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異世界で目覚めたら戦車に変身できた  作者: photon
在らざる異物
137/139

Ep137 余命0日、あるいは

 星空を覆う真っ黒な雲の下、所々崩れ落ちた大きな城がそこには在った……だけれども、そこに生き物の気配等は無く、まるで、朽ちた(いにしえ)の廃城の様に見える。

 そんな不気味な闇の世界に、1頭の暗黒竜が飛んで来る。背に人々を乗せて。

 仕組みはよくわからないけれど、暗黒竜はこんな人間の目がほぼほぼ機能しない真っ暗な環境でも、世界をよく見渡せるらしい。


 状況を認識したボルゲーノは不安を感じた。戦闘が収束している。最早(もはや)爆発は無く、静まり返っている。感じるのは強烈な魔王の魔力だけ。(あるじ)は……主は今、どこに居るのだろうか?……

 まさかあの主が、そう簡単にやられる訳がないと、そう、思いたかった。だが、今のボルゲーノには、それはできなかった。

 かつて主は死んだ。それは事実だった。だから、こちらの主も、またあの様に、黒く焼き尽くされてしまったのではないか。或いは自分達の様に遠く何処かへ飛ばされて、その先で殺されてしまったのではないかと、嫌な考えは収まらない。

 だが、幸いにも、魔王以外に敵の気配が存在しない。ならばきっと無事だ。何せ(われ)()影の爪痕の隊長。逃げ隠れするのは得意分野だ。


 不安と希望を胸に、暗黒竜は城にへ羽ばたく。悩んでいても仕方がない。主を、主の行動を、ボルゲーノは信じる事にした。

 城に近付いて旋回し、外周を見てみるが、何の反応も無い。本当に、何も居ない。死体も有るには有るが、恐ろしくその数は少ない。

 そんな中、ある痕跡を発見する。履帯の(わだち)だ。雪の上に並んだ2本の線。主の駆け回った跡だ。ある崩れた城壁にて、城内に向かって1組の線が伸びていた。そこで足跡は途絶えている。


「敵が全く居ないなんて、何が起こったの?」


 不気味な状況に、女神様が疑問を口にする。一体誰に向けて聞いているのやら。

 しかしボルゲーノは答えてあげる。言いたい事が在ったその(ついで)に。


「恐らくヒョウカの仕業(しわざ)だろう。皆氷になって砕け散ったんじゃないのか?そんな事より我が主の足跡が有る。崩れた城壁に向かって、それ以降途絶えている。主も城内に突入した証拠だ」

「でも、戦闘は……もしかして、また私達の様に……」

「見つけられないのか?主の気配でなくとも、今のヒョウカは氷精なんだろう?何か感じないのか?」

「いえ、それが、全く……」

「クソッ!!」


 ボルゲーノは吠えた。

 自分達が敵にやられていなければ、恐らくこんな事には成らなかった。だが、この事態を招いた責任の一端は自分自身にも有る。

 ボルゲーノも成長したものだ。無闇に怒りを誰かに押し付けたりはしない。自分の弱さを、自分の責任を、彼は学んだのだ。そう、学んだのだ。知ってしまったのだ。自らの、責任を。罪を、責務を、学び、()れどそれでも前へ進むと決めた。だからもう、彼は前程弱くはない……痛みを知ったのだから。弱さを、知ったのだから。そしてそれを、受け入れたのだから……


「仕方がない!主が切り開いてくれた道だ!突入するぞ!捕まれ!」


 急降下したボルゲーノは先程自分が蹴飛ばした城の崩壊部を目指して加速する。



 魔王城の地下へと繋がる螺旋階段を突破したエイブラムスとヒョウカ。彼らは地下に居た為生き延びていた落ち葉の目の生き残りと合流し、粉っぽいエネルギーバーを口にしていた。

 粉っぽくはあるが、されど美味しい。喉は渇くが、食べ飽きたとは言え味は良好。いつもながらのコンバットレーションを咀嚼(そしゃく)しながらゆいとは落ち葉の目の話を聞いていた。


「よって、魔王本体に到達するまでにどれ程の脅威が待ち構えているのかは不明ではありますが、また同じ手段で分断される可能性は低いと思われます」


 落ち葉の目の生き残り達は認識改変の魔法を使用し、敵の待ち伏せを()(くぐ)って奥まで進んでいたが、ヒョウカには普通に見破られて合流できたという訳だ。


「成る程ね。流石に敵のふりをして情報収集をするにしては、今回は情報が少な過ぎた訳ですか」

「ええ、申し訳ございません」

「いやいや、謝る様な事じゃないですって。できる事をこなして来た訳だ。ならそれで十分です」

「しかし、よくここまでたったお2人で辿り着けたものですね。この際勇者の到着を待たずとも、魔王を討伐し、任務を完遂できるのでは?」


 そう尋ねる落ち葉の目の生き残り、フォードナンスの言葉には、僅かながら、確かな期待が()もっていた。


「いいや。多分無理です。呪いは俺に死ねと言った。そしてそれが何故か、ある程度察しが付く。だから、成し遂げるのはきっと俺じゃない。だから、できる前提で動いてはならない。この状況自体が、ある意味その考えのおかげと言えるかもしれませんね。皮肉な事にね。俺にはできないと思っていた。だから俺は囮をやっていて、本体には同行しなかった。それは今も変わらない。成し遂げるのは俺じゃないそうあっちゃだめなんですよ」

「……ですが、再びこの道を先行するのですよね?敵を殺しながら」

「ええ。できる事はやってみますよ。例え最後までできなくともね。いいんですよ、道半ばで殺されたって。今日が俺の命日でしょう。どこでどう死のうが、俺には関係無い」

「……」

「よくわかりませんが、この先我々に何かお手伝いできる事は有りますか?」

「伝言をお願いしたいです。お前達がやれって。勇者と女神に、ね。まあいいでしょう」


 いつものどこか抜けた様な表情でそう言いつつ立ち上がる隊長を見て、フォードナンスはやる気と共に緊張も消えてしまった。


「そろそろ我々は行きます」

「その言伝(ことづて)、しかと(うけたまわ)りました」

「ヒョウカ参謀。続けるよ」


 ゆいとの言葉を待つまでもなく、ヒョウカは手を翼に変え立ち上がっていた。照明の光で白く輝く氷の様な翼を広げて。


「本当に命知らずね、アンタは。まるで冒険者ね」

「一応正式に冒険者なんだけどなぁ」

「そうね。でもそこらの冒険者達と違うのは、その行動が蛮勇や不用心から来ているものではなくて、諦めを通り越した無関心(ゆえ)と言う事ね」

「そんな俺に付き合ってくれるヒョウカ参謀も大概だと思うよ」

「そうね。行きましょう」


 冷静なゆいとのツッコミにヒョウカは鼻で笑い苦笑いする。

 再び現れた戦車はタービンを高鳴らせ、カチャカチャ履帯を回転させて更に奥へと進むのだった……

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