【25】王太子妃
――――アーサーと王太子妃さまの登場に、周囲がしんと静まり返る。そうだよ王太子妃さまの電撃訪問なんて聞いてない!
2人の登場に一瞬希望の光を目に宿した反省中のボンボンたち。
しかしそれで俺が許すと思うか?
「事情は分かりました」
ギルバートたちが説明してくれてアーサーが頷く。
助けてもらえることを希望しているんだろうか、この3人は。
「私もここの警備を務める身。そのように身分を理由に他者を貶めようとするものがあれば、義兄上たちも安心して過ごせまい」
「そんな……っ!オメガが悪いんだ!」
「お、お助けを!我々は醜悪なオメガによって……」
「……外国人の王太子妃のくせにっ」
ベータの子息2人に続いてアルファのボンボンが苦し紛れに告げる。
想像通りの展開にならなかったからか、貴族と言う理由で助けてもらえなかったからか吠えるわ吠える。
俺の悪口なら重石をプラスするだけだが王太子妃さまのことは……。
「お前たちっ」
アーサーが剣呑な表情になる。王太子妃さまなんてどよんとしちゃってんじゃん。うちの国に嫁いでからまだ一年、俺と同い年だが。嫁ぎ先でそんなことを言われたらとてもじゃない……。
「王族の方を侮辱するとは近衛騎士としての資質もないようですね」
コンラートさんの声に3人がびくつく。
「ぼくが言ったわけじゃ……っ」
「そうだ言ったのは……」
ベータの2人の視線がアルファのボンボンに集中する。
「裏切るのかお前らっ!」
仲間割れかよ。しかしながら。
「オメガを貶すと言うことは王太子妃さまや王妃さまへの侮辱にもなります」
コンラートさんの言葉にベータたちが顔を青くする。
「そ……そこのオメガの騎士のことだ!」
「そうだそうだ!近衛騎士にあるまじき……」
「それはあなた方のことでしょう」
目の笑っていないコンラートさんに2人はびくつく。
「さて、いつまでもそこに入られても王族の方のお目汚し。懲罰房行きは覚悟してください」
「そんな、私は伯爵家のっ」
アルファのボンボンが叫ぶ。
「ぼくだって子爵家で」
「ぼくもだ!」
「王族の方を侮辱したのにその貴族の肩書きは役に立ちます?」
コンラートさんの言う通り、貴族だから許されるわけじゃない。だからこそ許されない。その責任の所在は家にも向く。
「連れて行くように」
コンラートさんが何人かの近衛騎士たちに命じる。特に王太子妃さまの護衛たちが殺気だってんな。
「あとロシェ、重石は回収しますので」
「えぇー……」
「後で懲罰房で使います」
コンラートさんがにっこりと告げる。
「それならいいよ」
彼らがサアァッと青ざめる。
連れていかれる彼らを愉快に眺めながら、コンラートさんが教えてくれる。
「あれらは試用期間でして」
「そっかぁ。まあうちの親分もコネ入団をバッサリ切れるわけじゃないから試用期間などで入れざるを得ないこともあるよね」
けれど王族の方への侮辱を働いたのでこれでバッサリと彼らを切れるわけだ!
「ああ、愉快愉快」
「それは何より。それとロシェ。王太子妃さまが落ち込んでらっしゃいますので……少し気分転換にでも」
「え?でも視察なんじゃ……」
「それはアーサー殿下が務められます」
最近真面目なアーサーはお仕事だからと苦渋を飲んで受け入れる。成長したな、お前も。
「それにロシェ。……王族の方への洗脳未遂」
ひいいぃんっ!?俺はリュカさまを褒め称えただけだぁっ!しかし王太子妃さまはやはり不安そうだ。
「被害を受けた彼らも大丈夫です」
ギルバートは被害者の騎士団員たちを示す。
「あれが噂のロシェさま!」
「すげぇ」
「カッコいい!俺もああなりたい!」
ふん、そんなに褒め称えるなよ。
「……それはちょっと……」
え?ギルバート?
でもま……王太子妃さまがこんな落ち込んでたらきっとリュカさまも悲しむし王妃さまから『めっ』されそうだ。
「では少し気分転換にでも」
エスコートのように手を差し出せば。
「……っ、はい、ロシェさま」
何だか少し元気が出たのかな。王太子妃さまが俺の手を取る。
「……ライバルは多すぎやしませんか……いや、だからこそ真面目に仕事せねば」
アーサーがぶつぶつと呟いていたのは……何故だろうか?




