【38】竜の孫
――――夜の色街・シンジュの高級妓楼
俺とアーサーはシンジュとカヤハンが笑いをこらえる中、麗人の前で正座させられていた。
「ひどいとは思わぬか?着替えが尻に穴を開けたズボンとは……どこの誰の入れ知恵かのう……」
「……俺は何にも知らない」
「嘘を言え!」
「ひぃっ!?」
「……ロシェがビビるところを初めて見たな」
「バカ!それからお前、例のものをっ!」
そう急かせばアーサーが着替えの入った包みを差し出す。その中身を確認した麗人は満足いったように頷いた。ここいらで手に入るとしたら王族や高位貴族しかいない。今回はアーサーからいくつか引っ張り出してきてもらったものだ。
「まあよい。これでよしとしよう。それで?城では騒ぎがあったようだな」
「その様子だと全部知ってない?」
「シンジュの情報網はピカイチだからのう……。しかし、デゼルトの王族がな」
「洗脳や魅了のことも知っていたのか?」
「まさかそれが今も生きているとはおもわなんだ。あの王家は竜の姿を失ってしまった。さらには妾と同じ目も持たん」
それは紫の見覚えのある目であるが、目の前の麗人には角も尾もある。
「まさかデゼルトから嫁に来たあの姫まで毒牙にかかっておったとは。慌ててカヤハンの目を確かめたが……そこには妾の力の片鱗はない」
「ならどうしてアスマは……」
「突然変異、もしくは先祖返り。その竜の子と同じ」
「私のことですね。しかしそれを言えばロシェも……」
「それは単に母子3代受け継いだと言うのみ。姿は人間だが、まさか解く方の力とは。お前たちがその性質を抱くからかのう」
俺も母さんも医療に携わっているからこそ、操るものの力が変化した。
「だが今後デゼルト王家はどうなる」
アスマの事件の後、デゼルトでは大規模なクーデターが勃発した。
ヤタとアルヤは捜査に協力したからこそ許され……いや不安定になったあの国の安定に必要だからこそ陛下はアスマの首を持たせて帰国させた。
アスマは処刑された。他国で王太子妃を狙い城で騒ぎを起こした。さらにはこの国で生きることを選んだオメガの子らをも操った。それも建国祭と言う国の祭典に泥を塗る形で。
――――本音を言えば洗脳などを施すものを生かしておけばユラさまやデニズたちが狙われてしまうから。それを悪事に使うのならば生かしておくわけにはいかない。当然の処断である。
「竜から受け継いだものを返上させる。少なくともあの王子はそうするだろう」
ヤタのことだな。彼がアルヤを苦しめるものを放置するはずがない。
「あれはばあちゃんの血か?」
「バカ、妾には息子はひとりだけだ」
つまりは母さんな。
「同じ血族の竜だ。人間に恋をして、愚かにも子孫を残しおって」
「……それはばあちゃんもでは……?」
「そうだな。だからこそ罪滅ぼし。オメガを虐げるあの国を焼いてやれれば良かった。それでも我らは同族を殺せないのだ。……済まなかったな」
「ばあちゃんのせいじゃない。きっとこれからヤタが変えていく。オメガだって人権や戸籍を持てる国に」
並大抵な努力ではなしえない。しかしそれが今まで彼らが切り捨ててきたもの。
「ふふっ、そうだな。そう願う」
――――その後デゼルトでは王位継承が行われた。先代国王はクーデターと共に誅され多くの王族が処刑される中、オメガの妃を迎えた王が即位した。
そんな最中、竜の怒りだの何だのでデゼルトは革新の時代を歩み始めるのだが。完全にやりやがったなと言うのは……孫の勘である。




