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体育祭の様子がおかしい2

 体育祭が始まった。

 ……はずだった。


「まずは第一種目!」


 放送委員の声が校庭に響く。


「玉入れです!」


「よし」


 俺は頷いた。

 玉入れなら大丈夫だ。

 走る必要もない。

 魔法少女も、宇宙人も関係ない。

 風紀も問題ない。

 これなら普通の体育祭になる。


「それでは、各クラスの代表者は――」


「俺が出る!!」


「……」


 山田先生が手を挙げた。


「先生、玉入れは生徒の競技ですよ」


「教師にも玉を入れる権利はある!!」


「ありません」


 田中が即答した。


「校則には『生徒が競技に参加すること』とあります」

「先生は生徒ではありません」


「…………」


 山田先生が固まる。


「ならば!」


「何ですか?」


「俺は応援する!!」


「それなら問題ありません」


「よし!!」


 山田先生は両手を広げた。


「お前らァ!! 絶対に勝てェ!!」


「声が大きいです」


「応援だからいいだろォ!!」


「応援中の私語は禁止です」


「応援を私語扱いするなァ!!」


 開始前から揉めている。


「位置について!」


 ようやく競技が始まった。


「それっ!」


「入った!」


「もう一回!」


 俺たちは必死に玉を投げる。

 普通だ。

 今度こそ普通だ。


「……」


 俺は隣を見る。

 神崎がタブレットを見ていた。


「何してるんだ?」


「玉の軌道を分析しています」


「玉入れまでデータで攻略するのかよ」


「現在、最適な投球角度は43.7度」


「細かすぎるだろ」


「この角度なら成功率は――」


「神崎!」


「はい?」


「玉入れだぞ」


「だからこそです」


 神崎は真顔で玉を投げる。


 ――スポッ。


「入りました」


「……」


「成功率94.2%」

「当然の結果です」


「本当に入れるのかよ」


 神崎が次の玉を拾う。


「次は――」


「待て」


 俺は神崎の肩を掴む。


「普通にやろう」


「合理的ではありません」


「体育祭に合理性を求めるな」


「なぜです?」


「体育祭だからだよ」


「理解できません」


 そのとき。


「私も負けない!」


 高橋が玉を持つ。


「えい!」


 ――ヒュン!


「……」


 玉がものすごい勢いで飛んでいく。


 そして。

 カゴを遥かに越えて、校舎の壁に少しめり込んだ。


「………」


「………高橋」


「はい」


「魔法使っただろ」


「使ってないよ?」


「じゃあ何であんな速度が出たんだよ」


「気合い!」


「山田先生と同じこと言うな」


 山田先生が遠くから叫ぶ。


「お前ら気合いだァ!!」


「先生は黙っててください!」


 すると高橋がもう一度玉を構える。


「今度こそ!」


「待て待て」


「大丈夫!」


「絶対大丈夫じゃない」


 高橋が投げる。


 ――ピカッ!


「魔法使ってるじゃん!!」


 高橋の投げた玉は、光を纏いながら飛んでいく。

 それはかごを超え、教室の窓に――。


 バリンッ


「…………」


「…………」


 田中が駆け寄る。


「高橋さん」


「はい……」


「今後、魔法の使用は禁止です」


「…………」


「返事は?」


「……はい」


 その横で、校長が頷く。


「実に素晴らしい風紀意識だ!」


「校長も止めてくださいよ!」


「もちろんだ!」


 校長は胸を張る。


「では罰として――」

「グラウンド100周!」


「はい!!」


 体育祭開始から十分。

 もうすでにぐちゃぐちゃだった。


◇◇◇


 次の競技は障害物競走。

 出場者は俺だ。


「……いや、なんで俺なんだよ」


「一番マシな選択肢だからです」


 神崎が答える。


「マシ?」


「はい」


「それ、褒めてる?」


「データ上では肯定的な意味です」


「ならいいか」


 スタートラインに並ぶ。

 隣には佐々木。


「俺が宇宙人として一番になる」


「はいはい」


「この星の重力にはまだ慣れていないが――」


「普通に走れよ」


 反対側には高橋。


「私も頑張る!」


「魔法は禁止だからな」


「分かってるって」


「本当か?」

「不安しかないんだが…」


 そして。


「位置について!」


 パンッ


 ピストルが鳴った。

 全員が走り出す。


「うおおおお!」


 佐々木が飛び出す。


「速っ!」


「宇宙人だからな!」


「関係ないだろ!」


 俺も走る。

 最初の障害は――網くぐり。


「うわ、これ苦手なんだよな……」


 俺がしゃがもうとした瞬間。


「前方、右側に空間があります」


「え?」


 神崎の声がする。

 それも、実況席の方から。


「右側から入れば、平均2.3秒短縮できます」


「いや、なんでお前が実況してるんだよ!」

「助かるけど!」


 俺は神崎の指示通りに進む。


「次、平均台です」


「うわっ!」


 バランスを崩しそうになる。


「重心を左へ」

「背筋を伸ばして腕を広げてください」


「こうか!」


 神崎の協力もあり、なんとか渡り切る。

 そして最後の障害。


 ――パン食い競争。


「……」


 目の前にパンが吊るされている。


「…よし」


 俺は飛び上がる。


「……取れた!」


 その瞬間。


「お前らァ!!」


 山田先生の声が響いた。


「そんなんじゃダメだ!!」

「もっと高く跳べェ!!」


「先生、普通に応援してください!」


「ああ!!じれったい!!」

「俺が見本を見せてやる!!」


「え?」


 山田先生が突然走ってくる。


「先生!?」


「うおおおおお!!」


 山田先生が跳ぶ。


 ――バッ!


 パンを取る。

 そして、着地。


「どうだァ!!」


「……」


 観客席から拍手が起こる。


「すげえ……」


 生徒から歓声が起こる。


「過去最高記録です」


「…普通に凄いな」


 山田先生は走り出す。


「まだまだ若い者には負けん!!」


 そして、そのままゴールに向かい。


 パンッ


 一着でゴールしたのだった。

 観客から歓声が起こる。

 その後、俺含め他クラスの人たちも次々とゴールした。


「では、結果発表」


「一着は、山田先――」


「ちょっと待ったー!!」


 田中が叫ぶ。


「教師が体育祭に乗り込んでゴールするのは、立派な校則違反です」

「今すぐ同行してください」


「何だとォ!!」


 そう言って田中と山田先生が向かい合う。

 俺は、パンをくわえたまま立ち尽くした。


「……これ、体育祭だよな?」


 そう呟くと、校長が口を開く。


「いいや、校則は今、ワシが変えた」

「よって一位は、山田先生じゃー!」


 観客から歓声が起こる。

 山田先生は、何故か涙を流していた。

 しばらくして。


「次の競技は綱引きです!」


 次の競技を伝える放送が響いた。

 俺はため息をつく。


「……頼むから、綱引きくらい普通にやってくれ」


 俺はもう、祈ることしかできなかった。

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