【39】本当の建国祭
――――事件が起こった王都では建国祭のほとんどの催しが中止となってしまった。国外から招いた国賓たちは安全のため、陛下や王太子がお詫びをしつつ帰国の途についた。
騒動が片付き落ち着くまでの間、俺はデゼルトから移住したオメガたちに植え付けられた洗脳の欠片を取り除いた。
「よし、全員治療したな」
……ばあちゃんのスパルタ付きでな。
しかし、デゼルトから移住した子らは全員城での勤務だったな。辺境に行ってたとしても治療はしに行ったが。
「これで義兄上もみな、安心して暮らせます」
アーサーが告げる。
もう知らぬまに自我を失わないことをユラさまもデニズたちも、イルもみな涙していた。記憶のないものたちも含めどこか恐いものから解放されたかのように安堵していた。これで彼らを苛む恐怖はなくなったのだ。
「しかしロシェのおばあさまが竜だとは……知らなかったんですけど」
「……とりとめて言うことでもない」
聞かれなかったしな。竜の特徴もないのに聞くものもいないだろう。
「しかしロシェが保護したと言うオメガの子ら、姫やリュカであったか。全員かわいいのう。もれなくなでなでしてきたぞ」
「いつの間に……って、リュカさまは俺の天使なのにいつの間に~~っ!」
俺だってなでなでしたいのにいいぃっ!
「まあお前がこちらで元気にしているようで何より。妾は再び辺境へ帰ろう」
「何だ、もう帰るのか」
「うむ、最近は息子にかわいいシェリルと言う弟子ができたそうでな。またな、孫よ」
「はいはい、父さんや母さんにもよろしくな~~」
そう言ってばあちゃんはひらりと翼を広げて空に舞い上がると一瞬で見えなくなる。
「シェリルがばあちゃんのお気に入りになった。次泣かせたらボコボコにされるから気を付けろよ」
「……もうあんな間違いはしない。しかし、ロシェが会ったと言う竜はおばあさまのことだったのか?」
「ん?それ以外にもたまにいるよ」
「……普通にそこら辺歩いてるように言う」
案外そうかもしれんぞ?
「それに、アーサー。忘れたのか?今日はこれから……」
「王都の建国祭ですね」
延期になった王都の建国祭。
しかし王都の民にとって祭りは大切な行事だし商人としては稼ぎどころ。
王族の参加行事は縮小されたが、それでも王太子やユラさまが参加されるものもある。俺とアーサーはそちらの警備に参加する。
その傍ら休憩時間にしれっと購入した屋台料理を持ってユラさまやアーサーの元へ戻ってきた。
「これはリュカさまへのお土産では?いいの?」
「もちろんリュカさまの分もあります。これはユラさまに。王太子さまとご一緒にどうぞ。毒味は済んでおります」
「では、遠慮なく」
嬉しそうにパタパタとかけていくユラさまに、あーんされた王太子は頬がにやけそうになっていた。そんな様子を微笑ましげに見守るデニズたちの姿も目に入る。みんなすっかり元通り……いや、これまで以上に楽しそうだ。
「お前は会わなくていいのか?」
俺が告げればアーサーが驚いたように振り返る。俺たちの後ろには目元を隠しつつも微笑む麗人がいる。
「もう私のことなど覚えてはいまいよ。それよりも今は幸せに生きているのならばそれでいい」
そう言うとひらりと身を翻し雑踏へと紛れてしまった。
「そう言う見守り方もあるってことだ、アーサー」
「しかし……どこか切ない」
「なら、今度俺が花街遊びにユラさまを……」
「兄上にチクるが」
「……冗談だ。あの国が今よりもいい国になれば……アイツも会う気になるかもな」
多分あれは……罪滅ぼしのような意地だから。
「それなら……俺もヤタとアルヤを応援しよう」
「だな」
その後俺たちは王太子とユラさまの護衛を務め2人を王宮に送り届ければ、2人でリュカさまに念願のお土産を披露しに向かうのだった。




