表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/105

第13話「ずっとルシアンを探していた男、アルド」

 男の名はアルド。

  四十を少し過ぎた元エヴラール家の家臣である。表向きは国境警備隊だが、その本当の任務はただ一つ。

 ――大公家嫡男ルシアン・エヴラールを捜索せよ。


 失踪当時、嫡男ルシアンはまだ7歳だった。

 政治的な陰謀により命を狙われ帝国へ逃がされた、悲劇のルシアン・エヴラール。

 暗殺者を差し向けたのは、大公妃の実家――カルディナ伯爵家だと囁かれている。


 それから十二年、大公はいまだルシアンを廃嫡しない。かといって、次男アーネストを後継者にも据えない。その沈黙が、公国を二つに割っていた。

 元大公妃リュミエル伯爵家を支持する者たち。

 現大公妃カルディナ伯爵家を支持する者たち。

 どちらの派閥もルシアンの居場所を探している。



 ある密偵から、ルシアンがヴァレリア領にいるという情報を得た。そこでアルドは仲間と共に廃坑道を通り帝国へ渡ることにした。この廃坑道は、公国と帝国を結ぶ密入国のルートである。


 しかし約束のその時間、帝国からの案内役は現れなかった。

 しびれを切らしたアルドは、仲間とともに廃坑道に入った。すると大きな地響きが聞こえた。

(これは...まさか雪崩か?)


 廃坑道の出口が塞がっていたら公国へ引き返すしかない―――そう思って祈りながら進んだ。


 アルドは分かれ道で歩き去る人影を見た。

 しかし人との接触は避けたい故、できるだけ気配を消して慎重に進んで行った。


 やがて光が差し込み、廃坑道の出口が見えた。雪を案じていたが出口は塞がってはいなかった。足元に誰かの足跡があった。

 外へ出ると、そこは高台だった。遠くの方から剣がぶつかり合う音、男たちの怒号が聞こえていた。

「何か起きてるみたいですね、今日は撤収しましょうか?」

 騒ぎに巻き込まれるのはやはり避けたかった。

「そうしよう。見つかってはまずい」

 そこへ、周辺の偵察に行かせた仲間が大慌てで戻って来た。

「大変です!男が…、雪崩に埋もれているようです」


 丘を下ると救助にあたる人達の姿があった。しかし自分たちは密偵の身...いや、見捨てては行けない、しかし...、見つかることは避けたい。アルドは迷った。が、まだ雪崩が起きて間もない。

「まだ息があるそうです」

(今なら助かる可能性が高い……!)

「助けに行こう!」

「はい!」


 アルドはこの時の選択を、心から自賛することになる。


「手助けします!」

 急いで駆けつけると、村人と思われる数名が懸命に雪を掘っていた。まず、顔から胸を雪から掘り出して、呼吸ができるようにするのが基本だ。これを伝えて、顔のあたりを急いで掘り進めた。


「公国の方が、何故ここに?」

 赤胴色の髪の女性がアルド達に気が付く。


「あ…雪崩の被害を確認に来ました」

 アルドはぎくりとした。適当な理由を伝えたが、女性はそれで納得したらしい。

(だが、公国の者となぜわかったのだろうか)


「なぜ公国の者と?」

 雪を掘りながら問いかける。


「あ、その麻布が公国の民芸品だからです!」

 女性はあっけらかんと答えた。

(なるほど、この女性はなかなか観察力がある)

 アルドは感心した。


 少し離れた所でも、雪に埋もれかけた女が見つかったらしい。赤胴色の髪の女性たちは慌ててそちらへ向かった。アルド達はそのまま男の救助を手伝った。新雪で雪が柔らかく、それほど難なく胸元まで雪が掘れた。


 ――その時、胸元にペンダントが見えた。


「この紋章は……リュミエル伯爵家!」


 アルドの鼓動が跳ねた。

「まさか……⁉そんな……」

 さらに大急ぎで雪をかき分ける。すぐに顔が見える。

 目を閉じてはいるが―――


(これは…このお顔は。亡き奥様に……生き写しだ!もしや…この方は)


 雪に埋もれていた男こそ、長年探していたルシアンだった。


「若様だ……!」

「若様⁉」


 ―――こうしてルシアンは、アルド達によって公国へ連れ戻されることとなった。


 アルドの屋敷で医師の治療を受ける。

「奇跡的に頭は打っていません。骨は折れていますが、命に関わる損傷はありません」

 ルシアンを懸命に介抱するアルド達。


 目の前にルシアンがいる―――この奇跡が信じられなかった。

 やがてアルド達は、うなされるルシアンが誰かを呼ぶ声を聞く―――。


「レティシア...」

「逃げろ...レティシア」

 ルシアンは、昼夜を問わずにうなされ続けていた。


 アルド達はそんなルシアンが気の毒になった。

「どう思いますか」

「おそらく、あの時に救助されていた女性のことではないか」

「そうですね…」

「もう一度、廃坑道を通って女性の手がかりを探すことにしよう」


 こうして、翌日、アルドは帝国を目指して廃坑道を再び通り抜けることになる。




 廃坑道を抜けると、そこに男の姿があった。

 どうしたものかと迷ったが、手掛かりを得られることを願い、アルドは声をかけた。

「あのう…」


「なんだ、ノエル、ちゃんと岸壁を調べるんだ」

「なーに?兄さーん」

 男は一人ではなかった。

(やはり、逃げるべきか)


 しかしすぐに男は振り返り声の主を確認した。

 男は目を見開いていた。とっさに身構えており、その姿勢には隙が無かった。


(この男…ただ者ではなさそうだ。しまったな)

 アルドは声をかけたことを後悔していた。いざとなったら姿を隠して逃げよう、そう覚悟した。

「急に声を掛けてしまい、失礼しました」

「いえ。こちらこそ驚いてしまって」

「私はこの辺りで暮らしている者です。皆さんは何を?」

「ああ」

 男はにっこりと笑顔を作る。アルドは、その目が笑っていないことに気が付いている。


「妹を探しています」

 あまりにも迷いのない返答だった。

「……お名前は?」

「レティシアと言います」

 アルドの喉がわずかに鳴った。

(やはり……)


 男はその一瞬を見逃さなかった。隣で弟と思われる男が、アルドに視線を送っている。

「ご存知ですか?」

 笑顔は崩さない。

 しかしその問いは、剣先を突き付けられるより鋭かった。

 アルドの心臓の鼓動が早くなる。しかし、笑みを崩さずに返す。

「申し訳ありません。心当たりはありません。」

「そうですか。」

 男もまた笑う。

 ――互いに、一言も信じていなかった。


 アルドは、この男に声をかけた自分の選択に後悔した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