データキャラの様子がおかしい
校長が学校に現れてから数日。
俺はすでに、新しい異常者が現れないことを祈っていた。
……まあ、無理だろうけど。
「お前らァ!! 席につけェ!!」
「先生、今日は何の授業をするんですか?」
「数学だ!!」
「珍しく普通ですね」
「数学は人生に必要だからな!!」
「三話のとき、真逆のこと言ってませんでしたっけ?」
「忘れた!!」
山田先生が黒板に問題を書いていく。
そのとき。
「先生」
後ろの席から声がした。
「なんだァ!!」
「その解き方、非効率的です」
「……何?」
俺は振り返る。
そこにいたのは、クラスメイトの一人。
眼鏡をかけ、ノートには大量の数字が並んでいる。
「どういう意味だ?」
「その方法では、問題を解くのに平均47秒かかります」
「47秒だァ?」
「はい」
「俺の授業ではなァ!!」
山田先生が拳を握る。
「速さよりも心だ!!」
「根拠は?」
「無い!!」
「論理的思考を欠いてますね」
「…………」
教室が静かになる。
山田先生がゆっくりと口を開く。
「お前……名前は?」
「神崎です」
「そうか…神崎」
「はい」
「気に入ったァ!!」
「何で!?」
俺が思わず叫ぶ。
「俺はなァ!!」
山田先生が黒板を叩く。
「お前のような不良生徒を変えるのが仕事なんだ!!」
「そもそも、数字だけでは人間は測れない!!」
「その考え、非効率です」
「なんだとォ!!」
「人間の行動にも傾向があります」
神崎はノートを開く。
「例えば先生」
「なんだァ!!」
「先生は怒鳴るとき、平均して三回拳を握ります」
「……」
「現在二回目」
山田先生の拳が止まった。
「そして三回目」
ギュッ。
「…………」
「ほら」
「お前ェ!!」
「傾向通りです」
俺は頭を抱えた。
新しいタイプだ。
今までの変人とは違う。
こいつは――
「何でもデータで考えるタイプか…」
「その通りです」
「聞こえてたの?」
「あなたの声量は平均的な教室内会話より30%大きいので」
「そこまで測るなよ!」
神崎は俺を見る。
「ちなみに、あなたはこの一週間で『なんでだよ』という言葉を37回使用しています」
「数えてたの!?」
「はい」
「何のために!?」
「興味深いデータだったので」
俺は絶句した。
すると神崎が立ち上がる。
「では、質問です」
「何?」
「あなたは、この学校の異常な人物たちを見て、なぜ逃げないのですか?」
「……」
「合理的に考えれば、距離を取るべきです」
「それは……」
俺は教室を見渡す。
佐々木。
「俺は宇宙人だ」
高橋。
「私は魔法少女!」
転校生。
「前世から愛しています」
田中。
「その机、3センチずれていますよ」
校長。
「新しい校則を作るのだ!」
山田先生。
「グラウンド100周だァ!!」
「……」
俺はため息をついた。
「もう慣れたんだよ」
「慣れ?」
「最初はおかしいと思ってたけど……」
俺は少し考える。
「最近は、こいつらのことを受け入れられるようになったんだ」
「…………」
神崎は黙ってノートに何かを書き込む。
「何してるんだ?」
「記録しています」
「何を?」
「『人間は異常な環境に一定期間置かれると、それを日常として認識する可能性がある、と』」
「研究するな」
すると、佐々木が手を挙げた。
「神崎」
「何?」
「俺が宇宙人である可能性は何%だ?」
「0.0000001%です」
「低いな」
「当然です」
「じゃあ俺が宇宙人じゃない証拠は?」
「ありません」
「それは悪魔の証明です」
「じゃあ俺は宇宙人だな」
「論理が飛躍しています」
高橋も手を挙げる。
「私が魔法少女である可能性は?」
「実際に魔法を確認しているので99.8%です」
「やった!」
「ところで残り0.2%は?」
「説明できない現象を魔法と定義しているだけの可能性です」
「細かいな」
転校生も聞く。
「私が前世で彼の恋人だった可能性は?」
神崎が俺を見る。
そして転校生を見る。
「データにないです」
「そう……」
「ですが」
神崎は続ける。
「二人の会話を見る限り、彼があなたに好意を持っている可能性は88%」
「…………!」
転校生が嬉しそうな表情をする。
「高いですね」
「待て待て待て」
俺は立ち上がる。
そして、高橋も立ち上がる。
「じゃあこいつが私を好きな可能性は?」
「高いです」
「何%?」
「90%」
「ちょっと待って!!」
高橋の顔が真っ赤になる。
転校生が悲しそうな顔で俺を見つめる。
「違うから!」
「データ上では――」
「だから違う!!」
教室が騒がしくなる。
そのとき。
「静かにしろォ!!」
山田先生が叫ぶ。
「授業中だぞ!!」
「先生」
神崎が手を挙げる。
「なんだァ!!」
「先生が授業中に怒鳴る確率は100%です」
「…………」
「本日も記録を更新しました」
「お前ェ!!」
山田先生が神崎を追いかけ始める。
「待てコラァ!!」
「予測済みです」
「逃げるなァ!!」
「ちなみにこのままでは約8秒後に追いつかれます」
「何の実況だよ……」
俺は二人を見ながら思った。
……やっぱりこいつもおかしい。
しかも今回は、今までとは違う。
宇宙人でも。
魔法少女でも。
前世の恋人でも。
風紀委員でも。
校長でもない。
「データで全部説明しようとする奴か……」
神崎が振り返る。
「その認識で合っています」
「聞こえてたのかよ」
「あなたの独り言は96%、私に聞こえています」
「分析するな!!」
そして神崎は、真顔で一言。
「ただ……」
「ん?」
「この学校の出来事については、私のデータベースに存在しないものが多すぎます」
「……」
「宇宙人、魔法、前世、校則を毎日増やす校長……」
神谷はノートを閉じた。
「こんなのデータにない!」
「お前が言うと、なんかすごいな……」
こうしてまた一人。
俺たちのクラスに、頭のおかしい奴が増えたのだった。




