体育祭の様子がおかしい4
次の競技は、二人三脚。
体育祭最後の競技だ。
「……」
俺は観客席を見る。
玉入れでは高橋が魔法を使った。
障害物競走では山田先生が乱入した。
綱引きでは神崎が壊れた。
だが。
「二人三脚なら、流石に普通に終わるだろ」
そう思っていた。
「ねえ」
高橋が俺のところへやってくる。
「二人三脚、一緒に出ましょう」
「俺と?」
「うん」
高橋は当然のように頷いた。
「バディだから」
「それ、まだ使うのかよ」
「もちろん」
「俺は認めてないけどな」
「関係ない」
すると。
「待ってください」
転校生が近づいてきた。
「彼と組むのは私です」
「……」
高橋と転校生が向かい合う。
「どうして?」
「前世で、二人三脚をした私の方が相応しいからです」
「何のために二人三脚したんだ?」
「王国の行事です」
「便利だなその設定……」
転校生は俺を見る。
「だから私は、今回もあなたと一緒に走りたいんです」
「……」
高橋が俺を見る。
「私も」
「……」
俺は二人を見る。
「いや、俺一人しかいないんだけど」
「はい」
「だから選んで」
どうやら二人とも、譲る気はないらしい。
「私には前世からの約束があります」
「私は今世のバディよ」
そう言って、二人が俺を見つめる。
どうしよう。
俺がそう思っていると、後ろから佐々木がやってきた。
「なるほど」
「これは、宇宙でよくある状況だ」
彼は真剣な面持ちで言う。
「…宇宙ではどうするんだ?」
佐々木は腕を組む。
「宇宙には、じゃんけんという神聖な儀式がある」
「……」
「これに勝った者が権利を得る」
「じゃんけんが神聖な儀式?」
「ああ」
佐々木は真剣な顔で頷く。
「宇宙では、重要なことを決めるときに使われる」
「へえ」
「ちなみに、最初に『グー』を出すという文化も宇宙人が地球に伝えた」
「それ開発したの志村さんな」
「…………」
「…………」
佐々木が固まる。
「……誰だ?」
「なんで知らないんだよ」
「地球の文化は複雑だな」
「お前に常識がないだけだ」
高橋が手を挙げる。
「じゃあ、じゃんけんで決めよう」
「いいですね」
転校生も頷いた。
「ちょっと待て」
「何?」
「俺の意思は?」
「ならどっちがいいか決められるの?」
「……じゃんけんでお願いします」
そんなやり取りがあり、高橋と転校生が向かい合う。
「じゃんけん……」
「ぽん!」
高橋――グー。
転校生――パー。
「……」
「……」
「私の勝ちですね」
転校生が小さく笑った。
「嘘……」
高橋が固まる。
「じゃあ、私が彼と組みます」
「……」
高橋が悔しそうに俺を見る。
「……バディなのに」
「いや、じゃんけんだから仕方ないだろ」
「覚えておいて」
「何を?」
「次は勝つから」
「何の話だよ」
転校生が俺の隣に立つ。
「それでは、よろしくお願いします」
「うん」
足を紐で結ぶ。
「きつくないか?」
「大丈夫ですよ」
「それに、最後は私たちが勝つんですから」
「そんなに自信あるのか?」
「はい」
転校生が微笑む。
「前世でも、私たちは息がぴったりでしたから」
「でも前世の記憶、俺にはないぞ」
「なら、今から思い出してもらいます」
「どうやって?」
「走れば分かります」
「なるほど?」
「はい」
スタートラインに並ぶ。
「位置についてください!」
放送委員の声が響く。
俺は隣にいる彼女を見る。
「……そういえば」
「何ですか?」
「俺、君の名前知らないんだよな」
「……」
彼女が少し驚いた顔をする。
「確かに、今までずっと『転校生』って呼んでましたからね」
「悪かった」
「いえ」
彼女は小さく笑う。
「では、今から覚えてください」
彼女が俺を見る。
「レイナです」
「……レイナ」
「はい」
「なんか……今さら名前を知るのも変な感じだな」
「私もです」
彼女は少しだけ笑った。
「でも……」
「ん?」
「あなたに名前を呼んでもらえるのは、嬉しいです」
「……そうか」
俺は少しだけ照れながら、
「じゃあ……レイナ」
「はい」
「勝つぞ」
「もちろんです」
「――位置について」
「よーい!」
「スタート!!」
「せーの!」
一、二。
一、二。
「……」
「……」
「なんか、普通に走れるな」
「でしょう?」
転校生が笑う。
「前世でも、たくさん練習したんです」
「そうなのか?」
「はい」
「最初はあなたが私を気遣って、歩幅を合わせてくれたんです」
「俺が?」
「ええ」
「でも途中から、私の方もあなたに合わせられるようになったんです」
「そうなのか」
「はい」
「だから、もっと行けます」
ペースが上がる。
しかし、俺たちの歩調は自然と合っていた。
「せーの」
「せーの」
一、二。
一、二。
不思議なくらい噛み合う。
「すごい……」
「あの二人、息ぴったりじゃん……」
観客席から声が聞こえた。
俺たちはそのまま走る。
「もっと行けます」
「分かった」
「せーの!」
「一、二、一、二」
速度を上げる。
それでも、俺たちの足は乱れない。
「前世の私たちも、こうやって走ったんです」
「……」
「たくさん走って、たくさん転んで」
「転んだの?」
「二人で四十回ほど」
「でも最後は、一緒にゴールできました」
「……なら今回も?」
「もちろん」
俺たちは最後の直線に入る。
「せーの!」
「一、二」
そして――
「ゴール!!」
歓声が上がった。
「一着!」
「……勝った」
俺は息を切らしながらレイナを見る。
彼女も嬉しそうに笑っていた。
「やっぱり私たちは、今世でも息がぴったりですね」
「……そうかもな」
少しだけ、前世というものを信じてみてもいい気がした。
すると、高橋がこちらへ走ってくる。
「二人とも、おめでとう」
「高橋……」
「……」
高橋が少し寂しそうな表情を見せた後、笑顔を見せる。
そして、レイナを見て言う。
「絶対、次は負けないから」
そして、俺を見る。
「……来年は、じゃんけん勝つから」
「来年も二人三脚やるのか?」
「もちろん」
転校生も笑う。
「私も負けません」
後ろで佐々木が頷く。
「これが地球の文化か」
「絶対違う」
そして俺は思った。
体育祭最後の競技。
色々あったけど――
「……まあ、少しは楽しめたな」
そう呟いた瞬間。
「お前らァ!!」
山田先生の声が響く。
「体育祭はまだ終わってないぞォ!!」
「え?」
「教師対生徒の最終リレーだァ!!」
「そんなの聞いてない!!」
校長が手を挙げる。
「今、追加した!」
「またかよ!!」
俺は空を見上げた。
……やっぱり。
この学校で『普通に終わる』訳がないよな。
こうして、俺たちの体育祭は幕を閉じたのだった。




