Ep136 怒り
傷だらけの暗黒竜は結界を再展開する。何者にも阻まれず、広域に結界は展開される。敵は闇の中で消えた。
敵はただ見えなくなったのでない。ただ観測できなくなったのではない。文字通り、消えて無くなったのだ。
ボルゲーノは理解していた。この結界は、凡ゆるエネルギーを消滅させる事ができる結界であると。そう認識して再展開した、これまでとは異なる結界。
この結界の中では光を含む全ての電磁波は勿論の事、質量も、熱も音も何も無い、完全な無。
"ドドドドン!!"
全集からの無数の衝撃波に全身が襲われる。
瞬きに等しいたった一瞬の結界の展開。されど、その範囲内の全てを、尽く消し去ってしまった結界の展開。後に残るのは、自分と、アズラメイアの亡骸にしがみ付く仲間達。
ボルゲーノは理解していた。敵は消した。アズラメイアは死んだ。あの気に食わない小鳥のおかげで、事無きを得たと。
落ち行くアズラメイアの体を抱えるボルゲーノ。彼の頭の中には様々な考えが飛び交い、混乱していた。
敵は消した。仲間は救った。私は。生きていた仲間だけは、救えた。痛い。新たな力を得た。使い方、は理解できた。危険性も、理解していた。長く使うと、仲間も危うい。早く主の元へ。アズラメイアの死を、何と説明したらよいのか。アズラメイアは、自身の成すべき事を、成した。首から血が。この力で、主も……
仲間達と共に落ち行くボルゲーノも、地面への激突と共に意識を失った……
魔力を遮断する結界を強行突破したゆいとと氷精ヒョウカであったが、勇者や女神、仲間達の魔力が消滅した事に焦り、全速力で結界内の外周部を駆け抜けていた。
「侵攻中の友軍の魔力、全て消失。勇者と女神は、遠い空へ飛ばされたみたい。多分、もう1人のアタシは、きっと死んだわ……」
「つまり、どういう事?」
「多分、罠に引っかかって、遠方へテレポートさせられてから、殺されたわ」
「……っ!……?」
ヒョウカからの報告が直ぐには飲ま込めなかったゆいとだが、間も無く現状を受け入れる……
「……わかった。本体は全滅。俺達は孤立無援。そういう事?」
「たぶん、そうなるわね……」
ヒョウカの気の重そうな言葉に、ゆいとは現状を大凡正しく認識していた。
「……まさか死神は、これを望んで?……俺が、魔王を倒すと?……そんなバカな」
「……」
“ドバーン!!”
戦車は主砲を発射する。
「罠でも何でも、テレポートさせられちゃうんじゃあ、近付けないよね……」
「そのテレポーターをなんとかしない限りはね……待って!1時方向!何かが近付いて来るわ!」
ヒョウカのその言葉にゆいとは直ぐ様 RWS を向けるが、熱源反応は無い。だが、確かに足跡がそこには在った。
“ババババババ!”
