」

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