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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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番外編「レオニス」

 あの日のことは、今でもはっきり覚えている。


 俺は十二歳だった。

 その日の朝は、いつもと変わらない夏の朝だった。

 母が朝食を作る。

 決まって干した猪肉と、畑でとれた野菜のスープだ。


 特別好きだったわけじゃない。

 でもそれは毎朝そこにあるものだった。


 父はいつも通り鉱山へ向かった。

「今日は遅くなる。難しいところを掘るんだ」

 そう言って、普通に笑って家を出た。


 俺は適当に返事をした。夜にはまた会えると思っていた。だがそれが父の姿を見た最後だった。


 あれは昼過ぎだった。

 最初に聞こえたのは、地面の奥の低い音だった。


 嫌な軋みがした。

 遠くで何かが壊れるような音だった。


 次に来たのは揺れだった。

 そして、その直後――山が崩れた。


 俺は、この光景は忘れない。

 父が山に飲み込まれた日。

 ベルンの父も、エミの父も、その中に消えていった。

 そのあと、みんなで掘った。


 女も子どもも関係なく、昼も夜も。

 道具が壊れれば今度は手で掘った。

 爪が割れても、血が出ても止めなかった。


 まだ生きてる―――この中にいる、助けてやらないと、と信じていたからだ。

 だが、やがて誰かが諦めた。

 ひとり、またひとり、諦めていった。


 その日から“掘る”ことは終わった。

 代わりに“待つ”ことが始まった。

 今度はひたすら救援を待った。

 来る日も来る日も待った。

 けれど誰も来なかった。

 やがて誰も、山へ行かなくなった。


 その頃から、流行病が急に広がって、残った人間の命を、静かに削っていった。

 俺の母もそうだった。


 自分が病にかかったと知ったとき、母は俺を遠ざけた。

 そして静かに息を吸って――それきりだった。

(うつってもいいから、最期まで傍にいればよかった。さぞ寂しかっただろうから)


 あの日から、俺の日常は戻っていない。

(人が死ぬっていうのは、こういうことだ)


 ただ、静かにこの世界から消えるだけだ

 ――ほんとに、どこ行っちまったんだ


 レオニスは、山を見る。


 そこにまだ、父がいる気がする。

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