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修学旅行の様子がおかしい4

 修学旅行の夜。

 俺たちは旅館の部屋に集まっていた。


「さて!」


 高橋がトランプを机の上に置く。


「ババ抜きしよう!」


「なんで?」


「修学旅行の夜といえば、トランプでしょ!」


「まあ……分からなくもないけど」


 俺はカードを受け取る。

 メンバーは俺、高橋、レイナ、佐々木、神崎の五人。


「…田中はどうしたんだ?」


「田中さんは山田先生と一緒に見回りをするそうですよ」

「校則違反した人を捕まえるって意気込んでました」


「なるほどな」


「では、始めましょう」


 レイナがカードを整える。


「負けた人は?」


 高橋が聞く。


「罰ゲームとか?」


「絶対嫌だ」


「じゃあ、普通に勝負でいいでしょう」


「それが一番だな」


 俺は手札を確認する。

 そして考える。

 修学旅行の夜にみんなでババ抜き。

 ……普通だ。


「では、高橋さんからカードを引いてください」


「分かった」


 高橋が佐々木の手札から一枚引く。


「これ!」


「……」


「……」


 高橋が固まる。


「どうした?」


「な、なんでもないよ」


「高橋」


「何?」


「……もしかして、ババ引いたか?」


「そんなことないよ!」


「いや、分かりやすすぎるだろ」


 高橋は露骨に目を逸らしている。


「本当に違うから!」


「これが宇宙の意思だ」


 佐々木が腕を組む。

 神崎が高橋を見る。


「……」


「どうしたの?」


「彼女がババを引いた確率は99%です」


「ほぼ確定だな」


「違うって!」


 高橋が必死に否定する。


「そんなことより、早く引いて」


 そう言って高橋が手札を出す。

 俺はトランプに触り、高橋の様子を観察する。


「…このカードだろ」


「えっ」


「やっぱり」


「……」


 高橋が悔しそうにカードを見つめる。


「なんで分かったの?」


「顔に出すぎ」


「そんなに?」


「うん」


「じゃあ……」


 俺は一枚を選ぶ。


「こっちだな」


 カードを引く。


「……」


 セーフ。


「よし」


「……」


 高橋が悔しそうに唇を尖らせた。


「次は絶対引かせるから」


「もう持ってるって認めてるじゃん」


 その後もゲームは続いた。

 佐々木はカードを引くたびに、


「宇宙の導きだ」

「宇宙が右を選んだ」

「今のは宇宙の意思」


 と、何でも宇宙のせいにする。


「お前、ちゃんと自分で選べよ」


「宇宙と共同作業をしているんだ」


「意味分からん」


 高橋は何度も俺を騙そうとする。


「こっちかな?」


「……」


「それともこっち?」


「……」


「……もしかしてこっちかも?」


「それだろ」


「なんで!?」


「また顔に出てる」


「嘘!」


 そして――。


「残り数枚だな」


 気がつけば、テーブルの上に置かれたカードも少なくなっていた。


「ここからが勝負だね!」


 高橋が意気込む。


「はい」


 レイナも笑う。


「じゃあ、俺から」


 俺は高橋の手札から一枚を選ぶ。


「これだ」


 カードを引く。


 …普通のカードだ。

 俺が少し安堵していると、高橋は昨日買った京都限定の魔法のステッキを取り出した。


「おい」


「大丈夫」


「何が?」


「ちょっとだけ」


「待て」


「えいっ!」


 ――ピカッ。


「おいぃぃぃ!!」


 光が俺の手札を包む。


「お前何した!?」


「…なんにも」


「そんな訳ないだろ」


 俺は手札を見る。


「……」


「どうしたんですか?」


「…ババだ」


「え?」


「ババになってる!!」


「えへへ」


「笑うな!」

「高橋、カードを入れ替えたな?」


「…そんなことないよ」


「次やったら田中と校長に報告するからな」


 俺はそう言って、神崎の方に振り返る。

 神崎が俺を見る。


「……」


「神崎?」


「左のカードがババですね?」


「なんで分かるんだよ」


 神崎が右のカードを引く。


「確率です」

「現在の手札とこれまでの選択傾向から、最もババである可能性が低いカードを選んでいます」


「ババ抜きまで分析するのか……」


「勝負ですから」


「お前、結構負けず嫌いだよな…」


「データ上、負けることは好ましくありませんので」

「そしてーー」


 神崎がカードを捨てる。


「これで上がりです」


「まじ!?」


「はい」


 続いて、佐々木がカードを引く。


「……」


「宇宙の意思を感じる」

「こっちだ」


 カードを引く。


「……」

「上がりだ」


「お前もかよ!」


「宇宙のおかげだ」


「絶対違う」


 残ったのは――


 俺。

 高橋。

 レイナ。


「あと三人ですね」


 レイナが笑う。


「ここからは実力勝負!」


「お前が言うな」


 高橋がレイナのカードを引く。


「……」


「……」


 高橋がカードを見る。


「やった!」

「上がり!」


「え?」


 俺が引くことで、高橋の手札からカードがなくなった。


「じゃあ残りは俺とレイナだけか」


「そうですね」


 レイナが微笑む。


 俺の手札は二枚。


 レイナの手札は一枚。


「……」


 俺はレイナを見る。


「どうする?」


「簡単ですよ」


「え?」


 レイナが一枚引く。

 そして。

 レイナが微笑む。


「やっぱり」

「あなたは、迷ったときにカードを右に置く癖があるんです」


「……そんな癖あったの?」


「はい。前世から変わっていません」


「また前世かよ」


 レイナはカードを捨てる。


「これで、私も上がりです」


「……」


「私の勝ちですね」


「負けた……」


 俺は手札を見る。

 そこには――ババが一枚。


「最初から分かってたの?」


「少しだけ」


「少しだけ?」


「ええ」


 レイナは嬉しそうに笑う。


「あなたのことは、前世の頃からよく見ていましたから」


「……」


「もちろん今も、ちゃんと分かりますよ」


「そっか」


 俺は苦笑する。


「参ったな」


 こうして。

 神崎はデータで勝ち。

 佐々木は宇宙の力で勝ち。

 高橋は魔法で勝ち。

 そしてレイナは――


「人を見る力で勝ち……か」


「そういうことですね」


「レイナにはこれからも勝てそうにないな」


「そんなことありませんよ」


 レイナが笑う。

 俺は、手元にあるババを見つめる。

 京都まで来て。

 夜に集まって。

 やっていることは、ただのババ抜き。

 なのに――


「……なんかいいな」


 修学旅行も、残すところあと少しだ。

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