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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第14話「村」

 二人の間に沈黙が落ちる。ノエルは落ち着かない。

(この空気は、苦手だなぁ…)


「あ、あのさ」

 ノエルがもう我慢できずに言葉をはさむ。

「レティシア姉さんのこと、何か知らない?」


(レティシア―――!そうか、レティシアとは)

 その言葉にアルドはハッとする。


 アレクシスを改めて見るアルド。

(立ち居振る舞い、隙の無い言葉選び。この男はただの村人ではない)

(女性の名前はレティシア…。さっき呼ばれていたこの男の名は、ノエル…、レティシアの弟)


 アルドはゆっくりと息を吐いた。

(帝国の中枢に連なる、この名の並びを知らない密偵はいない)


 アルドは目の前の男が誰であるか理解した。

(男の名。アレクシス・ヴァレンティーヌだ)


 アルドはアレクシスと、目が合う。

「貴方は―――もう、私が分ったのでしょう」

「はい。初めまして、ヴァレンティーヌ公爵令息、アレクシス様」


 アレクシスに近づき、お辞儀をする。アレクシスがアルドに右手を差し出した。その手を握り、アルドはまたお辞儀を重ねた。

「私の名はアルドです。公国の者です。御恩のある家門の方に、ご無礼を」


「これで話、ちゃんとできるねぇ」

 ノエルがその上に手を重ねてにっこり笑う。

(次男もなかなかの策士だ...)


「御恩とは?」

「大公家嫡男のルシアン様が、大変お世話に」

 握手をしている手に力を込める。そっと左手を添え、首を垂れるアルド。そしてゆっくりと伝える。

「レティシア嬢は生きていらっしゃいます。......おそらくですが」


 今度はアレクシスが、握る手に力を入れる。

「本当か?」

「どこにいるの?」

 ノエルが近づく。心配でたまらないといった表情を見せる。


「それが......雪の中から助けられて、近くの村にいるとは思いますが」

「そうか...。村の場所は?」

「分かりません。私も居場所を探しに来たのです」

 アルドは申し訳なさそうに首を振る。

 アレクシスが小さく頷き、握手を解く。


(レティシアは生きている…)

 安堵のため息をつくアレクシス。


「信じるの?」

 ノエルは鋭くアレクシスを見つめる。アレクシスは頷く。その目は潤んでいる。

「信じる。おそらく貴方がたは、ルシアンを―――保護しているのかな」

「はい、そうです」

「本当に!?」

 大きく目を開けて、身を乗り出すノエル。

「は、はい。ルシアン様は怪我はされていますが、命に別状はありません」

「あぁ、よかったあ...。ほんっとうに、よかったあぁ」

 頭を抱えてしゃがみ込むノエル。その顔には安堵が広がる。

「ああ、彼が無事でよかった」

 アレクシスも...ふっ、と笑顔を見せる。


 公国に流れてくる彼のイメージは、もっと冷静で無機質な印象なものばかりだった。しかし...アルドはアレクシスの顔を見て、思った。

(彼は…噂よりも愛情深い人なのだ)


「君に伝えておこう。この雪崩は人災だ」

 突然、アレクシスが険しい顔に戻る。


「……!今、何と!?」

 アルドは思わぬ言葉に、驚きを隠せない。

(人災で雪崩が起きるとは、それは……火薬爆弾が使われたということか)

 アルドは理解した。帝国でも、何かが起きようとしているのかもしれない。


 そして...いきさつはまだ分からないが、ルシアンがその紛争に巻き込まれたことへの怒りが湧いてくる。

「なるほど、火薬爆弾による雪崩と...」

「そうだ。辺境軍と過激派組織の紛争があった」

(あの日の紛争はそうだったのか)


 紛争があったのでは、待ち合わせていた帝国側の密偵が来れるわけがない。約束を必ず守る密偵が現れなかった理由を理解した。火薬爆弾を使用する過激派組織とは、かなり大規模な紛争だったのだろう。


「では、近くの集落の人たちは無事だったので───」

 そう言いながら、ルシアンを救助していた村人たちの姿を思い出す。

(まてよ、ここの景色―――)


 アルドはハッとする。

そして丘から周辺の山々、稜線を確認する。

 見渡す限り、雪に覆われた山々しかない。

 ところどころ崖になった山肌が見えるだけだ。

 ぐるりと一回り、見渡す。

確認のためもう一周、見渡す。


「おかしい……」

 アルドが何かに気が付いた。

その様子を見守るアレクシス。

(そうか…。そういうことか!この地形には、集落があるはずが...ない)


 ―――風の通り、崖の角度、雪の溜まり方。

 どこにも、人が定住できる平地がない。

 そして、廃坑道で見た人影―――。

 ということは。


 振り返るアルド。

 アレクシスは、その答えを待っているかのように見つめている。

 

 アルドは少し歩き、自分が出て来た場所―――

 雪に覆われ半分隠れた――

 暗い口を開けた廃坑道を、さした。


「分かりました。村への入り口は、ここです」


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