修学旅行の様子がおかしい3
京都駅を出ると、少しだけ空気が違って感じた。
「京都だ……」
俺は目の前に広がる街並みを眺める。
「すごいですね」
レイナが隣に立つ。
「実は、前世でも来たことがあります」
「やっぱり?」
「はい。でも……」
レイナが少しだけ笑う。
「前の京都とは、全然違って見えます」
「そう考えると、ちょっと不思議だな」
「はい」
そのとき、高橋が俺の腕を引っ張った。
「ねえ!」
「何?」
「早く行こう!」
「そんなに急がなくてもいいだろ」
「時間は有限なんだから!」
「急に正論だな」
「まずは清水寺!」
「定番だな」
「修学旅行なんだから当然でしょ」
高橋が先に歩き出す。
「ほら!」
「分かった分かった」
俺たちは、京都の街を歩き始めた。
――とはいっても。
「……」
少し離れた場所に、見覚えのある二人がいる。
田中と佐々木だ。
「佐々木さん」
田中が話しかける。
「何をしているんですか?」
「宇宙人を探している」
「修学旅行中ですよ」
「だからこそだ」
「君の方こそ何してるんだ?」
田中が深いため息をつく。
「あなたを一人にすると何をするか分からないので、監視しています」
「俺は何もしないぞ」
「前、宇宙人を探すために体育館の床を剥がそうとしましたよね?」
「宇宙船の入口かもしれないからな」
「結果、ただの床でしたけどね」
「可能性はゼロじゃないだろ」
「……」
俺は二人を見て呟く。
「何してんだ、あいつら」
「放っておきましょう」
「そうだな」
俺たちはそのまま歩いていった。
◇◇◇
最初に訪れたのは清水寺。
「おお……」
俺は舞台から京都の街を見渡す。
「綺麗ですね」
レイナが隣に立つ。
「写真撮ろうよ!」
高橋がスマホを取り出す。
「三人で?」
「もちろん!」
「……俺も?」
「うん!」
高橋がスマホを構える。
「はい、チーズ!」
カシャッ。
「見せてくれ」
「いいよ」
俺は画面を覗き込む。
「……」
「どう?」
「俺、変な顔してない?」
「いつも通り」
「それ褒めてる?」
レイナが写真を見る。
「いい写真ですね」
「レイナ、ちょっとこっち」
「はい?」
高橋がレイナの隣に立つ。
「二人でも撮ろう!」
「いいですね」
「………」
「何?」
「いや、仲良くなったなと思って」
二人が顔を見合わせる。
「ライバルだから」
「ええ、そうですね」
「そこで意気投合するのかよ」
◇◇◇
「次はここ!」
そうして高橋が案内した場所は――。
「神社?」
「うん!」
俺たちは京都の街を歩き、少し変わった神社へやってきた。
「へえ……」
境内では、普通の神社とは少し違った雰囲気を感じる。
「ここ、縁結びで有名なんだって」
高橋が説明する。
「縁結び?」
「そう!」
レイナがパンフレットを見る。
「縁を結ぶだけじゃなくて、悪い縁を切ることでも有名みたいです」
「悪い縁を切る?」
「はい」
境内には、大きな石のようなものがある。
「この穴をくぐることで、悪い縁を切って、そのあと良い縁を結ぶんだそうです」
「へえ……」
俺はその説明を聞きながら、高橋とレイナを見る。
「……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
「……ふーん」
「なんだよ、その反応」
高橋が先に口を開いた。
「じゃあ、私は良い縁を結ぶ!」
「誰と?」
「……」
高橋が俺を見る。
「……言わない」
「なんでだよ」
レイナが小さく笑う。
「私も、良い縁を大切にしたいですね」
「レイナまで……」
「前世から続いている縁ですから」
「……」
俺は少しだけ黙る。
「それって……」
「はい?」
「俺とレイナのこと、だよな?」
「そうですよ」
レイナは当たり前のように答える。
「……そうか」
なんとなく照れくさくなって、俺は視線を逸らす。
すると、高橋が不満そうな顔をする。
「何か、良い雰囲気」
「そんなことないだろ」
「そんなことある!」
「データ的に考えて、そんなことありますね」
神崎が会話に入る。
「……神崎、なんでいるんだ?」
「修学旅行ですから」
「いや、そういうことじゃなくて…」
◇◇◇
そんなこんなで、俺はお札に願いごとを書き、石に貼り付ける。
そして、俺はそこを通ったのだった。
「願いごと、なんて書いたの?」
「…………」
「ねえ」
「……秘密」
「秘密!?」
「そんなこと言わずに教えてよ!」
「絶っ対教えない!」
◇◇◇
神社を出たあと。
「ねえ!」
高橋が突然、立ち止まった。
「どうした?」
「……あれ」
高橋の視線の先。
そこには、京都のお土産を売る店があった。
その店先に――
「魔法のステッキ……」
キラキラした装飾が施された子供向けのおもちゃが並んでいた。
「……」
高橋の目が輝く。
「高橋?」
「……」
「おい」
「……欲しい」
「やっぱり」
高橋はステッキをじっと見つめている。
「これ、京都限定だって」
「そういうの好きなの?」
「当然でしょ!」
「即答かよ」
高橋がステッキを手に取る。
「見て!」
「恥ずかしいから振り回すなよ」
「分かってるって!」
高橋がステッキを構える。
「変身――」
「するな」
「まだ何もしてない!」
「今のは絶対するつもりだっただろ」
レイナもステッキを見る。
「可愛いですね」
「レイナもそう思う?」
「ええ」
「じゃあ買おっかな」
高橋はステッキを抱える。
「これ、お土産にしよう」
「学校に持っていくなよ」
「……」
「なんで黙る?」
「持っていきたい」
「駄目」
「一回だけ!」
「駄目」
「校長先生に許可を――」
「絶対駄目」
高橋がしょんぼりする。
「……分かった」
「本当に?」
「うん」
「ならいいけど」
俺は安心する。
しかし。
「ちなみに」
高橋が店員に尋ねる。
「これ、本当に魔法が使えますか?」
「使えませんよ」
「……」
高橋が真顔になる。
「そうですか……」
「何でそんなに残念そうなんだよ」
「ちょっと期待したのに」
「お前、本物の魔法使えるだろ」
「それとこれとは別!」
「別なのか……」
レイナが笑う。
「高橋さん、買わないんですか?」
「買う!」
「結局買うのかよ」
高橋はステッキを抱えたまま、満面の笑みを浮かべた。
「京都のお土産、これに決めた!」
こうして高橋は、京都限定の魔法のステッキを手に入れた。
――しかし、このときの俺は知らなかった。
このステッキが後のあんな出来事に関係することになることを。




