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体育祭の様子がおかしい3

 次の競技は綱引き。


「……」


 俺は綱を見つめる。

 ここまでの体育祭は酷かった。

 玉入れでは高橋が魔法を使い、障害物競走では山田先生が乱入し、校長が勝手にルールを変更した。

 だが。


「綱引きなら、流石に大丈夫だろ」


「そうですね」


 神崎も頷く。


「綱引きは純粋な筋力と人数の勝負です」


「珍しく普通のこと言ったな」


「はい」


 神崎はタブレットを見る。


「過去のデータから、勝率を算出できます」


「やっぱりやるのか」


「当然です」


 神崎は画面を操作する。


「相手クラスの平均体重、身長、過去の体育の記録、これまでの競技結果から――」


「そこまで調べたの?」


「勝つためには必要です」


「体育祭って、そんなに本気で分析するものか?」


「勝負ですから」


 神崎が真剣な顔で画面を見つめる。


「……出ました」


「どうだった?」


「勝率は――」

「……48%です」


「微妙だな」


「そうですね」

「ですがこのデータがあれば、十分に勝機はあります」


「なら頑張ろう」


「はい」


 俺たちは綱の前に並んだ。


「位置について!」


 両チームが綱を握る。


「よーい!」


 パンッ!


「うおおおおお!!」


 全員が一斉に綱を引く。


「負けるなァ!!」


 山田先生が叫ぶ。

 俺たちは全力で綱を引く。

 その横で神崎が指示を出していた。


「右側の三人、もう少し後ろに!」


「分かった!」


「左から二番目、足を――」


 神崎の指示に合わせ、俺たちは必死に綱を引く。


「いけます!」


「現在勝率60%」

「65、70、85…」

「90…」


「勝てます」


「おお!」


 神崎が初めて笑顔を見せる。

 しかし、その瞬間。


 ズルッ。


「うわっ!」


 綱が大きく動いた。


「まずい!」


「引けええええ!!」


 相手全員が力を込める。

 そして。


 ズルズルズルズル……。


「うわああああ!!」


 そのまま一気に引っ張られ――


 ドサッ!


 俺たちは地面に倒れ込んだ。


「……」


「……」


「……負けた」


 結果は、敗北だった。


「まあ、仕方ないな」


 俺は立ち上がる。

 神崎が動かない。


「……」


「神崎?」


「……おかしい」


「何が?」


 神崎はゆっくりとタブレットを見る。


「試合の最中、私たちのクラスは勝率90%を超えていました」


「うん」

「惜しかったな」


「負ける可能性は、ほとんどなかった」


「まあ、そうだな」


「なのに負けた」


「そりゃ負けることもあるだろ」


「……」


 神崎が画面を操作する。


「再計算します」


「もういいだろ」


「いえ」


 神崎は真剣だった。


「データが…ありません」


「?」


「この結果を説明できるデータが…ありません」


「いや、普通に相手の方が強かったんだろ」


「違います」


「何が?」


「それなら、筋力差、体重差、人数差などのデータに現れるはずです」


 神崎の指が震え始める。


「ですが……」


 画面を何度も操作する。


「ない」


「……」

「データが……ない」


「神崎?」


「ない」


 神崎が顔を上げる。


「データがない!!」


「落ち着け!」


「どうして!?」


「いや、綱引きが全部データで決まる訳じゃ――」


「あるはずです!!」


「ないって!」


「そんなはずがない!」


 神崎がタブレットを激しく操作する。


「身長!」

「体重!」

「握力!」

「筋力!」

「過去の記録!」

「全部あります!」


「じゃあいいだろ!」


「よくありません!!」


「何で!」


「敗因のデータが!!」

「無いんです!!」


「敗因なんて、相手の方が強かったってだけだろ!」


「それでは説明にならない!!」


 神崎が頭を抱える。


「データがない……」


「神崎?」


「データがない……」


「おい」


「データが……」

「ない!!」


 神崎が叫んだ。


「うわあああああああ!!」


「!?」


 突然、神崎がその場を走り回り始めた。


「分からない!!」


「ちょっと!?」


「何故負けた!?」


「落ち着けって!」


「説明できない!!」


「綱引きにそこまで求めるな!!」


 神崎は頭を抱えながら叫ぶ。


「世界が……!」


「世界?」


「私の知っている世界が崩れていく!!」


「大げさすぎるだろ!」


 高橋が心配そうに近づく。


「神崎君、大丈夫?」


「大丈夫ではありません!」


「え?」


「データがないんです!」


「うん……」


「何も分からない!」


「……」


「こんなの……」


 神崎は震える手でタブレットを見つめる。


「こんなのデータにない!!」


「ついに言ったな……」


 俺は思わず呟いた。

 今まで何でもデータで説明してきた神崎。

 そんな神崎にとって――

 説明できないことが、なによりも恐ろしいものだったらしい。


「神崎」


「……」


「たぶん、それが普通なんだよ」


「普通?」


「何でも数字で分かるわけじゃない」


「……」


「体育祭なんだから、負けることもあるだろ」


「……」


 神崎はしばらく黙っていた。


 そして。


「……理解できません」


「まだ言うのかよ」


「ですが」


 神崎はタブレットを抱きしめる。


「この未知を解明する必要があります」


「もう綱引き終わったぞ」


「来年までに、必ずこれを解明します」


「来年もやる気なのか……」


 神崎は真剣な顔で頷いた。


「はい」


「……」


 俺は思った。

 やっぱり、こいつもまともじゃない。

 なんなら、他の奴らと違って――


「ちょっと怖いんだよな……」


「何か言いました?」


「何でもない」


 その後、神崎はずっと綱引きの敗因を分析していた。


 そして俺たちのクラスは――


「現在の総合順位は……」

「最下位です」


「……知ってた」


 俺は空を見上げた。


「せめて最後くらい、普通に終わってくれ……」


 次は、最終競技の二人三脚。

 体育祭を良い思い出にするために、俺は気合いを入れていた。

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