容赦無く放たれた重機関銃。これを受けて接近者は多量の鮮血を散らしつつ雪の上に倒れる。
パターン一致。落ち葉の目隊長のエスミーネだった……
「ヒョウカ参謀!あれは何!?」
「敵性無し……エスミーネと合致」
「っ!!ヒールポーション!」
回避運動をとる戦車の車上から、ガラスの小瓶が投げつけられる。
正確に投球されたその透明なガラス瓶は空中で何かに接触し、破片を撒き散らして中身を飛び散らせた。
姿を顕にした落ち葉の目隊長エスミーネ、ゆいとは質問を考える。そして出てきたのは、残酷な問だった。
「お前!どうして生きている!?どうして俺に近付いた!?」
その問いにエスミーネはショックを受けた。どうして自分は生きているのかと問われれば、どうして死ぬ事に成っていたのかと、疑問に思わざるを得ない。
しかし、エスミーネは直ぐに理解した。この問の真意を。出しうる全てを持ってして、その問いに答える。
「報告します!!敵転送術師により、本体は壊滅!敵の!……待ち伏せていた敵の片方を排除するも!作戦は失敗!現状報告の為!わた」
報告の最中、エスミーネは地面から生えて来た黒い鉱物に体を貫かれ、即死した……
「クソォッ!!」
回避運動を続ける戦車は苦痛に吠えた。
「参謀!本体は全滅!俺達には地下に居るらしい魔王に手が出せない!そうなんでしょう!?」
「……」
ゆいとの言葉の裏の思いを考えつつ、ヒョウカは言葉を整える。
「手は出せるけれど、勝算は無いわ」
「テレポートさせられた部隊の状況は!?」
「不明!だた!女神と勇者はこちらに近付いて来て居るわ」
「あーあーもうめんどくせーなー!」
ヒョウカは今まで聞いた事も無かった乱暴なゆいとの口調に驚きを隠せず、大きく目を見開く。ゆいとの精神状況が不安になってしまった。あの、鋼の小隊長の言葉とは思えないこんな1面に、ショックは強かった……
「参謀!地上の敵は殲滅できる!?」
「ぇっ……!?ええっと、複数回に分ければ」
「了解!俺達は俺達にできる事をする!敵を殺すぞ!」
「っ……!」
「落ち葉の目の生存者に警戒!さあ勇者様と女神様とやらのお出ましだ!」
「…………」
怒りと焦りが顕になっている。けれどそれでも、ヒョウカには理解できた。これでも彼はまだ冷静だと。それは恐らく、その怒りが敵ではなく、自分自身に向いているからだと。これは決して復讐ではないから。だから彼はまだ冷静で居られるのだろうと、ヒョウカには理解できていた。
こんな時、あの灰色の小鳥がまだ居たら、何か言ってくれたのかな……?
「このまま城の外周を周回。城壁を破壊しつつ、ダイアモンドダストで敵を殲滅……状況を確認後、突入したい。もし落ち葉の3人がまだ城内で生きていたとして、殺さずに済む術は有る?」
「感知できない以上、その術は無いわ。残念だけど、それをやるなら彼らには犠牲になってもらうしか無いわ。まだ城内で生きているのであれば、ね」
残酷な回答だが、これが事実なのだ。他に言葉は無い。
「わかった。悪者は俺1人で十分だ。影の爪痕所属評価員ヒョウカに命令する。城内の生物を、無差別的に抹殺しろ。これは命令だ」
「…………」
「命令を受令したならば返事をしろ!」
「……」
こんな横暴な隊長は初めてだ。だが致し方有るまい。部下を失うのは初めての事なのだから。
そして何より、部下に仲間を殺させるだなんて、初めての事なのだから。だからヒョウカは、これを拒絶した。
「いいえ!あたしにはその命令!受令できないわ!繰り返すわ!あたしは命令を拒否し!あたしは!自分の!あたし自身の判断で!じょu」
「ヒョウカ!!それは絶対に駄目だ!!何故ならば!俺が責任者だからだ!お前には命令に従う義務が有り、その命令の全責任を俺に押し付ける!それがお前の仕事なんだよ!そしてそれが責任者である俺の仕事なんだよ!」
そういうものなのだろうか……?
だぁヒョウカは理解した。これだけ言っても変わらない隊長に、これ以上は言葉を重ねるだけ無駄だと、ヒョウカは理解した。
「……残念だけど、それがあなたの望みであるならば」
「頼むよ。もうこれ以上、俺の為に傷付かないでくれよ……」
弱々しい声で頼まれる。ヒョウカはエイブラムスには勝てなかった……
吹き荒ぶ吹雪の中、戦車は全速で駆け抜けて行った……
ゆいとも別に自己犠牲を美徳だとは思っていません。ただ、それでも仲間を犠牲にするよりかは遥かにマシな選択だと思ってるだけです。




