【26】騎士と妃
――――王太子妃さまの装いは視察と言うよりもどこか街にいてもおかしくはない良家の子息のようだ。もしかしたらこうして息抜きもさせてあげる予定だったのだろうか。
「何かスイーツでも食べてみます?」
「その……良いのでしょうか」
「もちろんです、王太子妃さま……ここではユラさまとお呼びしても?」
「そうですね……目立ってしまいます」
見た目は恥ずかしそうにしながらも微笑む美青年。周囲の視線も集めるが……俺が騎士の格好をしているのであからさまに寄ってくるものはいない。
「でも、普段からユラで構いませんよ」
「しかし……」
「ロシェに呼んでもらいたいのです」
な……なんとも萌えを刺激するかわいさであろうか。
「分かりました、ユラさま」
「ええ」
ユラさまが笑顔で頷く。
「……けれどロシェはいいの?」
俺の騎士服を心配してくれているようだ。
「俺は顔が知れているので」
オメガで騎士と言えば色々とな。たまに騎士団の応援にも駆り出される。
「ジェラートでもどうです?」
地球で言えばイタリアンジェラートに近い。
「夏にはおすすめですよ」
「私だけいいのでしょうか。ロシェはリュカさまの……」
「今はユラさまのエスコート中ですので。それにリュカさまもユラさまから王都のスイーツの話を聞いたら喜びますよ」
「それは……っ。お茶の話題にもなりますものね」
そうそう。最近はリュカさまは王妃さまやユラさまともお茶を楽しんでいるからなぁ。
「おすすめはありますか?」
露店でユラさまが問えば店主が南国のフルーツを使ったジェラートをお勧めしてくれる。
ユラさまが南方の出身のようだと分かったから勧めてくれたのかもな。
「ではそれをください」
「はい、ただいま」
店主が南国のフルーツジェラートと俺の分は王道のショコラジェラートを用意してくれる。
「いつもサンキュ」
「いいや。しかしその格好で普通に露店に立ち寄るのはお前くらいだな。どこのオメガのご子息だ。ナンパしたのか?」
「俺をナンパ師扱いすんなっ!」
店主とケラケラと笑いつつ代金を払えば、日陰でジェラートをいただくことにした。
「んんっ、おいしい……っ」
ユラさまはリュカさまと血縁はないのに、リュカさま並みの可愛さである。
周囲も惚けていると言うか、同じものを購入しに行くものもいて店主はウハウハだろうな。
俺もジェラートをぱくり。ん、やっぱ旨い。
「でもロシェは店主とも親しげでした」
「よく行くからな、城下の露店」
たまにリュカさまのためにお土産を買って帰ることもある。
「今回の建国祭、私のためにリュカさまの護衛をエレナに任せたとか。……ごめんなさい」
「ユラさまのせいじゃないさ。エレナさんも強いからね。安心してリュカさまを任せられる」
それに心配なのはユラさまの祖国の動き。
これはまだ本格的に国外の国賓を招く前にせめてもの休息をと言うことだったのかもな。
「それよりユラさま」
「はい、ロシェ?」
「ジェラートにはもうひとつ美味しい食べ方もあるんですよ」
「……それは?」
「これです」
ショコラジェラートをよそい、ユラさまの口元へ運ぶ。
「シェアですよ。若者たちはよくこうしてシェアしていろんな味を楽しむんです」
地球では推奨される雰囲気じゃないがここは異世界!楽しめるものは楽しむ!
「では……」
「ええ。あーん」
「はむっ、ん、ショコラも美味しいです!」
「でしょう?」
「なら私からも、あーん」
「ありがたき誉れ」
せっかくのユラさまからのご厚意。庶民の楽しみ方を実践してくれているのである。これは騎士として受けるべき誉れである。
「あむっ、ん、トロピカルって感じでうまー」
「ええ。夏にはぴったりです!けど……」
「どうなさいました?」
「夫ともまだこんなことしてないのに……ロシェに初めてをもらっちゃいました」
ね、俺惚れていい?不倫はダメだけど愛でていい?ファンクラブ作っていい!?
しかしその時目の前で崩れ落ちる音がして驚いて顔を向ければ。
「俺だってまだなのにっ!」
おい、せっかく王子らしくしてたのにまた素が出てんぞ。
それと……俺とあーんしあっこしたいだなんて、まだまだ早いわっ!アーサー!




