校長の様子がおかしい
文化祭が終わって数日。
俺たちはいつものように教室で授業を受けていた。
「では、次の問題を――」
山田先生が黒板に文字を書いている。
そのとき。
――ガラッ。
教室の扉が開いた。
「諸君!」
「……」
入ってきたのは、見知らぬ老人だった。
白髪。
スーツ。
そして妙に自信満々な表情。
「誰ですか?」
「校長だ!」
「……え?」
教室が静まり返る。
校長先生なんて、入学式以来ほとんど見たことがない。
「今日から、この学校をより良い場所に変えていく!」
「急ですね」
校長は黒板の前に立つ。
「まず第一に!」
チョークを握る。
「校則を変更する!」
「……」
田中が立ち上がった。
「校長先生」
「なんだね?」
「どのように変更するのですか?」
「学校の風紀を守るため、校則を大幅に増やすのだ!」
「校長、それは……」
「素晴らしいです!」
田中が目を輝かせる。
…すでに嫌な予感がする。
「それでは、どんな校則を追加するのでしょうか?」
「まずはこれだ」
校長は黒板に大きく書いた。
『新校則』
「まず第一条!」
田中が身を乗り出す。
「はい!」
「廊下は走らない!」
「まあ普通だな…」
「第二条!」
「はい!」
「校長の命令は絶対!」
「…………」
「終わった…」
思わず呟いてしまった。
「何を言う!」
校長が俺を見る。
「これは本校の風紀を維持するための大切な校則だ!」
「意味が分からないですよ!」
「第三条!」
「まだあるんですか!?」
「新しい校則が破られた場合、グラウンド100周!」
「な!」
「……なんて素晴らしいんだ!」
山田先生が感激する。
そして田中はメモを取り始める。
「素晴らしい……」
「お前らは何に感動してるんだよ」
校長は満足そうに頷いた。
「これで安全な学校生活が送れる!」
「どのへんが?」
田中が真剣な顔に戻る。
「校長先生」
「なんだね?」
「私も新しい校則を提案してよろしいでしょうか?」
「もちろんだ!」
田中は黒板の隅に文字を書く。
『第四条 授業終わりに必ず大掃除すること』
「いいだろう!」
「ありがとうございます!」
「待て待て待て」
俺は二人を見る。
「お前ら、意気投合するな」
「学校の風紀を守るためです」
「学校をより良くするためだ!」
「方向性が同じなのが一番怖いんだよ!」
こいつら、相性最悪だ。
そのとき、校長が俺を見る。
「じゃあ君はどんな校則にしたいんだ?」
「何か意見はあるのかね?」
「あります」
「なら言ってみなさい」
「校則を増やしすぎないでください」
「却下だ!」
「即答!?」
校長は胸を張る。
「学校とは、生徒を導く場所!」
「はあ……」
「だからこそ、私は新しい校則を作り続ける!」
「なぜ?」
「生徒が成長するたびに、新しい校則が必要だからだ!」
「校則ってアップデート方式なの!?」
すると田中が深く頷く。
「確かに……」
「お前も納得するな!」
「俺は走れるならなんでもいいぞ」
「お前は黙ってろ!」
校長は満足そうに教室を見渡した。
「よし!」
「何ですか?」
「明日から、さらに新しい校則を追加する!」
「まだ増やすんですか!?」
「もちろん!」
校長は笑顔で言った。
「学校を、もっと素晴らしい場所にするために!」
俺は頭を抱えた。
どうやらこの学校には、
宇宙人。
魔法少女。
前世の恋人。
風紀委員。
昭和の体育教師。
そして――
気軽に校則を増やす校長まで現れたらしい。
「……まともな奴はいないのか」
「いるぞ!」
山田先生が手を挙げる。
「俺だ!」
「本当に黙っててください」
「なんだとォ!!」
こんな感じで今日も、この学校は平和だった。




